4月10日(金)全国順次公開!『彼女は夢で踊る』(執筆者:畑史進編集長)

4月10日(金)より新宿武蔵野館をはじめで全国順次公開予定の『彼女は夢で踊る』を編集長の畑が紹介。

 

 

 

Story

広島の老舗ストリップ劇場に閉館が迫っていた。社長の木下は過去の華やかな時代を思い出す。最後のステージを飾るストリッパーたちが劇場にやってくる。この舞台で幕を引く有名ストリッパーや、謎めいた若い踊り子。閉館への日々に、木下は忘れていた遠き日の恋を思い出す。そして、最後の舞台の幕が上がる。観客たちはステージの裸の向こうに何かを見つめている。木下は劇場の終演に、胸の奥に隠していたダンサーとの秘密を思い出す。ステージの上に幻は眩しく輝き、木下は遠い昔の美しい夢を見る。

 

 

■畑史進編集長 レビュー

 

この『彼女は夢で踊る』という作品は広島の薬研堀にある「広島第一劇場」というストリップ小屋を舞台にした作品で、子供の頃何度か館名を聞いたことあるなぁと思いながら本作品を観たら、色々と強烈な思い出が蘇った。と言っても殆ど関係ない地元ネタばかりで、初っ端からこんな思い出話を引っ張り出すとろくなエピソードしかいのでこの辺に留めておきたい。

 

作品自体は犬飼貴丈氏が演じる主人公の男がふとしたきっかけで入った広島第一劇場で目の当たりにした一人の踊り子の姿に惹かれて脱サラし、童貞感丸出しで劇場のスタッフに転職という中々にぶっ飛んだ展開から始まる。この男の視点から広島第一劇場とともに性に対しておおらかだった昭和の全盛期と、閉館間際の寂しい平成末期の様相を交互に描いていくノスタルジーな作品となっている。

また、作中に登場する人物はそれなりに多いものの、心理描写が目に見えるほど大変細やかであるのもこの作品の特徴。

 

全編に渡って、極力今の広島の土地を使っているせいか、最初は過去と現在のシチューションの違いがややわかりにくかったが(現代風の駐車場の看板が映るから)、舞台演劇のように役者の演技力でその時代やシチュエーションを作り、これを映像の中に落とし込んで説得させるという力技のような映像作りはある意味斬新。無茶苦茶な事を言っているようだけどこの手法がかえって功を奏し、ストーリーが進むにつれてだんだん食い入るように見入ってしまった。

この映画の核となる部分がストリップ劇場なので、そこいるお客さんが踊り子であるストリッパーたちを食い入るように見るような追体験を映画というメディアを使って再現しているある種、挑戦的な映画の制作方法だと感じた。

 

カメラ越しに映っている踊り子たちによる踊りも、いやらしさが感じられず、作品を上品に仕立てる効果を生んでいる点にも驚かされたもの。裸がいやらしくないというのが彼女らにとって褒め言葉になるかどうかはわからないが、映画の趣旨にはあっているのではないだろうか。

 

実は、中学に入ってさっさと暴走族入りしてしまった小学校の頃のイケメン同級生が薬研堀近辺でたむろしている。という話を聞いていたものだから、あの辺は自分から近づくまいとしていたし、寧ろ手前側の本通りや袋町の方にあったフィギュアショップやゲーム専門店の方にしかあの辺は興味が向かなかった。そんなイメージだったからこの映画でこんな映画の撮影に使えるような土地があったんだとこの年になって初めて知った。

 

主人公を演じた加藤雅也氏が劇中で居眠りをしていた映画館も、かつてエンタジャムで『ロボコップ』のトークショーを行った横川シネマさんで、昔はポルノ映画を上映していた(中国新聞で上映中の映画一覧を眺めていたのが子供の頃の日課で、毎回何じゃこの映画は?と疑問を抱いていた)。こういった背景を知っていたら、ちゃんとこの作品にあったロケ地を選んで映画作りに臨み、けっしていたずらにストリップ劇場をテーマに映画を撮っているのではないという真摯な姿勢もこの映画から感じ取れた。

 

久しぶりに上品で情緒的な邦画作品となっているので、お近くの映画館で上映が決まっていたら足を運んでいただきたい。

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