【以下プレスリリース文掲載】
この度、『ぼくの好きな先生』で知られるドキュメンタリーの名匠ニコラ・フィリベール監督の最新作『人生、ただいま修行中』が11月1日(金)より新宿武蔵野館他にて全国順次公開となります。
フランスで200万人を動員した世界的ヒット作『ぼくの好きな先生』や『パリ・ルーヴル美術館の秘密』などで知られ、フレデリック・ワイズマンらと並ぶ現代ドキュメンタリー最高峰の一人、ニコラ・フィリベール監督。小さくも多様な日常の中にあるかけがえのない瞬間を優しさに溢れた眼差しで捉えてきた彼の、11年ぶりとなる待望の日本公開作です。舞台はパリ郊外の看護学校。まだ頼りになるとは言い切れない。けれど誰かのために働くことを選んだ看護師の卵たち。つまずき、時に笑い、苦悩しながら成長していく彼らの姿は、いつしか今を生きる私たちの物語へとつながっていく。誰もが、初めてを経験し、失敗しながら生きていく。人生は学びと喜びの連続であることを教えてくれる感動の奮闘ドキュメンタリー。ニコラ監督は2016年、塞栓症を患い救急救命室に運ばれ、一命をとりとめた経験から、医療関係者に敬意を表すべく、医療関係者、特に看護師と共に映画を撮ることを決意しました。
この度、本作の一般試写会にて、”日本のマザー・テレサ”的存在で、今年フローレンス・ナイチンゲール記章を受章した訪問看護師・認定NPO法人マギーズ東京センター長の秋山正子さんと、オーストラリアの医療機関や国境なき医師団の派遣地で活動してきた看護師の白川優子さんをお招きし、トークイベントを実施しました。
場内の大きな拍手に迎えられ、まずはじめに登場したのは、白川優子さん。日本で7年間看護師を勤めたのち、オーストラリアで看護師に、その後、国境なき医師団で活躍をしている。日本との看護の違いについてまず、「看護学生の教育の現場は日本とまるで違う。看護界でも有名なことですが、日本だと指導者と看護学生の距離が遠いというか、規律が厳しい。私が看護学生だったのは30年前で、当時は厳しく、教員に質問をすると、どこまで調べて、どこまで考えてやっているのか、と言われたこともある。それに比べると、オーストラリアやフランスの教育現場は、指導者があたたかく見守っていることが感じられて。でも、最近では日本も、フランスやオーストラリアの雰囲気のようになっていると聞く。」と話した。
また、映画で共感した点について尋ねられると、「血圧を測るって、看護師にとって基本。今はそんなに考えないでできるけど、はじめては戸惑い、圧を強く入れすぎて、脈拍が聞こえなかったり、とかがあって。私もそうだったなぁ、と当時を思い出しました。看護師も卵の時代があって手の洗い方ひとつも、順番がある。看護師というと、頼れる、大きな存在だと思われるけど、そういう過程を経ていることを知ってほしい。」と本作の看護師の卵たちが奮闘する姿から、誰にでも初めてのことがあるということを感じ取ってほしいとコメント。
続けて、秋山正子さんが登場。まず本作を観た感想について、「看護師の卵の気持ちもそうですが、看護教員をしていたこともあるので、教師の立場でドキドキして観た。最後の第3部は看護だけではなく、対人の分野の仕事にもすごく参考になるなと。教師と生徒の面談が続くシーンが面白いので、ぜひそこに注目して観ていただきたい。」とコメント。
また、イギリス発祥の「マギーズキャンサーケアリングセンター」を日本に開設するなど、イギリスの看護現場にも詳しい秋山さん。海外と日本の現場の違いについて、「スタートは一緒だが、実習の場面がまるで違う。日本では学生は、見学実習が多い。海外は思い切り現場に出して、先輩や職場にいる方が横につく。この作品も、ハラハラするシーンがあるが、だんだん彼らが育っていく姿がみれて素敵。また、フランスはコミニケーションがウィットに富んでいるので、緊張している患者さんにかける言葉がいい。」とフランス文化ならではの点についても着目。
