【取材・文 畑史進】
『キングダムカム・デリバランス II』はウォーホース・スタジオ開発、Deep Silverが発売するオープンワールド型の一人称視点アクションRPG。日本では本年2月5日PLAIONからPlayStation 5、Xbox Series X|S、Steamに向けて発売される予定。
本作は2018年にPlayStation 4、Xbox One、Nintendo Switchで発売された『キングダムカム・デリバランス』の続編にあたる。
簡単にストーリーや世界観を紹介すると、現在のチェコを舞台にした15世紀のボヘミアを舞台にした内容で、主人公のヘンリーは領主の息子ハンス・カポン卿の外交任務に同行する矢先に盗賊から奇襲を受けて命からがら逃げ落ちる。身ぐるみ剥がされた(というか水浴びをしている最中に襲撃された)状態でのヘンリーとハンスは自分たちの身分を証明する術も失ってしまうが、外交任務遂行のために奔走することから始まる。
今回、発売前に本製品を提供いただき8時間ほどプレイした感触を話そう。
本作は続き物の作品だが僕も一応Nintendo Switch版をおさらいとしてプレイしたうえで、前作との繋がりが強いものかと聞かれると「前作との繋がりはあるけどいきなり今作を遊んでも問題ないような導入になっている」と感じた。前作を遊んでおくことにこしたことは無いが前作、今作ともに中世ヨーロッパ騎士ライフのシミュレーションとしての要素が大変強いので、前作~今作と遊んでしまうと平気で3~4ヶ月吹っ飛んでしまう。そのため前作プレイするよりもシステム的に洗練された本作から遊んだほうがおすすめ。
さて、そんな本作をざっくりと紹介すると先も書いたように15世紀ヨーロッパを舞台にした騎士ライフシミュレーションゲーム。日本人ゲーマーに向けて馴染み深い最近のソフトで紹介するなら西洋騎士版『Ghost of Tsushima』といった感じ。
『Ghost of Tsushima』も元寇というモンゴル帝国が中国、朝鮮を制覇してついに対馬に南下してきた。そして鎌倉幕府は何もしてくれねぇ。今までの武士の戦い方も通用しない(当たり前)。これは義務教育課程である程度は知っているし、有名なモンゴル人と武士が戦っている絵とかを教科書で見ているから知識に薄っすらとした下地があって、その前提で『Ghost of Tsushima』というゲームを見ると多少の嘘があっても「よくここまで作り込んだな」とその勉強結果に感心したのはみんなも覚えていることだろう。しかもそれを海外のゲームスタジオが成し遂げたのだから凄いの一言に尽きる。
一方でこの『キングダムカム・デリバランスⅡ』の方はというと、歴史として残っているボヘミア戦争というのがどんなものかは分からないし、Wikipediaで即席知識詰め込みしてまで知ったかぶりをするつもりも無いが、遊んでいて「これが中世ヨーロッパなのか・・・」と疑うこと無く素直に受け入れられる作り込みが感じられた。
我々日本人としてもせいぜい中世ヨーロッパの知識なんてディズニー映画の『白雪姫』や『眠れる森の美女』程度のアニメや『ハリー・ポッター』に出てくる小道具や『ロード・オブ・ザ・リング』に出てくるプロダクションデザインの知識しかない。ゲームで言うなら『悪魔城ドラキュラ』や昔の『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』がそうで、馴染い深い「中世風ゲーム」もあくまで“中世風”でしか無かった。『ブレードランナー』等のハリウッド映画で「なんちゃってジャパン」がでてくるのと同じ。これは国が違うことによる知識量、常識力の差が生じてしまう部分なので仕方ないが、ゲームの映像を観ただけで説得力が感じられるのは制作サイドの徹底したこだわりと作り込みが伝わってくるからに他ならない。
