北村龍平最新作『ダウンレンジ』主演ステファニー・ピアソン独占インタビュー



鬼才・北村龍平監督の最新作『ダウンレンジ』が9月15日から東京・新宿武蔵野館で2週間限定のレイトショー、大阪・第七藝術劇場で公開される。本作はトロント国際映画祭においてミッドナイト部門に選出、ワールドプレミア上映が行われ世界中で高い評価を勝ち得た。今回、本作で主演を務めたケレン役のステファニー・ピアソンに独占インタビューを敢行した。

山道を走る車のタイヤがパンクする。乗っていたのは、相乗りした6人の大学生。止まったのは広大な山の一本道で、携帯の電波は不安定。パンクしたタイヤを交換しようと取り外すと、何かが地面に落ちて音を立てる・・・それは、ひしゃげた銃弾だった。タイヤは、パンクではなく、撃ち抜かれていた?その時、すでに若者達は、見えない何者かの「射程距離」に入っていた・・・。

タイトルである『ダウンレンジ』とは、銃弾の射程圏内を指す用語で、兵士たちの間では「戦闘地帯」を表す。

(取材:畑史進)

Q:今回プライベートでの来日ということですが、日本は初めてですか?

ステファニー (以下S):実は大阪に3か月間ほど住んでいたことがあるんです。演技やモデル、CMのお仕事をしていました。でも東京に来たことはなくて、今回が初めてです。北村監督と初めてお会いしたときに、日本に住んでいたことをお話しました。すると「どうせ東京でしょう?」「いいえ、大阪です」「お!?」というやりとりがあって、そこからつながりが生まれました。

Q:日本は住みやすいと思いますが、アメリカと比べてどうですか?

S:とてもキレイですし、安全に感じます。それに言葉がわからなくても、簡単に動き回れます。大阪に住んでいたときには、誰かに「この場所がどこかわかりますか?」ときくと、わざわざやっていることを止めて、通りを一緒に歩いてくれて、さらに別の人に声をかけ、3人もの人が助けてくれたりと、とてもフレンドリーでやさしい人が多かったです。

Q:それはステファニーさんが美しいからでは?(笑)

S:だけれど、大阪では昼間は真剣なビジネスマン、夜は楽しく変貌するのも好きです(笑)

Q:本作に出演するきっかけはどういったものだったのでしょうか?

S:私はいつも、面白くて多様性のある役柄とアクション映画を探していました。撮影するときは楽しくてワクワクするもので、今回の作品はちょうど良い出会いだったのだと思います。オーディションに行って、気に入ってもらい、それらが全てがうまくいきました。

Q:アクションをやりたかったということは、何かスポーツなどのバックボーンはあったのでしょうか?

S:はい、私は長い間ランナーをやっていて、高校のときには賞も取りました。運動が好きですし、テコンドーの経験も少しありました。なので撮影の中で「退けて!」と言われるようなシーンでは、転がったりジャンプしたり、ちょっとした楽しみを加えたりもしました。

Q:北村監督は最初どの様なイメージを持たれていましたか?

S:監督の仕事のスタイル、セットではどうなるのかなど、監督の仕事のスタイルをよく知らずにプロジェクトが始まるのは、少し怖くもありました。でもすぐに監督とも打ち解けられましたし、監督はセットではボスなんで大きな尊敬を感じていました。セットではロジスティック面、スタント、爆破シーンなどでたくさんの問題が起こりましたが、監督は上手に対処されていました。

Q:今回演じられた役は、父親が軍人関係で、いろいろ娘に教えたことがあり、結果として銃の知識を得ているという役でしたが、実際に銃を撃たれたことはありますか?

S:もともと銃器に対する事前の知識は無かったんですが、役へのリサーチをする中で勉強しました。リサーチは主に、軍関係の家族を持つこと、軍に起因するPTSDに関することなどで、私はそれを父親に訓練された娘であるケレンの役柄に、自分の生い立ちとして加えました。射撃場には行ったこともありませんでしたが、どうやって銃を撃つかを知っておくことは大事だと思いますし、俳優としてそれを学ぶのは面白いことだと思います。というのは、パンチの繰り出し方、馬の乗り方に加え、銃の撃ち方は俳優として知っておく必要があることだからです。それにアメリカ社会では銃が普及していて、簡単に手に入ります。アメリカでは現在起きている多くの暴力的な事件によって、銃規制を強めようとしてはいるものの、いまだに根強い銃社会で銃を持つことは権利だと思います。でも同時に日本では本当に厳しい銃に関する法律があって、身元や経歴の調査が必要で、免許の更新も頻繁に行わなければなりません。そういうのはアメリカも取り入れるべきですし、私たちは銃の取り扱いについて再教育すべきだと思っています。

Q:本作はどのくらいの期間で撮影されたのでしょう?

