アニメ『四畳半神話大系』 湯浅政明監督 インタビュー

フジテレビ”ノイタミナ” アニメ『四畳半神話大系』の湯浅政明監督にインタビューしてきました!!


(編集部)「四畳半神話大系」のお話は、どんな感じでスタートしたんですか?
(湯浅監督)お話が来た時、何でも出来ますよ。やりますよっていう感じでしたね。あとノイタミナっていうのが非常にいい枠だと思ったので、是非やらせてくださいということで。
(編)原作を読むと、今までの湯浅監督の作風があまりにもはまり過ぎているんではないかと感じるんですが。
(湯浅監督)みんなそう思うんですかね?企画を持ってきた時には、なんで僕がこれを?と思ったんですが(笑) 一回やったことはもうやりたくないんですが、それも期待されてるのかなと思いますね。でも、そこも前よりよく考えて計画的にうまくやればいいかなと思いました。あと、今回は地上波なので前回より色んな人に見てもらえる作品にするというのが第一目標なので、(今までの作品と)少し似ている部分があってもいいかなと思っています。
(編)ここ最近の湯浅監督の作品の主人公たちは、絶望と希望が入り混じったキャラクターが多いと思うんですが、これは監督が元々内面に持っていたものなんでしょうか?それとも作られたキャラクターでしょうか?なんかこう、何回も何回もクレヨンで黒く塗りつぶした画の中に、一点だけ光があるような。
(湯浅監督)最初の頃は意識してそういうものを作ろうと思っていました。ダークな中にも希望があるという感じでやりたい、明るい楽しい事ばかりだと信じられない。こんな嫌なことばっかりっていう中に蓮の花が一個咲いていると、希望はあるのかもと思えるんじゃないかなと。でも、世間の人はそんなに暗く考えてない人が多いっていうのがだんだんわかってきました。平凡で特に不自由ない生活の中で、ちょっと楽しいことがある方がみんな楽しいんだなって。
なので、ちょっと今までターゲット間違ってたなっていうのはあります(笑) 自殺しようとしてるような人に向けて作ってた時期もあったんですけど、そんな人は少ないんだなって(笑)
(編)今回の「四畳半神話大系」では、そのことを踏まえてエンターテイメントとして作られた?以前の作品に比べて非常に見やすく作られた印象がありましたが。
(湯浅監督)そうですね。楽しませる気持ちで作っています。いろんな方の力を借りて、自分でもどうすれば見やすく出来るかを考えてます。ただ、根本にある思いは変わってないんですよね。でも、多くの人に面白く見てもらいたいっていうのは思っているので、探りながらやっています。
(編)今までの作品を見てると、主人公が童貞っぽいキャラクターが多い気がするんですが。頭で考えすぎて行動出来ないような。
(湯浅監督)たまたまな気がしますけど、そのほうが面白いと思ってるからだと思います。あと、自分がそうなのかもしれないですね。主人公が能動的じゃないっていうのは自分のせいだろうなと思っています。能動的なほうが話は進むのに、周りに振り回されるだけの主人公になりがちなんですよね。
(編)客観的な行動を起こせないから、画としてのアクションが描けない。それで脳内思考のアクションに演出が行くということでしょうか?
(湯浅監督)そうなんですよね。そうしたくないというのもあるんですが、今回はたまたま主人公がそういうキャラクターだったので。基本的にはキャラクターが動かないと面白くないとは思うので、動くようにはしたいと思っているんですけど。
(編)今までの作品を見ていると、登場人物が”ぷちゃ”と、あっさり死ぬことが多いような気がするんですが、あの感覚はどういったところが根っこなんでしょうか?
