鶴岡亮のデンジャーゾーン! 第15回 『Black Lives Matter』と差別にまつわる映画、ドキュメンタリー、ミュージッククリップを紹介『ドゥ・ザ・ライト・シング』『LA92』『デトロイト』『This is America』

【文・鶴岡亮】

鶴岡亮Twitter:https://twitter.com/ryoutsuruoka

 

 

『Black Lives Matter』の語源

 

2020年5月25日、ミネアポリス近郊で悲劇的な事件が発生した。黒人男性のジョージ・フロイド氏が、白人警官デレク・ショーヴィンに暴行を受けて殺害された事件である。警官に抑え付けられたフロイド氏は『I can’t breathe(息が出来ない)』と訴え続けたものの、8分46秒もの間、首を肘で抑えつけられた後に死亡。抑えつけは彼の死後2分53秒迄続いていた。2014年にも今回の事件同様に、黒人男性のエリック・ガーナー氏が警官に抑え付けられ、デレク氏同様『I can’t breathe(息が出来ない)』と発した後に死亡する事件が発生していた。

 

ジョージ・フロイド氏の事件にとどまらず、今年の2月にもオハイオ州コロンバスで、黒人男性アフマド・アーベリー氏がジョギング中に白人親子に射殺され、3月13日のケンタッキー州ルイビルでは、就寝中の黒人女性ブリアンナ・テイラー氏が警官に射殺される事件が起きていた。

繰り返される黒人への過剰暴行に対して、5月27日から抗議デモが発生し、その勢いは全米各地に拡大した。デモやSNSでは、『I can’t breathe(息が出来ない)』という言葉と共に、 『Black Lives Matter(黒人の命は大切だ)』という言葉が頻繁に使われ、黒人への差別や警官の過剰暴行に抗議するシンボリックなフレーズとなっている。

 

このBlackLivesMatterの語源は、2012年の2月6日のフロリダ州サンフォードで発生した『トレイボン・マーティン射殺事件』に起因する。当時17歳の黒人男性のトレイボン・マーティン氏は、フロリダ州のサンフォードの住宅街を散歩している時に、地元の自警団員に所属するジョージ・ジマーマンに目を付けられた。ジマーマンはマーティン氏を不審者と決めつけて執拗につけ回し、後に二人はケンカに発展、その最中にジマーマンは丸腰のマーティン氏を射殺した。ジマーマンは裁判にかけられることになったが、正当防衛による無罪評決となり、この不公平な判決に非難が殺到した。そして、この不公平な判決と黒人への過剰暴行に抗議するフレーズとして、SNS上で『#Black Lives Matter』が誕生したのである。しかし、黒人への過剰暴行はとどまることを知らず、2014年7月17日のスタテンアイランドで、警官が黒人男性エリック・ガーナー氏を窒息死させる事件が発生し、8月9日にもミズーリ州ファガーソンで、当時18歳の黒人男性マイケル・ブラウン氏が警官に丸腰で射殺される事件が発生。10月20日にもイリノイ州シカゴで、警官が17才のラクアン・マクドナルド氏を射殺する事件が発生し、止むことのない黒人への暴力事件に対抗する形で、SNS上やデモでBlack Lives Matter運動の勢いは加速していった。

 

Black Lives Matter運動は現在に至るまで続いており、未だ解決しない黒人差別問題の根深さと問題意識を世界に訴え続けている。今回はそうした黒人やマイノリティへの偏見と差別を取り扱った映画、ドキュメンタリー、ミュージックビデオを紹介していきたい。

 

 

『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989)

 

スパイク・リーが監督、製作、脚本、主演を務めた作品。舞台は猛暑のブルックリンのベッドフォード・スタイベサント。そこにはアフリカ系をはじめ、イタリア系や韓国系を含む様々な人種の人々が暮らしていた。彼等は互いのエスニックアイデンティティの違い故に、些細なわだかまりによる衝突が絶えなかった。そのわだかまりは次第に積み重なり、やがてコミュニティ感の緊張感は最大値に到達する…。

 

