『東のエデン 劇場版』AR三兄弟インタビュー AR(拡張現実)×『東のエデン』

 『東のエデン 劇場版Ⅰ The king of Eden』の舞台挨拶で、劇中に登場する東のエデンシステムを実際に開発!
『東のエデン』の世界が、すぐそこに来ていることを実感させてくれたAR三兄弟さんにインタビューしてきました。




         AR三兄弟 右から長男さん 次男さん 三男さん
(編集)本日はお時間いただきましてありがとうございます。まず、名前をお呼びする時は、AR三兄弟の長男さんと次男さんと三男さんでよろしいでしょうか?
(AR三兄弟)はい。
(編)まず、初めてAR三兄弟さんのことを知った方もいらっしゃるとおもいますので、自己紹介をお願いいたします。
(長男)クリエイティブチームのALTERNATIVE DESIGN++というのをやっていまして、普段は広告の企画を考えたり、映像や音を作ったりしながら、ARという技術を使って様々なパフォーマンスをしています。僕らは同じ職場の人間で、私はクリエイティブチームの責任者をやっています。
(編)先日のテアトル新宿でのイベントは面白かったと同時に大変驚きました。最初にARに興味をもったのは”セカイカメラ”からでしょうか?
(長男)はい。セカイカメラを見てから、それが好き過ぎて。いろいろと考えているうちに、セカイカメラでは出来ないことが沢山あることが分かってきたので、それを自分たちでやってみようと。
(編)ARとは簡単に言うと何でしょうか?
(長男)よく引き合いにだされるのはVR(ヴァーチャル・リアリティ)に対するARという説明がよくされます。VRはヴァーチャルの中で完結するもの。つまり、CGや画面の中だけで完結してしまいます。しかし、ARというのは私たちが実際に生活する”現実”に、情報とか映像とかいろんなものをレイヤード
(配置)して現実と組み合わせて空間ができあがる、その技術や環境をARといいます。僕らはホームページとかシステムのデザインとか、パソコンとか携帯電話のユーザーインタフェースをやっていて、いかにワンクリックを”省略”するか。ということを考えてデザインの仕事をしてきたんです。で、それにARの技術・概念を応用すると、いろんなプロセスの省略が一気にできるし、これをやったほうが僕らのユーザーインターフェイスの仕事にも非常に役立つし、あと、次にもっと面白いことがあるんじゃないかと。そういう意味で”面白い”んじゃないかと。ということでARを始めました。
(編)先日のパフォーマンスで、カメラを経由した”普通の紙チラシ”の動画上のチラシの上に、映像・動画が映し出されるというものがありましたが、あれは一体どういうものなんでしょうか?
(長男)あれはARフライヤーシステムですね。実はARのライブラリがあって、ワシントン大学に居た加藤博一教授という方が、SDKを作ったんです。僕らはその派生ライブラリ(FLARToolKit)を使わせてもらっています。ARで一番有名なものに、セカイカメラというのがあるんですが、あれは地図情報やiPhoneだけでしか出来ないというパターンが多くて、結構可能性は狭いんですよ。なので、僕らは、その媒体というか、プログラムの世界の中のマッシュアップだけではなくて、身近なオモチャを使ったりとか、あと普通の「田んぼ」を自体をARパフォーマンスの素材にしたりとか。あと、今回の『東のエデン』のように、アニーションや映画、TVやコマーシャルなど、様々なものを素材にして、いろいろと作っています。
(編)実際には存在しないものが、画面を通してフィードバックされて、これは合成されたものだと分かっているのに、 その存在を認識してしまうという感覚。あれは一体何でしょうか?面白いんだけれでも気持ち悪いというか。AR三兄弟さんとしては、どのように捉えていらっしゃるんでしょうか?
(長男)それは多分いろんなものの”省略”なんですよ。いままでは、チラシがあります。URLがあります。QRコード等があったりして、それをパソコンとか携帯を開いて、またそこでURLを打ち込んで、ダウンロードして初めて見えたものが、それをかざすというひとつの行為、それだけで情報が見えてしまうという。その省略具合が多分斬新さを呼ぶし、その気持ち悪さを呼んでいるじゃないかと。いろんなプロセスを省略してしまっているので、そのプロセスがないという状態自体が、斬新さと、その小気味悪さと、新しさと、なんというかバランスが多分その体験につながっているのかと。
(編)あまりにも人間の感覚に近い感じで情報がポーンと来るので、それが”小気味悪い”ということでしょうか?
