映画『見えないほどの遠くの空を』公開記念 榎本憲男監督・岡本奈月さん特別インタビュー



いよいよ6月11日(土)から公開される映画『見えないほどの遠くの空を』。劇場支配人、番組編成、プロデューサー、脚本家というキャリアをもつ榎本憲男が、初の監督に挑戦。主人公に、「自分の手で物作りをしている人間独特のオーラがある」という理由で監督がリクエストした森岡龍。ヒロインには『ヒーローショー』に出演の岡本奈月。本作の映画公開を記念して、榎本憲男監督と岡本奈月さんにお話しを伺いました。

—脚本家やプロデューサーとして、既にポジションを確立されているのに、何故、監督にチャレンジしたのでしょうか?
榎本監督「確立はしてないですね(笑)。理由のひとつは、そういったポジションうまくこなせなかったということがあります。プロデューサーというのは二つのタイプがあって、一つは作家に惚れこんで、作家がやりたいことを実現するために作家を補佐するタイプ。もう一つは、こういうものを作りたいから、それに合った監督を起用するクリエイタータイプ。私は、どちらかこというと後者のクリエイタータイプだった。そうすると、自分でシナリオを書いたりなんかもして、どうしても監督をコントロールしようとする。でも、一方の監督の方だって作家としての自負もあり、やりたいこともあって、どうしてもこちらの作品イメージとの齟齬が起こり、そこが広がって作品にダメージを与えることが多いことに気付いたんです。日本で、プロデューサーをするということは、その監督が良い作品を作れるように、環境作りをするしかできないと思うんです。ハリウッドは技術の水準の平均値が高いので、シナリオさえコントロールできれば、ある一定以上の作品になることが多い。でも、日本では、予算もギリギリの中でやっているし、不安定な要素が多い。なので、ちょっとしたことで、クオリティーが下がることがある。なので、徹底的に監督を助ける、そうでなければ自分で撮るしかない、という結論が自分の中で出たんですね。」
—小説も出版されていますが、映画を作るために小説を書いたのか、映画があって小説なのか、どちらですか?
榎本監督「シナリオを書く前に、シノプシスというものを書くことがあるんですね。それは、自分の描きたい世界を確認するために書くこともあるんですが、このシノプシスを勢いに任せて延々と延ばして、小説みたいな形態にしてしまったんです。で、映画をたまたま観に来てくれた出版社の方から、小説にしたいという提案をいただいて、その方にシノプシスを渡したら、「ほぼ、このままで小説になります」と言っていただいて。それで、シノプシスを小説用に手直しをして出版しました。」
—本作の題材はどうやって思いついんたんでしょうか。


榎本監督「まず、低予算で撮れるものというのがひとつ。あと、私はある学校で講師をしているんですが、その中で、サークルの仲間の誰かが死んで、それが原因で残された仲間の人間関係が・・・というプロットがよく出てくるんです。これは、まあ、退屈ですよね。でも、それを面白く練り上げるとなると、生徒の力ではストーリーになかなかドライブがかからない。で、授業中に、自分だったらどうするんだろうと考えた時に、その場であるストーリーが浮かんで、メモをとりました。それが「見えないほどの遠くの空を」のアイディアになったというわけです。」
—岡本さんは、まだ学生ですか?
岡本さん「はい。現役の女子大生です(笑)」
—最初にオーディションを受けた時はいかがでしたか。


岡本さん「”顔見せ”ということで行ったんですが、完全に私が出演するかんじになっていて(笑) 人がすごい沢山いて。服のサイズから、全て測られて。もう、実は出演が決まっていたようで(笑) もう逃げられない感じでした。」
—かなり難しい役だったと思いますが、初めて脚本を読んだ時の感想はいかがでしたか?
岡本さん「脚本を読んだら、出てきてすぐに死んでしまう役でビックリしました(笑) その後は、普通のお客さんがストーリーを追っていくようにその先を読み進めていくと、「こんなふうになるんだ」という感じでした。あと、杉崎莉沙と私は、かなりキャラクターがかけ離れていて(笑) どちらかというと、森岡さんが演じる「高橋」くんのほうが感覚が近かったです。」
—どのように演技を組み立てていったんですか。
榎本監督「現場の前に、まず、本読みから始めました。」
岡本さん「今の映画は、ナチュラルな演技を求められることが多いんですけど、今回はそれとは真逆で、”棒読み”から入ったので、頭が混乱してしまいました(笑) それで、すぐにICレコーダーを近所の電気屋に行って買って、ひたすら台本を読みました。とりあえず、(セリフ使いを)フラットにすることから始めました。」
—フラットにするというのは、自然な演技とどのように違うんでしょうか。
岡本さん「抑揚をつけないという意味です。」
榎本監督「まずは”不自然”なくらい抑揚をつけないで欲しいと岡本さんにお願いしました。」
岡本さん「一人でセリフのトーンを掴む練習をしてからリハーサルに入りました。そこで、少しづつ演技に肉付けをしていきました。ここには、こういう抑揚、という感じで。台本の文字一つずつに、印がついているんです。」
—印というのは。