(湯浅監督)ベタベタなまだ生きてたのか!くらいのものもやりたいんですけど、自分の中で、人が死ぬ時って信じられないくらいあっさりしているイメージがあるからかもしれないですね。逆に生きてる事が非常に危うく好運な感じがするんですけど、人が死ぬってことを実感できてないというか、実感するのがいやだと思うところもあるんだと思います。『ホテルニューハンプシャー』という映画で、両親が飛行機事故で死んじゃうシーンがあるんですけど、あれが印象に残ってるんですよね。ホントにチープなんですけど、上から吊ってある飛行機がパンって割れるんですよね。で、死んじゃいましたっていう。でも実際そうなのかもしれないなって思うんです。なので、あっさりしているほうをやっているんですけど、こっちが主流になってきたらベタベタなほうをやりたいですね。
(編)「四畳半神話大系」の原作では、同じような設定の中で、主人公の「私」が、ちょっとずつ違う”選択”をして右往左往するお話ですが、その”繰り返し”の中で作品を面白くするためにどんな工夫されましたか?
(湯浅監督)やっぱり違いながらも同じところがあるっていうのを面白く出せればなと。デジャブ感というか。基本的には主人公はいやだいやだと言いながらも好きな方向に行ってると思うので、結局同じこと繰り返してると。でもあまり繰り返しをやりすぎても見てる人は、また同じのやってるとか、違いがわからないとか思っちゃうと、作品としてはマイナスなので、そうならないくらいに繰り返せたらいいなと。違うようで繋がるところが出ても面白いと思うので。
(編)作品を作り始める時は、最初から流れをしっかり作るほうですか?それとも、まずは進めて現場の中で感覚的に進めるタイプですか?
(湯浅監督)いつも最初は考える暇もないんですけど(笑) 今回は上田さんがいるんで、計画しながらですね。でも1話から描いていくので多少先は変わってくるんですけど、そこはぼんやりと決めつつですね。でも、テレビはいつもライブ感が欲しいと思ってます。「ケモノヅメ」やってたときは逆に何も決めずに、来週どうなるんだろうっていうところでやってました。連載漫画みたいな、とりあえず危機で終わりました、さて今週は、そこから考えましょうみたいな(笑)。実際そんなことはないんですけど、逆にそれくらいの感覚で見られる物が出来ればなと。個人的には予定調和すぎるより、どうなるかわからないほうが面白いと思います。計画はしてますけど、結局やるときには変えちゃったりしますね。やっぱり新鮮なものを出したほうがいいと思うので、その場で思いついたことを入れるというか、方向は決めていくけど、物事は変わっていくので、変えられるものはギリギリまで変えていく。納得いくまで練れることなんてほとんどないと思うんですよ。『キサラギ』みたいに練りこんだものも面白いと思いますけど。
(編)失礼な質問かもしれないんですが、メジャーになりたいという願望はありますか?自分のやりたいことと、もっとメジャーになりたいという、何か内面の葛藤みたいなものを感じるんですが。
(湯浅監督)(「四畳半神話大系」の)主人公と同じで、ただチヤホヤされたいだけなんですけど(笑) どうしてもメジャーになりたいというわけではなくて、多分反響が欲しいんですね。評価が。今までは評価が聞こえてこないんですね。ホントに面白くないのかなと、自分では面白いつもりで作ってるんだけどどうなんだって。お芝居はやってるとうけてなかったら、わかるじゃないですか。そういうやり取りがなかなか出来てないので、やり取りしたいなと。そこで意見が出れば、考えてやれるというか。そういうのが楽しそうなんですよね。観客と交流したいというか。ホントにそうしたいのか自分であまりわかりませんが(笑) メジャーメジャーと言ってる割には作ってるものはいつも同じなんですよね。主人公も違う違うといいながら同じようなキャラクター(笑) 結局自分を認めなければならない。そこを認めないと先に進めない。それもわかってるつもりなんだけど、わかってないのかなと思ったり。
(編)お話してると監督と作品がリンクしてるように感じますね。
(湯浅監督)そうですね。でも割と最近こういう人多いのかなと感じるんですね。なので、それがうまく出れば共感してくれるかなと思うんですけど。
自分の夢がはっきりしてないのに成功だけはしたいと思ってる方にはわかりやすい主人公かなと。自分がそうかどうかはちょっとわからないですけど。
(編)唐突なんですが、映画『未来世紀ブラジル』(1985年 テリー・ギリアム監督)は好きですか?