フランスらしい人種や宗教の多様性のある学生が出てくる本作。その点について白川さんは、「オーストラリアも多文化、多人種の国だった。日本は島国だが、これからもっと外国人が増えるので、多様性に対応していかなければいけない。また、患者さんには中立な立場で、人種、宗教を乗り越えて、平等に医療を提供しなければいけない。国境なき医師団でも、国、民族、政府どうしが戦っていても、海外派遣スタッフ、現地の看護師は中立の立場で医療を提供している。シリア、イエメンなどでも中立で公平な医療を行ってきた。」と看護師の信条や、これまでの活動の経験から多様性を語った。秋山さんは、「訪問看護を新宿エリアでやっていて、通訳のボランティアさんをおかないと難しいことも増えてきた。医療を受ける立場だととても不安に感じていると思う。多種多様な人を相手に、どのようにして、一番気になっていることを引き出していくかが看護。言葉や人種を超えた相手の痛みに寄り添える看護師を目指すことが大事。」と看護をするうえでの普遍的な自身のモットーについて話した。
これから映画を観る方に、注目してほしい、感じとってほしいことについて秋山さんは「第3部の学生たちが育っていく場面で、人間味あふれる対話で向き合う教師たち。また第2部では、病棟だけでなく、外に出る場面も。フランスは入院をなるべく短くして、在宅で看護する流れにもなっている。病院だけではなく、色んなところで看護を展開しているところも観てほしい。」と魅力について語りました。白川さんは、「看護師は病院で頼りになる存在だけど、奮闘や、葛藤をし、悩み、苦しんでいることを乗り越えている。また、看護学生を受け持つ病院が見つからないこともある。病院で働いていて、受け持ち看護学生の声がかかったら、ぜひ受け入れの協力をしてほしい。実習で受け持った患者さんは忘れられないし、学生にはまだ資格はないけれど一生懸命やる。それを頭に入れてほしいなと思いました。」と看護学生の立場に立ち、彼らをサポートして欲しいと語りました。最後に秋山さんも、「一生懸命、現場に臨む学生たちが、家では大変なことがあったり、悩みがあったりする。彼らのお母さんになった気分で、よくぞここまで育ってくれたなと思って、応援団の気持ちで観ていただければ。」と語り、イベントを締めくくりました。
【秋山正子(あきやま・まさこ)さん プロフィール】 1950年、秋田県出身。聖路加看護大学卒業。産婦人科病棟にて臨床経験後、大阪・京都で看護教育に従事。実姉の看とりを経験後、91年大阪・淀川キリスト教病院訪問看護室で研修および勤務、92年より東京・新宿区で訪問看護に携わる。2001年、ケアーズ設立。白十字訪問看護ステーション・白十字ヘルパーステーション統括所長として現場を訪問する傍ら、シンポジウムや講演会を通して在宅ケアや地域医療連携を推進している。30年後の医療の姿を考える会会長、NPO法人白十字在宅ボランティアの会理事長。著書に『在宅ケアの不思議な力』など。
【白川優子(しらかわ・ゆうこ)さん プロフィール】
1973年、埼玉県出身。日本で外科・産婦人科を中心に看護師として計7年間勤務。2003年にオーストラリアに渡り、06年にオーストラリアン・カソリック大学看護学部を卒業。その後約4年間、メルボルンの医療機関で外科や手術室を中心に看護師として勤務。2010年、国境なき医師団(MSF)に参加。外科チームの手術室看護師として、シリア、パレスチナ(ガザ地区)など、紛争地や被災地を中心に活動。2018年7月時点で9カ国、17回の派遣経験を持つ。2018年7月、初の著書『紛争地の看護師』(小学館刊)を上梓。8月より集英社イミダスにて、『「国境なき医師団」看護師が出会った人々~Message sans Frontieres ことばは国境を越えて』を連載中。同年10月よりMSF日本のフィールド人事部にて海外派遣スタッフの採用業務に従事。
監督・撮影・編集:ニコラ・フィリベール
2018年/フランス/フランス語/105分/アメリカンビスタ/5.1ch/カラー/英題:Each and Every Moment/日本語字幕:丸山垂穂/字幕監修:西川瑞希
配給:ロングライド 後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本 公式サイト: longride.jp/tadaima/
©️Archipel 35, France 3 Cinéma, Longride -2018
コメント