エンタジャムでは東京ゲームショウ2024で独占インタビューの敢行もしたがその際にも本作を制作するにあたって可能な限り現代にも残っている地形や、当時の建造物の調査を徹底。これに基づいて本作に登場する建築物やあらゆるデザインが「それっぽい」と説得力をもたせる作りに仕上がっていると話していた。話を聞いたうえでのプレイなので若干の思い込みが入っているのかもしれないが、確かに僕の心にもそのこだわりの成果が伝わってきた。
RPGとしての作り込みも凄い。ゲームは基本的に一人称視点で展開され、プレイヤーはヘンリーとして騎士ライフを送ることになる。RPGとは「ロールプレイングゲーム」ロールとは英語で役割、つまりゲームから与えられた役割を楽しむというのがRPGというジャンルのコンセプトなわけだけど、『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』というゲームはキャラの独立性が優先されて近年はロールの部分が薄れている。これは揶揄しているわけではない。日本のRPGは全体的にキャラクターゲームとしての要素がハードスペックの向上とともに強くなり、独自のゲームジャンルとして発展していったからで、だからこそ2000年代なかばからは「JRPG」という造語ができてカテゴライズがされるようになっている。
本作はほんとうの意味でのロールプレイングゲームであって、プレイヤーは徹頭徹尾、ゲームのいたるところで「ヘンリーとしての選択」を迫られる。その選択の如何によってヘンリー(プレイヤー)の評価が変わり、スキルアップをしたりと様々な展開がされていく。それはメインストーリーの会話から街の住民の会話まで様々なところでロールプレイが行われる。その他にも、JRPGではよくやりがちな「住居の不法侵入」や「ツボや箱の無断開封」といったJRPGでは主人公にとって必要なアイテムならば無断で勝手に持ち出しても良いという明らかな犯罪行為がこのゲームでは列記とした犯罪行為としてゲームに反映されるといったところにもロールプレイの徹底が出ている。
プレイヤーは凶悪犯罪者ヘンリーとしてこのゲームを進めるのか、品行方正・清廉潔白なヘンリーとしてゲームを進めるのかという選択を委ねられている。ここまで自由なRPGがあったのか?RPGというジャンルが進むべき道筋を見せてくれたと思う。
戦闘システムも大変独特。プレイヤーは剣や棍棒を装備して攻撃や防御をするが、攻撃、防御する方向を左右上下の4箇所から選択してリアルタイムに攻防をする。相手の武器の現在方向を確認して防御、逆に相手の武器の現在位置を確認して手薄なところを見極めて瞬時に攻撃。といった一人称視点という画面を最大限に活用したシステムとなっている。
正直言って前作から変わりないのだがこのシステムはとっつきづらいし、難しい。だけど『ブシドーブレード』の様な本格的なソードデュエルが好きな人にはたまらない渋さがある。
この他にも薬の製造や鍛冶など、RPGに必要なアイテムの製造も全てにアクションとしての要素を合わせて用意されている。薬草を釜に煎じるのも釜にワインを煮込んで、規定の回数一掴みした薬草を鍋に入れて煎じ、別の薬草をいれるにも一度すり鉢で擦ってから鍋に入れるなど手間と時間がかかる。武器製造の鍛冶も一度素体の鉄の棒を熱して色が麦色になってから叩き、剣先からまんべんなく叩き、裏返してまた叩き、一度熱し直してからまた同じように叩き・・・とこちらもかなりの時間と手間が要求される。
JRPGに慣れていると一瞬で終わってしまうことが全て一種のミニゲームとして用意されていて、手間と時間をかけることに中世ヨーロッパ騎士ライフシミュレーションゲームとしての完成度を高めている。
正直こんなゲームが年始に出て良いのか?と思うほどの作り込まれたゲームで、このゲーム一本でプレイヤーの一年を消化させてしまうことを狙っているんじゃないかと思うほどの時間泥棒なゲームで大変危険!
だけど、中世ヨーロッパに憧れを抱く人にはぜひともおすすめしたいそんなゲームだった。
コメント