(湯浅監督)嫌いではないけど、そんなすごい面白いと思ったことはないですね。意外に普通の地味な映画が好きだったり。『二十四の瞳』、『泥の河』、『時をかける少女』(大林監督版)。極端なものだと『ガープの世界』、『クライング・ゲーム』、『ブレードランナー』、『七人の侍』、『グロリア』、『殺しのドレス』、『ミッドナイトクロス』とか、ちょっとマニアックな(笑) 映画が面白いというよりもカメラワークが好きってのもありますけど。クライングゲームはオカマの人を好きになった男の気持ちが面白いなとか。グロリアのかっこいいおばさんとか。でも、一番好きなのは『E.T.』ですね。
 
(編)ということは、生涯最後に見たい映画は『E.T.』ですか(笑)
(湯浅監督)死ぬ時に映画は見たくないと思いますけど(笑) 最初見たときがよかったので、後で見返すと違うかなーと思ったんですけど。映画館で見たとき。後半ずっと笑ってました。みんな泣いてたけど僕だけ笑ってた。
(編)どのへんから笑ってました?
(湯浅監督)自転車が走り出した時ですね。ETが病気で、弟も病気で、兄貴が走り出したところ。ひゃーって。
(編)そんなに笑うシーンではなかったような・・・単純に楽しそうだと思って笑いが漏れたんですかね。
(湯浅監督)なんなんですかね。多分僕は開放されたいタイプだと思うんですよ。パーッっと開放されたい。開放されたい気持ちがどっかにあるんですかね。世の中が嫌いなのか、面白いと思ってるんですけど(笑)
(編)私の印象なんですが、湯浅監督は、動物的に外へ出たい、とにかく脱出したいというよりも、現実からは逃げられないことを十分に理解したうえで、理屈の中での”脱出願望”があるような感じがします。
(湯浅監督)出たいって言いながら出られない人っていうのは理解できますね。しばらくは出られないよね、でもその先はもしかしたら出られるかもしれないよねっていうくらいな。でも出られない時間も楽しもうよ、出来るだけ楽しみましょうって感じはありますけど。若い時はもがいてばかりだったと思いますけど。
(編)若い頃に、葛藤の時期はあったんですか。
(湯浅監督)やっぱり結果にたどり着くまで嫌でしたね。でも永遠に結果にたどり着かないかもしれないと思った時に、楽しみながらやらないと続かないなと。(「四畳半神話大系」の)主人公はまだそこまで行ってない感じですね。自分が若い時はこんな感じだったかもしれないですね。でも今はもういい歳なんで、とうに乗り越えてるつもりでいるんですけど。
(編)何歳くらいに今の考え方が見えたんですか。
(湯浅監督)27歳くらいですかね、遅いですけど。意外と生きていけるかもみたいな。
(編)本心では女の子と仲良くなりたいんだけど、例えば『四畳半神話大系』の第1話でいうと、主人公の「私」が、橋の上で明石さんに声をかけれなければならないのに、意味の無い挨拶だけして「今日はこれくらいでいいだろう」って帰ろうとする、自分の中で勝手に答えを出して行動しないタイプの人は好きですか?僕がそういう傾向にあるので、こういうのを見るとくすっと笑っちゃうんですが。
(湯浅監督)自己防衛が強い人ですね(笑)。僕はもっと自分を批判しそうですね。そういう機会があると、もっとガツンと行かなかった自分に対して批判的な感じにはなってましたね。あの時こういえばよかったとか、なんでいかなかったんだとか。学生の時はね。だんだん歳とると恥知らずな感じになってきたので、なんでもいいやーみたいな感じですけど。
 
(編)主人公の「私」は恵まれてますよね。読者だから分かるんですが、彼には明石さんという幸せな未来が提示されているじゃないですか。
(湯浅監督)そうですね。明石さんっていう存在が出来すぎな感じはしますよね。リアルで考えるなら明石さんなしでオッケーっていえる主人公だといいとは思うんですけどね。みんなは明石さんがいるじゃんって思いそうですよね。僕は「私」にちょっとイライラしますね(笑) 受身過ぎると思うんですよね。自分から行けばいいのに、色んなことに対して。でも自分もそうだったかもしれないと思うので。
(編)小津くんの愉快犯的なところは好きですか。
(湯浅監督)小津くんは面白いですね。主人公は小津くんに憧れてるんじゃないですかね。でもそんなことは認めないんだろうなと。
(編)小津くんは、ひどいことしているキャラなのに、何故か笑えて許せますね。
(湯浅監督)ロンブーの淳みたいなイメージがありますね。人をひっかけて笑ってるみたいな。ひどいかもしれないけど、見てる人は面白いですよね。
(編)裏表ない悪党みたいな感じがしますよね。
(湯浅監督)そんなに嫌味がないんですよね。ただ面白がっているだけで。意外に純粋なところもあるのか。純粋なのが小津なのかっていうところもあって、ただ悪意も純粋ですけど(笑)
(編)監督の作品では、恋愛とセックスが結びついているものが多く感じられますが、それはそういう仕事依頼が来るのか、それとも”そうなって”しまうんですか?