S:2、3週間くらいかけてリハーサルをして、その後に撮影を開始しました。その後1週間半くらいしたところで、北村監督が事故に遭ってしまい撮影が一時ストップしてしまいました。その後、再開してだいたい2ヶ月くらいでしすかね。キャスティングされてから撮影が終わるまで入れると、合計4ヶ月ほどです。映画の撮影は本当に速く進む時もあれば、長い時間がかかってしまうこともあります。でも最後には家族みたいになり、今でも共演者たちとはすごく親しいです。

Q:劇中では長い時間を車の後ろで縮こまっていましたが、撮影は大変でしたか?

S:たった1つのロケーションなので、1シーン、1カットだけの演劇のような形でリハーサルを繰り返しました。あと、本作はストーリーの順番通りに撮影されたので、最初はキャストが全員いたのに、撮影が進むにつれ、徐々に少なくなっていくのが辛かったですね。それと、劇中の状況は本当で、昼間は暑く、夜間はとても寒かったです。一日の終わりにズボンを巻き上げてみると、そこらじゅうにアザや傷がありました。ずっとホコリまみれで土の上で転がりながら撮影していたので、映画の中の車がだんだん家のように感じて行きました(笑)。私たちのキレイだった車が撮影の終わり頃には完全に壊されてしまいますが、まるで私たち自身を反映しているようでしたね。

Q:完成した映画を初めて観た時の感想を聞かせて下さい?

S:初めて観た時には、私たちは当然何が起こるか知ってましたが、思わず「あ!」と声をあげてしまうくらいすごく興奮しました。それに長い時間をかけて撮ったシーンが、わずか30秒で終わってしまったりなど、映画がとても速く進むことにも驚きましたね。全ての要素が合わさった完成品を見るのは、本当にクールな経験で、ただそこに座って映画を見ながら「あれ私たち!?すごい!」「友達が死んでしまう!」など大興奮でした。最高だった出来事のひとつは、トロント国際映画祭でのプレミアでした。映画が大好きで劇場での反応が良いことで知られるファンたちに囲まれて、何かが起こるたびに声をあげて反応するのを見ると、それがこの映画を見る一番いい方法なんだと感じましたね(笑)

Q:扱っているテーマ的に『ダウンレンジ』のアメリカ公開についてどう思われますか?

S:この映画を日本映画ではなく、アメリカ映画として製作することを決めた北村監督の選択は面白いと思います。なぜなら、アメリカ人にとってこれは本当にリアルな恐怖で、アメリカで起こる銃乱射事件や国内のテロ事件が、他の場所や他国に影響を与えているからです。さらに一番怖いことは、この恐怖体験は誰にでも、ランダムに起こりえるということ。映画を観に行った先、あるいはショッピングモールで、誰かが銃を持っていたらどうしようと、いつも考えてしまいます。お化けやモンスターよりも、銃を持った人間が何よりも一番怖いと思います。何が起こっているのかわからないことへの恐怖は計り知れません。

Q:アメリカ公開の際は規制が入る懸念もありますが、それはどう思いますか?

S:規制はされるべきではありません。これは今の社会に本当に関係していることだからです。この映画の撮影中にも乱射事件があり、社会とすごく関連性のあることだと感じたことを覚えています。それから約2年がたちますが、もっとつながりが強くなっています。ですからこの作品が人に見られることはすごく重要だと思いますし、加えてこの映画で使われているのはライフルで、オートマチックではありません。なぜ人々が軍隊で使われる武器を一般人が持つことができるのか、これは私も理解できないこと。猟をしていても、オートマチックで鹿を撃つわけではありません。それらは戦争で人を殺すために作られたものなんです。だからそれを街角の店で手に入れることができるというのは、大きなショックです。もともとこの映画を作るにあたって、政治的なメッセージをこめる予定はありませんでした。でも社会での事件に光が当たったことにより、人々の議論を起こすプラットフォームになった。だからこの映画は規制されるべきではなく、会話を始めるものであるべきだと思います。

Q:ステファニーさんが女優を目指そうと思ったきっかけは何でしょうか?

