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【連載コラム】鶴岡亮のデンジャーゾーン! 第八回 ネタバレ有り 宇宙版地獄の黙示録アド・アストラSpace Apocalypse Now

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【文・鶴岡亮】

 

鶴岡亮Twitter:https://twitter.com/ryoutsuruoka

 

今作の物語は「サージ電流」により地球の環境が悪化し、宇宙旅行が民間に普及した近未来。主人公ロイ・マクブライドは20年前に宇宙探索で失踪した父親クリフォードの姿に影響を受け、自身も父と同じく陸軍所属の宇宙飛行士になっていた。しかし、宇宙軍高官から父親が海王星付近でサージ電流に関わる秘密を抱えながら生きている可能性があるとの知らせを受ける。ロイは決心を固め、父クリフォードが居るとされる海王星への32億キロの旅に赴く。

監督は「エヴァの告白」「ロストシティZ失われた黄金都市」のジェームズ・グレイで配給は20世紀フォックス。

 

<宇宙船や施設などのデザインワークと音響効果>
宇宙探索を主軸にした本作の宇宙船や施設などの映像表現は「スターウォーズ」や「スタートレック」などの視覚的な格好良さを重視したものとは違って、極めてリアリティの高い路線で描かれており「2001年宇宙の旅」や「インターステラー」などの作品のデザインワークに近い。更にそれらよりも現代科学の延長線として突き詰めた路線で表現されているので、リアルなSF映画としての説得力を持たせる事に成功している。撮影も「インターステラー」や「ダンケルク」等のクリストファー・ノーラン組の「ホイテ・ヴァン・ホイテマ」が担当しており、ステーションの描写を除いて殆どがロケハンによる撮影が行われていて、近年のハリウッドの「なるべく本物で撮る」路線が反映されたものになっている。更に「グレイシー・アレクサンダー」が手掛ける「ゼロ・グラビティ」の音響効果を発展させたような振動と無音の狭間のサウンドデザインによって舞台が真空の宇宙というのを観客に認識させる効果を生み出している。「戦場でワルツを」や「シャッター・アイランド」「2人の女王メアリーとエリザベス」などを手掛けた「マックス・リヒター」による劇伴もバイオリンやチェロ等を使用した無駄を削ぎ落とした雰囲気重視の濃厚な楽曲が提供されている。

 

<闇の奥(地獄の黙示録)の影響>
冒頭、宇宙飛行士ロイが同じく宇宙飛行士の父親の探索を宇宙軍高官に命じられるパートや、父親の元へ向かう迄に様々な襲撃や陰謀等の困難に遭遇し、その結果自分のアイデンティティについて再思考する流れは、「ジェームズ・グレイ」監督曰く映画「地獄の黙示録」の原作小説「闇の奥」からインスパイアされたアイデアだ。地獄の黙示録の冒頭で陸軍所属のウィラードが高官にカーツ大佐暗殺を命ぜられ、ベトコンの襲撃、上層部の陰謀等に巻き込まれ、その道中でウィラードの内面の変化が現れて行く展開は非常に相似点が多い。ドラマが進行する毎に周囲の環境が研ぎ澄まされ、主人公の内面にスポットライトが当たって行くアド・アストラは宇宙版地獄の黙示録といっても過言では無いだろう。

 

<宇宙を舞台にしながらも現代世界の問題を含んだ物語>
アド・アストラは宇宙を舞台にしながらも現代世界の問題も盛り込まれた作品だ。主人公は父を探し求めて宇宙へと旅立つのだが、彼が月面で体験する出来事は今現在地球上で起こっている問題のメタファーになっているものだ。月面ステーションではブルーカラー(低所得者の労働者)が大企業に奉仕し、各国の思惑を受け資源を求めて旅行者を襲撃するスペースパイレーツ(宇宙海賊)が氾濫している状況、サージ電流による環境悪化等、我々の現実世界の問題に当てはめると、労働環境問題、資源争奪を巡る各国の軍部や、ソマリア沖の海賊、PMC(民間軍事請負企業)の氾濫、工場等から漏れ出る化学物質大気汚染によるオゾン層破壊や異常気象による地球の環境問題等を想起させ、宇宙探索をコアにしたドラマでありながら現実世界の問題をメタフィクション的に取り込んだ創りのSFドラマになっている。

 

<監督の主張したいメッセージ>
ブラッド・ピット曰く本作は「オデュッセイア」のように自己発見の旅をテーマにした作品であり、この映画の主人公ロイが最終的に向き合うべき対象になるのがロイの父親クリフォードだ。彼は人類を蔑み、より崇高な存在の「宇宙の知的生命体を発見する」という目的の為に家族を捨て海王星に留まった。それに対して主人公ロイも仕事に熱中するあまり、恋人にも別れを告げられ、宇宙に父親探しの為に旅に出たという父親と似たキャラクターになっている。
クリフォードは知的生命体の発見という目標を掲げていると主張するが、それは現実世界で向き合うべき「現実」の象徴の家族からの「逃げ道」にしか過ぎず、息子の説得を受けたにもかかわらず、結局その「逃げ道」から脱出する事が出来ず、現実逃避としての象徴の海王星に留まってしまう。息子のロイはその姿を観て自分のドッペルゲンガーとしての父親と重なる自分の今迄の生き方から脱却し、地球にいる愛するべき恋人の元に戻り彼女と生きて行く事を決意する。
これは自分が向き合うべき問題からどこまで逃避しようとも決して解決しない。結局はそれらの問題に目を向け、向き合って生きて行くしか無いというメッセージが込められており、個人感の問題から現代世界の問題迄目をそらすなという監督のメッセージが含まれているのだ。

 

現代科学の延長線にあるテクノロジー描写や、宇宙を舞台にしたような地獄の黙示録のような展開、現代世界の問題や個人史的な物語のアド・アストラは大作SFでありながら何処か「イカリエXB-1」や「2001年宇宙の旅」「惑星ソラリス」等の60、70年代SFのようなシックな創りになっている。近年では珍しいタイプの大作SF映画なのでSFファンは是非とも観て欲しい。

 

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