(長男)そうだと思います。
(編)では、次に映画のお話を。事前に『東のエデン』のアイディア出しに参加されたことはなかったようにお聞きしましたが、『東のエデン』の放送を観ていらっしゃったんでしょうか?また、『東のエデン』の印象や、神山監督と実際にお会いした時、監督どのようなお話をされたんでしょうか?
(長男)『東のエデン』という作品と、その中でARが使われているということも三兄弟とも知らなかったです。今回のパフォーマンスの話も、何かプロモーション的なことをしたいということでお話しをいただいていて、じゃあ観てみようということで観たんですよ。そしたら、まさしく僕らがやっているようなことをやっていて驚きました。おそらく監督は無自覚でやってらっしゃるだろうし、あとは想像力の中で現実の先にいっちゃってるんですけど、現実を見越した、さらに先へいっちゃているというものを作品世界に落としているというのが、ちょっとヤバイと思って。この前のパフォーマンスでは、この作品の世界観の中にあるものを、僕らが新しいものを作るんじゃなくて、作品の中にすでにあるものをそのまま取りだしたほうが面白いだろうなと。それで、ツイッターをつくりましょう。携帯のエデンシステムをつくりましょう。エデンシステムはこういう動作をしましょう。というのを僕らが提案して。そういうかたちになったんです。神山監督はそれをみせた時に、あ もうこれできるんだ。という感じで(笑)既に知っていることを出されたかのようなリアクションで。監督の中では、もうそうなることは予想できていて、なんか久しぶりに親戚に会ったみたいな感じで、「大きくなったね。」みたいな雰囲気で。なんか凄いですね。
(編)アニメ等をご覧になったり、影響を受けたことはありますか?
(三兄弟)ありませんね。観てないです。
(長男)僕らがイメージする世界観って結構昭和っぽいんすよ。電脳電脳したものって、もしそれに寄せていっても、それを越えられないというか。なんかそういったものがじゃないものを、あえて持ってきてそこに何か新しいものをという。AR三兄弟という名前も、ARという新しめの言葉と、三兄弟という使い古された言葉を合わせることで、何か変な感じじゃないですか。なので、そんな感じで何かいろんなことがやりたくて。
(編)明和電機さんのイメージってあったんですか?
(長男)全くないです。けど、よく混同されますね(笑)
(編)『東のエデン』の中にノブレス携帯という、命じるだけで何でもできる携帯がでてきますが、皆さんがもしその携帯を持っていたら何をしますか?
(長男)僕は極度の花粉症なんで、杉を全部ブッた斬るとか、根源を断つとか。ダイナミックな。イメージ悪いかもしれませんが(笑)でも、花粉症の方には大ヒーローですから。ダイナミックに杉という杉を伐採するとか。やりたいです(笑)
(次男)逆に何もしない。100億使えるといわれても困っちゃいますし。何もしないという。放置という感じで。
(三男)でも使わないと殺されちゃうんじゃない?
(次男)そこまで何もしない(笑)
(編)三男さんは
(三男)100億に0を足して1000億にして、さらに足して1兆にして。投資か何かして。あと、そう。国を作りますね。
栃木かカナダに。(笑)
(編)前々から思っていたんですが、三男さんはネタ担当なんですか?
(三男)はい。そんな感じです(笑)
(編)今後、ARによって現実の世界がどうなっていくと思いますか?また、それにどのように関わっていきたいですか。
(三男)エデンシステムを見ておもったんですけど、なんか、人間の認識能力を越えてしまうようで怖いですね。完全にそれにゆだねてしまうというか
(次男)携帯と無くなって、服とかに一体化されるんじゃないかと。そうなってきたときに、実は体に害があるんじゃないかとか。なんか電波的な。そういう何かバランスが怖いなとか。
(長)なんか、みんなネガティブなことばっかり言ってるね(笑)
(編)長男さんはどうですか?
(長男)ARという認識もないまま、日常になっていくと思っているんですよ。いろんな生活の中にARがある状態に今 年からなっていくと思いますね。ハードとか素材とか、いろんな物が進化していくと同時にその省略がいろんなところで起こって。例えばパソコンを開くとか画面を見るとかものが、全部テーブルの上で行われちゃうとか、全部省略されてくると思うんですよ。実用レベルではそういったことが起こると思います。で、僕らは実用性がまだないのに、勝手に未来を想像して勝手に作っているんですけど。人間はいろんな感覚があるので、その感覚を拡張していくとか、インプット・アウトプットも拡張していくというか。最近一番興味があるのは、BMI(Brain-machine Interface )という脳波を取って車椅子を動かすというものがあるんですが、それって脳波のインプットじゃないですか。そのインプットができるんだったらその概念と、ARをマッシュアップすればいろんなことができるなというか。テレパシーにもなるし、超能力にもなるし、ものすごいいろんなことができるんじゃないかと。それは脳波なんで、いろんな感覚を司るところじゃないですか。それを突き詰めていくと感覚からのインプットもできるだろうし、ということを考えていますね。
(編)さきほど超能力とおっしゃいましたが、そこに存在すると思えれば、それはそこにあるというか感じるというか。例えば、妖怪なんかも、そこにいると思えれば認識できるというか。想像の世界が日常の世界に紛れこんでくる。それをどう思われますか?
