【STORY】
それは“if”の物語。
能美クドリャフカと直枝理樹は恋人同士。
リトルバスターズの面々と楽しい毎日を送っていた。
そんな矢先、 男子寮で水道事故が起こり、部屋が使えなくなってしまう。
「ルームメイトさん、今も募集中、なの、です……」
クドの申し出に応じて、女子寮で一緒に生活することに。
そして迎えた夏休み、 みんなで一緒にペットボトルロケットを作ることになり………
『ロケットキング』の称号をかけて、ミッションスタート!?
【文:畑史進(編集長)】
「わふ~っ!」
2000年代後半にPCゲーム、特に恋愛シミュレーションゲームをドップリと嗜んでいた人で、このワードを知っている人は多いかもしれない。まぁ、全員がそうでなかったにしても、AAとセットで「(>ω<)わふー!」という文字列はニコニコ動画等のオタク向け動画サイトのコメント欄やSNSなどでちらほら見受けられた。
その元ネタは2007年にKeyから発売されたPCゲーム『リトルバスターズ!』の能美クドリャフカ(以下クド)が感極まったときに発する愛くるしいリアクション。その可愛らしい声と表情、出で立ちに胸を貫かれたプレイヤーは数しれず。フィギュアも同作に登場する他キャラクターと比べてぶっちぎりで展開されたと記憶している。あの時代を代表するキャラクターと言っても過言じゃないと思う。
そんな僕は笹瀬川佐々美派でした。ALTER製のフィギュアを所有するくらい好きだぞ。
さて、そんなクドの人気は留まることを知らず、2010年に『クドわふたー』として独立したスピンオフ作品まで発売された。今もそうだが、PCで展開される美少女ものゲームはある程度人気が出ると、外伝作品としてファンディスクや続編が作られたりすることがある。当時のKeyも『CLANNAD』のヒットのあとにドラマCDの『光見守る坂道で』や、人気キャラクターの坂上智代のルートの続きとして『智代アフター』を発表した。『クドわふたー』もこうした一連の流れから制作された作品の一つだった。
当時の僕の所感を正直に話すと、クドはあまり好みのキャラでなく、作品が発表されたときには「はぁ、クドのルートの続きって誰が望んでんだ?!人気キャラでもあの続き要るか?」と目を丸くした。『リトルバスターズ!』は友情がテーマだったはずで、特定のヒロインの続きは蛇足感が出るだろうと思っている矢先、発売前のPVは当時でも凄くぶっ飛んだもので完全に「クドガチ恋勢に向けられたトンデモゲームじゃないか・・・」とまで思ってた。
だけど、一応続きが出ちゃったんならしょうがない。とりあえず、怖いもの見たさに遊んでみたら・・・
「あれ、案外おもしれー」と素直に感じた。
特に1回目のプレイ「わふたー」クリア後に「After」が出てきたときの驚きと読み進めているときの熱中度は今でも覚えてる。クドの愛らしさだけに終わらないしっかりとしたストーリーの構成が意外なクオリティで寝食を惜しんで一気にクリアしてしまったほど。プレイ中には何度か腹の底からこみ上げてくる言いようのない感情が襲ってきたりしたもので、クリアした後には初めてクドというキャラクターの良さが理解でき、「クドルートのアフターがちゃんと作られてよかった」と感じられ、新キャラの氷室憂希もすぐに共感できて最後まで一気に読み進められた。
「わふたー」と「After」、2種類のアフターストーリーがダブルミーニングとしてタイトルに込められていると知ったときには少しやられたと感じたものだった。
あまりにもザックリとした書き方となってしまっているが、詳細は現在出ているPSPやPSVita版等を買って楽しんで欲しいという思いもあるんで、未プレイ者のこれからの楽しみを奪うようなことは無いように配慮しているつもりだ。
そんな『クドわふたー』の劇場作品が7月16日に公開される。本編時間は約50分、TVアニメ2話分の尺で構成されたアニメ作品となっている。内容も“おおよそ”ゲーム作品に寄ったものとなっている。
この作品は2017年に『リトルバスターズ!』の10周年を記念して、クラウドファンディングを活用した制作が発表されると、わずか2日で目標金額の3000万円を突破し、最終的に7800万円が集計されたという、驚くべき偉業を達成している。これだけの情報でも2000年代後半から2010年代前半にクド、ならびに『リトルバスターズ!』がPCゲーム文化でどれほどの大きい影響を与えていたか分かるだろう。