『ドゥ・ザ・ライト・シング』は、当時としては珍しく黒人をマジョリティとして描き、マイノリティ同士の差別問題を描いたことで有名な作品。登場人物のほぼ全てが何らかの差別的感情を抱く加害者であり、差別される被害者として描いたところも、それまでの差別を取り扱った映画にはなかった視点である。この映画が公開された三年後に、本編の内容を思わせる『ロス暴動(ロサンゼルス暴動)』が発生。2014年の警官によるエリック・ガーナー氏殺人事件と、今年のジョージ・フロイド氏が警官に殺害された事件と似たシチュエーションも描かれていた為に、予言的な作品とも記憶されている。89年制作時の人種間問題をテーマにした本作が、今日に置いてもそのテーマ性が古びる事無く通用してしまうのは、我々の現代社会が未だにその問題を繰り返している事の証左だろう。劇中、DJミスター・セニョール・ラブダディがしつこく繰り返す「Wke up(目を覚ませ!)」という台詞や、ヒップホップグループ『Public Enemy(パブリック・エナミー)』の劇中楽曲『Fight The Power(権力と戦え)』の歌詞は、共に視聴者に「目覚め」を要求する意味合いがこめている。そして、タイトルの『ドゥ・ザ・ライト・シング(Do the right thing) 』「正しいことをする」という意味。映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』は、我々が目覚め、人種差別問題が繰り返される世界と向き合い、どのような正しい事をすべきか考えさせる映画である。

 

昨今の事態を受け、スパイク・リー監督はジョージ・フロイド氏とエリック・ガーナー氏が殺害された映像を、『ドゥ・ザ・ライトシング』の本編映像とミキシングしたショートフィルム『3 Brothers – Radio Raheem, Eric Garner And George Floyd(3人の兄弟-ラジオ・ラヒーム、エリック・ガーナーとジョージ・フロイド)』を公開。

「Will History Stop Repeating Itself?(歴史は繰り返すのをやめれるのだろうか? )」と発言した。こちらの映像も関連作として、是非ともご覧頂きたい。

 

『ドゥ・ザ・ライト・シング』はAmazonプライム、Netflixにて配信中。

Amazonプライム

https://www.amazon.co.jp/dp/B00I7N6M4U/ref=sr

Netflix

https://www.netflix.com/jp/title/448860?source=35

『3 Brothers – Radio Raheem, Eric Garner And George Floyd(3人の兄弟-ラジオ・ラヒーム、エリック・ガーナーとジョージ・フロイド)』

https://sports.yahoo.com/spike-lee-3-brothers-short-130658336.html

 

 

 

『LA92』(2017)

20世紀最大の大暴動になった『ロドニー・キング事件』を、当時の事件映像や裁判映像を交えて編集したドキュメンタリー作品。

 

『ロドニー・キング事件』とは、1991年3月3日ロサンゼルスで、黒人男性ロドニー・グレン・キング氏が警官にスピード違反を理由に暴行された事件と、これを端に発生した『ロス暴動(ロサンゼルス暴動)』の事を指す。キング氏が暴行された様子は、偶然ジョージ・ホリデー氏がビデオカメラで捉えており、TVを介して全米に伝わった。キング氏はこの事件で、警官にトンファーやライトを使って56回も殴打され、脳震盪、眼窩粉砕、頬骨が分離する等、甚大な被害を被った。それに加えて、犯行後に警官が無線でキング氏を「映画で観たゴリラ」や「トカゲ」と蔑視する記録もあったにも関わらず、全員白人の陪審員の裁判で無罪評決が下り、黒人コミュニティやリベラル層から非難が殺到した。キング事件の13日後にも、黒人女性ラターシャ・ハーリンズが射殺される事件が発生、裁判で加害者のトゥ・スンジャに無罪評決が下っていた事もあり、黒人コミュニティの蓄積された怒りはロス暴動で爆発する事になる…。

 

『LA92』は、全編事件当時の映像が使用されている為、非常に生々しいドキュメンタリー映像だ。警官に暴行されるキング氏の映像、不公平な司法裁判の映像、ロス暴動の怒り狂う人々の映像、それらの映像に共通しているのが「痛み」「怒り」だ。理不屈な差別を改善しない社会に苦しむブラックコミュニティの「痛み」の積み重ねが、やがてロス暴動という「怒り」に変化する。暴動の攻撃対象は白人に留まらず、何の関係もない韓国系移民も標的となっていく。そのとどまりようのない暴動の負の連鎖は、まるで世界中に広がりを見せているコロナウイルスのようだ。『LA92』は、こうしたウイルス的な差別の負の連鎖を断ち切るには、人種的不正義を行使する社会の改善が必要だと教えてくれるドキュメンタリー作品である。

 