S:私はロサンゼルスで育ち、エンターテインメント業界の中で育ちました。私の父はCM監督で母はスタイリストで、それが自分の知る全てだったんです。それを見ながら「あれがやりたい」と勉強し、自分のスキルを磨いていきました。業界のことを直接見る機会があったというのは、すごく幸運なことだったと思います。両親には、もしこれがやりたいことなら一生懸命勉強して自分の技を見極めなさいと言われました。

Q:『ダウンレンジ』の演じた役柄とご自身の性格は全く違うと思います。もしあのシチュエーションになった場合、ご自分ならどう切り抜ける?

S:いい質問ですね。北村監督と私がキャラクターについて話し合ったとき、監督は特にケレンのキャラクター像が好きだと言っていました。他のホラー映画の中では、だいたい女の子は叫びながら逃げ惑った挙句にチェーンソーで殺されてしまう。でも私たちはそうではない。それに人間として、生きるためにはやり返すものだと思います。だから監督は、そういう意味でリアルなキャラクターを作りたいと言っていました。生きるためなら何だってするし、戦いもするということに同感でした。私の役は、もっと頑固で現実的な考えを持っているかもしれません。でもそれは彼女が、どこにいようとたった一つの銃がいかに強力で、破壊力をもつかというのをよく知っているからかもしれません。それと、この役に入れ込んだひとつの要素として、彼女の気質が私とすごく違ったことです。私はもっと楽しいことが好きだけど、ケレンはそうではありません。

Q:撮影に臨むにあたり、参考にした作品はありましたか?

S:私が一番影響を受けた作品のひとつは『ボーダーライン』です。エミリー・ブラントが美しい軍人を演じていて、カルテルに立ち向かっている映画です。彼女のキャラクターはすごく強くありながらも完璧ではなく、それはグループのリーダーにならざるを得なかったケレンとよく似ています。ケレンは車の中で誰とも話すことなく、ただ音楽を聴いていて、知らない人とは誰とも仲良くなろうとしてはいないんです。それなのに役立たずの人たちのグループで、リーダーにならざるを得なかった。ですからエミリー・ブラントのキャラクターに惹かれるところがありました。

Q:この作品はワンシチュエーションスリラーですが、このような設定の作品で、他に好きなものはありますか?

S:『ストレンジャーズ/戦慄の訪問者』と、そこから発展した数多くの逃げ場のないホラーです。とても恐ろしい設定ですよね。この作品では車もロケーションもそれぞれひとつのキャラクターです。なぜなら私たちはそこに閉じ込められているから。一人なんて、木の切り株の後ろにいて、もっと離れています。なので、私たちも俳優として、そういったホラー映画から学ぶことはありました。

Q:女優としての仕事をしていて、一緒に仕事がしたい監督、俳優などはいますか?

S:アレハンドロ・ゴンザレス イナリトゥ、『シェイプ・オブ・ウォーター』で最近アカデミー賞を取ったギレルモ・デル・トロ、それから私が目指している女優のケイト・ブランシェット。それに独特な役を演じ続けている俳優、女優たちはたくさんいます。私の目標は幅広い役柄を演じ分けられるようになること、面白い映画を作り続けることです。そして人々を考えさせること、それが『ダウンレンジ』に興味を持った理由です。この作品は恐ろしく、またスリリングでもあるけれど、社会的なメッセージもあるし、自分がもし実際にそんな状況になったらどうするのか、自分はどの役になるのか、最初に死ぬのか、最後に死ぬのか、それを考えさせられる作品です。それから一緒に仕事をしたいもう一人の監督はもちろん北村監督です!

Q:日本でこれから作品を見る人へのコメントをください

S:シートベルトを締めて!長い旅になるから!

『ダウンレンジ』
9月15日(土) 新宿武蔵野館2週間限定レイトショー
配給:ジェンコ
©Genco. All Rights Reserved.
公式サイト:downrangethemovie.com

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