制作はTVアニメ版『リトルバスターズ!』を手掛けたJ.C.STAFFで、キャスト陣も続投している。そのため本作の鑑賞には予め『リトルバスターズ!』、『リトルバスターズ! 〜Refrain〜』の全39話を予習しておくと本作への理解が深まる。現在はVOD(ビデオ・オン・デマンド)などでも見ることができる(ところで『エクスタシー』追加のキャラクターってOVAとして出たけど、今VODで見れるんだろうか?)。
さて、先程本作に関して「“おおよそ”ゲーム作品に寄ったもの」という表現をしたが、原作プレイ済みの人ならわかるように50分弱で完結するような内容ではない。加えて、公式サイトで明らかになっている登場人物からわかるように、原作では登場しない『リトルバスターズ!』のメンバーが全員登場している(原作では夏休みに入り、メンバーはそれぞれ実家に帰省していた為、登場しない)。
本作は『クドわふたー』のゲームを完全に網羅したアニメ作品というものではなく、ゲームの雰囲気をおおよそ振り返り、かいつまんだ内容となっている。印象的だった有月椎名との共同作業で作るペットボトルロケットの発射までの過程はリトルバスターズ!メンバーが加わっていることから、原作にはなかった面白さを演出し、ファンに喜ばれるアレンジとなっていると感じた。
そこから展開されるストーリーは原作プレイ済みの人ならなんとなく察せられる作りとなっており、映画全体を通して「3つ目のアフターストーリー」として楽しめるんじゃないだろうかと思う。逆にいきなりこの作品を原作ゲームの事前プレイなしに見ると後半部分の理解が難しいと思う。一方、原作ゲームプレイ済みのファンに向けたサービス作品として考えたら問題はない。
こう聞くと、敷居の高い作品の様に聞こえてしまうかもしれないが、決してそうではない。前半はある種、「TVアニメシリーズの番外編」として楽しめるように編成し、後半は原作ゲームへの興味を惹きつつ、ゲーム未プレイ者への原作ゲーム購入の動機を生み、購入への導線を敷きつつ、今後のプレイに対する楽しみをふくらませる作りになっている。そのため、とてもよくできていると感心させられた。
もうすでに10年以上前にプレイ済みの僕にとってこの映画はある種の同窓会みたいな懐かしさと楽しさがあった。映画を観ながら「あぁそんな内容だった」と思い出しつつ、熱中して読み進めていた当時の空気まで思い起こさせてくれた。原作プレイ済みだからこういった高揚感を抱けただけかもしれないが、TVシリーズだけでも抑えておけば十分興味を抱く内容になっているのでぜひ見逃すことのないよう、極力劇場に足を運んで欲しいと思える作品だった。
もちろん、原作ゲームをやるに越したことはないので、公開延期になっている今、予習しておくのがベストだ。
■『劇場版 クドわふたー』公開劇場
東京 EJアニメシアター新宿
大阪 梅田ブルク7
愛知 伏見ミリオン座
北海道 ユナイテッド・シネマ札幌
福岡 T・ジョイ博多
■スタッフ
原作:「クドわふたー」(Key)
監督 : 鈴木健太郎
脚本 : 魁
キャラクターデザイン : 飯塚晴子
総作画監督 : 谷川政輝
プロップデザイン : 兒玉ひかる
色彩設定 : 石川恭介
美術監督 : 岩瀬栄治(スタジオちゅーりっぷ)
特殊効果 : 向井吉秀
撮影監督 : 高橋昭裕、廣瀬唯希
編集 : 近藤勇二(REAL-T)
音響効果 : 上野 励
音響監督 : 本山 哲
音楽 : Key/ビジュアルアーツ
アニメーション制作 : J.C.STAFF
配給:角川ANIMATION
製作:株式会社ビジュアルアーツ
■キャスト
能美クドリャフカ : 若林直美
直枝理樹 : 堀江由衣
棗鈴 : たみやすともえ
棗恭介 : 緑川光
井ノ原真人 : 神奈延年
宮沢謙吾 : 織田優成
神北小毬 : やなせなつみ
来ヶ谷唯湖 : 田中涼子
三枝葉留佳 : すずきけいこ
西園美魚 : 河原木志穂
二木佳奈多 : すずきけいこ
あーちゃん先輩 : 平井理子
氷室憂希 : みくみくみ
有月椎菜 : 仲野七恵
■ミュージック
OPテーマ:「Light a Way」
歌:鈴湯
作詞:魁
作曲:竹下智博
編曲:中沢伴行、竹下智博
挿入歌:「星守歌」
歌:能美クドリャフカ(CV.若林直美)
作詞:城桐央
作・編曲:清水準一
EDテーマ:「星屑」
歌:霜月はるか
作詞:城桐央
作曲・編曲:清水準一
EDテーマ:「Over The Summer」
歌:能美クドリャフカ(CV.若林直美)
作詞:魁
作曲:折戸伸治
編曲:森藤晶司
アニメ公式サイト:kud-wafter.jp
公式twitter:@key_official
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