『LA92』はYouTubeのナショナルジオグラフィックチャンネルにて字幕版が無料公開中。

Netflixでは字幕版と共に吹き替え版も配信中。

YouTube

https://www.youtube.com/watch?v=53DJ6fNhuJM

Netflix 

https://www.netflix.com/jp/title/80184131

 

 

 

『デトロイト』(2017)

1967年のデトロイト暴動の最中に発生したアルジェ・モーテル事件をモチーフにした作品。デトロイト暴動とは、ミシガン州デトロイトで発生した暴動の事である。この暴動を鎮圧する為にデトロイトは州兵を派遣、3人の死傷者と1189の負傷者を出した。本作で描かれるアルジェ・モーテル事件は、デトロイト市警と州警察と州兵が、暴動の最中に発砲音を聞きつけアルジェ・モーテルに突撃。その取り調べの中で、若い黒人男性3人が犠牲になった実在の事件が題材である。

 

この映画は、キャスリン・ビグロー監督とスタッフが、事件当時に現場にいた被害者に取材とアドバイザーを依頼し、脚色を施して作られた映画である。この映画の恐ろしいところは、デトロイト市警フィリップ・クラウスの暴虐ぶりだ。劇中、アルジェ・モーテルに突撃したクラウスが、被害者たちを不当に監禁、尋問、暴行を繰り返すのだが、それが彼なりのまっすぐな正義感からの行動なのが恐ろしい。クラウスを演じたウィル・ポールターは、人種差別的で独善的なこの役に、撮影中に嫌悪感の余りに立ちすくんで泣いてしまったという程である。対する主人公の黒人警備員メルヴィン・ディスミュークスは、クラウスの随伴者という立場上、彼の暴虐ぶりを止めることができない。なので、目の前で被害者たちが酷い尋問や暴行を受けてもクラウスの犯行を傍観するしかないのだ。ディスミュークスは出来る範囲で犠牲者が増えないように奮闘するが、クラウスの暴走を止めることができない。そして本編が進むごとに、不正を目の前に何もできない立場は、いつしか視聴者の立場と重なってくる。この映画のテーマはそこで、ひたすら不正に大して傍観するしかったメルヴィン・ディスミュークス氏の辛さを体験する事が大きな主題になっている映画なのだ。いささか辛い気持ちになるかもしれないが、メルビン・ミュークス氏の当時の地獄のような気持ちを体感して欲しい。そして、フィリップ・クラウスのように権力を持つものが暴走することがいかに恐ろしいことか考えて頂きたい。

 

『デトロイト』はNetflix、Amazonプライムにて配信中

Netflix 

https://www.netflix.com/jp/title/80187062

Amazonプライム 吹替え

https://www.amazon.co.jp/dp/B07DRZD5PV/ref=

Amazonプライム 字幕

https://www.amazon.co.jp/AC/dp/B07DRXKXQR/ref

 

 

 

『This is America』(2018)

 

『This is America』は、アメリカの銃乱射事件や、黒人への過剰暴行事件等をテーマにしたミュージッククリップ。ラップとして初めて、グラミー賞の最優秀レコード賞と最優秀楽曲賞をダブル受賞した作品でもある。アーティストはチャイルディッシュ・ガンビーノが務めた。チャイルディッシュ・ガンビーノは、アメリカでラッパーとして活躍している人物。本名のドナルド・グローバー名義で、コメディアン、俳優、プロデューサーとしても活躍している人物で、俳優としては『ハン・ソロ』のランド・カルリジアン役が有名である。プロデューサーは『ブラックパンサー』『マンダロリアン』の楽曲制作で有名なルドウィク・ゴランソン、監督は日系アメリカ人のヒロ・ムカイが務めた。ミュージックビデオ本編内で、フロリダ州サンロードで警官に射殺されたトレイボン・マーティン氏の父親を思わせる人物や、サウスカロライナ州チャールストトンの教会で9人の黒人の男女が銃殺された事件を思わせる映像が描れて話題になった。その他にも、1830年代に白人俳優のトーマス・ライスが人種差別的意図で顔を黒塗りにして演じた『ジムクロウ』を真似たポーズをとるガンビーノや、黒人を射殺したAK-47を共和党のシンボルの赤色の布の上に置くシーンなど、アメリカの闇の歴史を辿る要素が強いミュージッククリップである。是非とも拝見してタイトルの『This is America(これがアメリカ)』の意味を考えて欲しい。

 

『This is America』

https://www.youtube.com/watch?v=VYOjWnS4cMY

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