【書評】斉藤守彦『映画を知るための教科書 1912−1979』

51hqyCU4uLL._SX347_BO1,204,203,200_

「温故知新」という四文字熟語がある。説明不要かもしれないが、これは「古きを訊ねて新しきを知る」という意味で「古きを温めて新しきを知る」とする説もある。

映画は1895年のリュミエール兄弟の蒸気機関車が駅のホームに到着するという映像から始まり120年余りが経った。そこから映画は一つの科学的な実験から娯楽産業へと発展し、時代とともに様々な側面を観せ、映画に関する書物も非常に多く発行された。

本書は題名の通り1912年(明治45年)~1979年(昭和54年)までの映画を「商品」として扱い、配給・興業のプロ達に話題の焦点を当て映画館に向けて商品である作品をいかに配給し、興行し時代の変遷とともに関係者がかかえた問題、苦悩を追い中立の立場で考察・解説した内容である。要は映画の裏側、メイキング秘話ではなく。映画を如何にして売上げ、話題にさせ、庶民の心を奪ってきたのかという真の裏方たちにスポットを当てた「映画を売るための教科書」なのだ。この本は映画という「商品」に関わる人、映画業界の裏方を目指している人、ならびに本書の題名にも書かれている年代に映画に触れてきた人が自分たちはどのようにして配給・興業のプロ達にその映画たちに導かれたのかを解説する本でもある。

映画は今でも新作が出続ける中なぜ1979年で止まっているのかというと、先も書いたように80年台に入るとVHSやLDが隆盛し、新宿、池袋にかつては多くあった二番館、三番館が徐々に減り、映画が一斉入れ替えになる時期で、さらに日本では映画館で映画を観るという価値を見出す事がなくなってくる境目でもあるため、本書は映画館が最も重宝された時代に焦点を当てたのである。

配給会社が戦前から戦後、時代が変わる時に映画、娯楽産業に対する取り締まりの変貌から如何にして柔軟に対応し、諸外国からの映画の流入による配給・興業策。さらに時代が進みTVの一般家庭に普及したことによる庶民のスクリーン上のスターへの接し方の変遷、それに伴う配給会社の苦悩、TVと映画産業のつきあい方。配給会社の所有する土地の、ブームに合わせた不動産活用法。赤字に転落した配給会社の資金繰り、配給数減少の意味、「洋高邦低」の流れ。興業側にとっての2つの顧客との兼ね合いと映画館が取り扱う映画の変遷と映画の全国展開の変わり方。そして時代、映画産業を大きく変えた外部資本の参入による徳間、角川、西崎ショック。これらの著者の解説、考察は非常に興味深い。

この本を読んだ僕自身が一番大きく驚いたのはアニメ「宇宙戦艦ヤマト」の映画への復権の解説が、今現在の「キックスターター」「クラウドファンディング」に近しい物を感じるのだ。この本には将来、映画館もしくは映画が立ちゆかなくなった時にもしかするとヒントが隠されているのかもしれない。だからこそ映画の未来に携わろうとする人は手にとってほしい。

最後に巻末を見ていただければわかるが、各配給会社の歴史書や雑誌、文献が凄まじく決して今日インターネットでは手にはいらないような情報量が詰まっており、一次資料としての完成度の高さに作者への敬意を表する。この時代に関わった方、映画に感動した方は是非手にとって真の裏方たちの奮闘努力に耳を傾けてほしい。

[文:畑 史進]

「映画を知るための教科書 1912−1979」
好評発売中 全288ページ、価格:本体2500円+税

著者:斉藤守彦
1961年生、映画ジャーナリスト。
「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」「日本映画、崩壊」「映画館の入場料金はなぜ1800円なのか」など著書多数。

映画を知るための教科書 [ 斉藤守彦 ]

映画を知るための教科書 [ 斉藤守彦 ]
価格:2,700円(税込、送料込)

コメント

タイトルとURLをコピーしました