(長男)テクノロジーがイマジネーションを狭めてはいけないと思うんですよ。風がある。ガタガタッという音がする。それはなんか妖怪の仕業なんじゃないか。みたいな余白があるから人はいろんな物語を作る。原動力になるはずなんですけど。それをいろんな情報で補足してしてしまうということになると、それは多分良くなくて、何かしら自分が考えていることを拡張する方向が多分いいんですけど。こうなんだよ、と押しつけてしまうものは技術が発達してもそんなに無いほうがいいのかなという気がします。
(編)神山監督や押井守監督の作品の中で既に電脳を通じて存在しないものを認識する世界はずっと描かれてきたにも関わらず、あまりピンときていなかったんですが、この前のパフォーマンスと本日のお話しを聞いて、そこに無いのにそこにある。という感覚がようやく実感できた気がしました。ようやく現実になるというか、それがどういう形で実現するのか、娯楽なのか何なのかわからないですが。
(長男)ありがとうございます。あと、娯楽といえば、企画しているときに意図していることがあって、ARG(Alternate reality game)代替現実ゲームという概念があって、僕はそれに傾倒しているんですが。それを『東のエデン』では持ちこんでいるというか、概念をマッシュアップしたというか。それにはいろんな可能性があって、映画の中にプロダクトプレイスメントみたいな概念があるじゃないですか。そういう概念でアニメを観ると色んなものが素材なんですね。『東のエデン』って、僕が関わる前から、滝沢くんが来ているジャケットを売ろうとか、そういうARGっぽいところがあって。そういうパターンっていろいろと加速していくと思うんですよ、そのほうが観客も没入感を持って観れるし。世界観が好きな人って、このキャラクターが書いてあるシャーペンとかよりも、劇中のキャラクターたちが身につけている物が欲しいわけですよ。それによって、世界観が好きな人を楽しませながら、もっと世界を広げられるという意味で、このARGという概念が一番しっくりきて。それで僕は今回、物語世界にあるものエデンシステムを持ちだしたんです。ネット等でその反響を拾っていたんですけど、全然ネガティブなことが無くて。よくやってくれたみたいな声が多いのも、この(東のエデンの)世界観を壊さなかったからだと思います。しかもこの前のイベントの時は映画のリピーターがほとんどでしたから。そういう人たちを楽しませるには、多分こうゆう手法が一番だったんじゃないかなと思います。
(編)今後の活動など教えてください。
(長男)僕らはARパフォーマンスをお客さんを集めてやっていまして、ライブハウスとか大学の一角とか、会社のオフィスを借りてやったりとか。いかに来ている人が面白がってくれるかみたいなことが目的です。AR三兄弟としてパフォーマンス、音楽も作ってますし、三男はソロライブ活動をやっているんですけど、そういうものをARというかたちで出したりとか。いろんなものをマッシュアップ素材として、拡張していこうかなと思っています。あと、『東のエデン』がらみでイベントの予定がいろいろありますので、是非来て体感してみてください。
(編)是非伺わせていただきます。本日はどうもありがとうございました。
『東のエデン 劇場版 I The King of Eden』
2009年日本映画
本編:82分
監督・原作・脚本:神山健治   
アニメーション制作:プロダクション I.G
イラスト・キャラクター原案:羽海野チカ
声の出演:木村良平、早見沙織、江口拓也、川原元幸
配給:アスミック・エース
[公式サイト]
『東のエデン 劇場版Ⅱ Paradise Lost』
2010年3月よりテアトル新宿、テアトルダイヤ、ユナイテッド・シネマ豊洲ほかにて全国順次ロードショー
2009年日本映画
監督・原作・脚本:神山健治   
アニメーション制作:プロダクション I.G
イラスト・キャラクター原案:羽海野チカ
声の出演:木村良平、早見沙織
[公式サイト]
(C)東のエデン製作委員会 イラスト:羽海野チカ


 

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