(湯浅監督)最初にファミリーピクチャーをずっとやっていたので、その反動もあるんですかね(笑) 単に恋愛はみんなが好きだろうなと思ってやってるだけなんですけど。描くと必ずついてくるというか。感情のもつればっかり描いてるとイライラしてくるんですよね。人によって違うとは思うんですけど、好き=セックスというのが自分の中にはあるので、それを描かないとよくわからない。好きなのかセックスしたいだけなのかわからないくらいのほうがホントの恋愛な感じがして、でもしたいのはこの人だけってのがその人の愛であって。一緒にいたいだけっていうのはおかしいような、嘘ついているような気分になりますね。いなければ会いたいし、会えば触りたいし。アニメでそういうのを描かれていたのをあまり見たことがなかったので、そういう風に描きたいっていう。アニメーター的な面白みもあるんですけど、でもやっぱり描きすぎると飽きちゃう。そしたらまた違う方向に行くんでしょうけど。
(編)「四畳半神話大系」もそうなんですけど、監督の作品には、必ず羽貫さん(「四畳半神話大系」のキャラクター)のような、メインキャラクター以外に限って、”いい女”が出てきますよね?あれは監督の願望だったりするんでしょうか?
(湯浅監督)いい女がいたらヒロインにしたいんですけどね。でもそうしてないのが欠点だと思ってですね。いつもフェミニスト的な発言をしてるつもりなんですけど、結局男の願望のような女ばっかり出してるといわれるので、明石さんはそういうのは気をつけてる感じですけどね。ヒロインとして女子っぽい魅力もありますけど、強い人として描こうとしてますね。みんなこういう子は好きなんですかね。僕は好きなので今回は最後までこう描きたいですね。
 
(編)では最後に、「四畳半神話大系」をご覧になるみなさんに一言お願いします。
(湯浅監督)後半に行くにしたがって、盛り上がっていくので、そこを楽しみに最初から見ていただけるといいなと思います。楽しみに見てください。
TVアニメ『四畳半神話大系』
4月22日(木)より毎週木曜24:45~ フジテレビ“ノイタミナ”ほかにて放送
※関西テレビ、東海テレビ、BSフジでも放送
原作:森見登美彦「四畳半神話大系」(太田出版、角川文庫刊)
監督:湯浅政明
シリーズ構成:上田誠(ヨーロッパ企画)
キャラクター原案:中村佑介
キャラクターデザイン・総作画監督:伊東伸高
美術監督:上原伸一 色彩設計:辻田邦夫
音響監督:木村絵理子 音楽:大島ミチル アニメーション制作:マッドハウス
オープニング・テーマ:ASIAN KUNG-FU GENERATION 「迷子犬と雨のビート」(キューンレコード)
エンディング・テーマ:いしわたり淳治&砂原良徳+やくしまるえつこ「神様のいうとおり」(キューンレコード)
【声の出演】
「私」:浅沼晋太郎 明石さん:坂本真綾 小津:吉野裕行 樋口師匠:藤原啓治
城ヶ崎先輩:諏訪部順一 羽貫さん:甲斐田裕子
[公式サイト]
(C)四畳半主義者の会

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