岡本さん「例えば、ここの「だ」は強調するとか、「の」は強調しないとか、そういう指示が細かく書いてありました。その指示に従って、ひたすら練習しました。いいテイクを、監督からCDで渡されて。それをまた練習するという感じでした。」
—「いいテイク」とは、リハーサルを録音して、その中から良い部分を切り出して監督が岡本さんに渡すということですか。
岡本さん「そうです。リハーサルの模様を全て監督が録音していたんです(笑) そこから良い部分を」
榎本監督「嫌われるよね(笑)」
岡本さん「本当に徹底していました(笑) 監督に言われた通りに完璧にするんですけど、でも、相手がいるので演技が変ってくるんです。そうしたら、一行、一言を変えなくてはいけないんです。その、練習と修正の繰り返しが大変でした。」
—岡本さんは、いわゆる普通の”映画”に出演されていますが、今回のような低予算の映画に出演していかがでしたか?
岡本さん「違いというのは感じませんでした。お弁当とかも、私にとっては普通でしたし(笑)」
—榎本監督自身は、初監督ということでいかがでしたか?
榎本監督「スタッフのみんなが、「この監督はなにも知らないから、支えてあげなくちゃな」という雰囲気だったと思います(笑)」
—演出に迷うということはありませんでしたか?
榎本監督「周りは、私が初監督ということで、迷うと思っていたようですけど、やりたいことは決まっているので、現場で迷うということは無かったです。」
—現場で榎本監督は演技指導をどのようにしていたのでしょうか。
岡本さん「リハーサルをみっちりやっていたので大丈夫でした。撮影までの作業が大変でしたけど。撮影が始まってからのほうが楽でした。」
榎本監督「現場では俳優さんのNGは、ほとんどなかったです。リハーサルで演技を固めてしまっていたので。例えば、何回かリテイクをして、3テイク目に1テイク目のセリフをかぶせても、殆ど違和感がないくらい(笑) そのくらい俳優さんに不自由を強いていたということですが。」
岡本さん「アドリヴとかはなかったです(笑) ひとつひとつの演技も決まっているので、神経質になっていました。」
—そこまでして演技を固めた理由はなんですか。
榎本監督「そういう性分というか、……そうしたかったんでしょうね(笑)」
—映画研究会という舞台設定には、監督の過去の経験が反映されていますか。
榎本監督「いいえ。映画研究会という舞台設定にしたのは、先程言ったように、生徒との会話をしている中から思いついたものです。いかにも自主映画っぽい所から始まって、違うところに連れていくというのが狙いでした。」
—最後に、これから映画をご覧になる方にメッセージをお願いします。
岡本さん「セリフ回しや、画が印象的なので、そこに注目していただければと思います。是非、映画館でこの映画を観てください。よろしくお願いいたします。」
榎本監督「今、映画は、すごく巨大なものと、ものすごく小さなものしか成立できないようになってきています。ある意味、この映画は、映画不況だからできた小さな作品だと言ってもいいかもしれません。そういった制約の中で、アートだぞと身構えなくても自然体で観れる、けれどメジャーの映画にはない、濃厚な味わいのあるものを目指しました。この作品に集まってくれたスタッフ、キャストの皆さんにも感謝しています。是非、この映画を観ていただいて、こういった映画が次につながるよう応援をお願いいたします。」
—ありがとうございました。
映画「見えないほどの遠くの空を」(榎本憲男第一回監督作品)
2011年6月11日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー予定
製作:Breath、コミュニティアド、ドゥールー、他
配給:ドゥールー、コミュニティアド
制作:ドゥールー、クジラノイズ
出演:森岡龍、岡本奈月、渡辺大知(黒猫チェルシー)、佐藤貴広、中村無何有、橋本一郎、他
公式サイト:http://www.miesora.com

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