『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』公開記念トークイベント オフィシャルレポート

 

【STORY】

イギリスのドキュメンタリー監督ルーク・ホランドは、アドルフ・ヒトラーの第三帝国に参加したドイツ人高齢者たちにインタビューを実施した。ホロコーストを直接目撃した、生存する最後の世代である彼らは、ナチス政権下に幼少期を過ごし、そのイデオロギーを神話とするナチスの精神を植え付けられて育った。戦後長い間沈黙を守ってきた彼らが語ったのは、ナチスへの加担や、受容してしまったことを悔いる言葉だけでなく、「手は下していない」という自己弁護や、「虐殺を知らなかった」という言い逃れ、果てはヒトラーを支持するという赤裸々な本音まで、驚くべき証言の数々だった。監督は証言者たちに問いかける。戦争における“責任”とは、 “罪”とは何なのかを。

 

 

【以下プレスリリース文掲載】

 

“第三帝国”にかかわった市井の人々の証言を記録したドキュメンタリー『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』が絶賛全国公開中となっております。

ヒトラー率いるナチス支配下のドイツ”第三帝国”が犯した、人類史上最悪の戦争犯罪”ユダヤ人大量虐殺【ホロコースト】”を実際に目撃した人々。武装親衛隊のエリート士官から、強制収容所の警備兵、ドイツ国防軍兵士、軍事施設職員、近隣に住む民間人まで、終戦から77年を迎える今、「現代史の証言者世代」と呼ばれる高齢になったドイツ人やオーストリア人など、加害者側の証言と当時の貴重なアーカイブ映像を記録した貴重なドキュメンタリー作品です。

この度、8月15日の終戦記念日には、公開館である渋谷シネクイントにて、ドイツ第2テレビプロデューサーの他、翻訳、通訳、エッセイスト、TVコメンテーターなど多方面で日本とドイツを繋ぐ活動をしており「職業はドイツ人」を自称しているマライ・メントラインさんと、日本で公開されるドイツ映画の日本語字幕を多数手掛け、本作の字幕翻訳も担当されたドイツ語翻訳者の吉川美奈子さんをゲストに迎えたトークイベントを開催致しました。字幕では表現しきれなかったものとは何なのか、そしてドイツの若い世代に本作はどのように映ったのかなど、興味深い話の数々が次々と飛び出しました。

 

<映画『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』公開記念トークイベント 実施概要>
【日時】 8月15日(月) イベント開始/20:45~
【場所】 渋谷シネクイント スクリーン1(渋谷区宇田川町20-11 渋谷三葉ビル7F)
【登壇】 マライ・メントライン、吉田美奈子

 

まずは吉川さんが「この作品を翻訳したのが今年の2月でした。そして試写や、チェックをしていただいたのが3月。まさにウクライナ危機と同時並行という感じで。本当に歴史は繰り返すんだなと思いました」と切り出すと、本作の感想について「皆さん、カメラに向かって赤裸々に話していますが、こうした証言をよく監督が引き出したなと思いました」と感心した様子でコメント。マライさんも「わたしはドイツ人ですから、この映画の中に登場する人たちと同じような環境で育っています。なので、こんな感じはあるよな、という感覚で観ていました。そして映画としては、終戦後、こんなに時間が経っているのに、当事者の中では未だに『あれはなんだったのか』『自分の責任はどこにあるのか』『自分が加害者だった場合はどこまで加害者だったのか』と。その境目についてずっと考えてきたはずなのに、いまだに決着がついてないんだなと思いました」と語るなど、思うところも多かった様子。

 

そんな吉川さんですが、本作の字幕を担当して「辛かった」と感じたそう。「やはり証言者の方は一人称で話すんですけど、一人称の場合は一回、自分の中に言葉を取り込んで、消化してから、日本語に出すので、自分の中で衝突してしまうんですよ。この人は噓をついてるなとか、これは違うでしょとか。そういった葛藤が私の中にあって辛かった」と振り返ると、「皆さん、判で押したように、わたしは知らなかったけど、みんなは知っていたと言っているんですね。これはドイツ語で見ると“彼らは知っていた”ということ。これはものすごく曖昧で、決して“わたしたちは知っていた”とは言っているわけではない。それはつまり、自分と犯罪者と言われる人の間に、無意識に線引きをしていて。自己防衛本能が働くので、“わたしは知らなかったけど、みんなの代わりにわたしが謝ります”という論調になってしまうんです。でもこれは決してその人たちを責められないなと思って。わたしもそうなるかもしれないですし、それは人間の弱さだなと思いました」と考えさせられたといいます。

 

話題は本作の中でも象徴的なシーンへと移り、マライさんが「ヴァンゼー会議が行われてた場所で、若者たちとハンス・ヴェルクさんが語る場面があったと思うんですけれど、その場面について詳しくお聞きしたいです」と吉川さんに質問。吉川さんは「ヴァンゼーっていうのが1942年1月20日に『ユダヤ人問題の最終的解決(大量虐殺=ホロコースト)』といって、ユダヤ人をどうするかという悲しい問題を、冷酷に話し合われた場所で、今は追悼および教育の為の機関になっていて、(ハンスさんと若者が話し合ったような)教育プログラムを定期的に催しているらしいです。あの若者たちの素性は調べ切れなかったのですが、ネオナチっぽい人たちでしたね?」と問いかけると、マライさんは「字幕では提供された情報からしか訳せないということで、学生になっていたかと思いますが、喋り方や、使っているワードチョイス的にはかなり右派に近い、愛国主義者だと感じました。なので、ハンスさんが話していることに対して、自分たちの中では疑問を持っていると思いました」と答え、吉川さんが「ハンスさんは2019年に亡くなっていますが、亡くなる直前まで語り部として活動された方だそうです。ちょっと胸に迫ってくるというか…。それをご自身の使命とされて、日本にも語り部として活動されている方がいらっしゃいますけれど、辛いだろうな、と。命を削りながら話しているような感じですよね」という言葉に、マライさんも「確かに(戦争を)体験している人からすると、ネオナチっぽい思想を質問として投げかけられると辛いだろうなと思います。若者たちのドイツ語の発言を聞くと『こんなこと言うと、再逮捕される』という言葉もあって、逮捕歴のある方なのかなと思いました。ドイツでは証言者と対話させるというプログラムがあるんです。ネオナチスに所属している、あるいは所属していた、あるいは所属しているけれど(組織を)出ていきたいという人の為のプログラムがたくさん用意されていて、それとよく似た風景だと思いました。ドイツはネオナチスへの対応は敏感で、国としても税金が多く使われていて、いろんなプロジェクトがあります」と、今のドイツについて紹介すると、吉川さんは「ドイツはちゃんと討論して❝臭いものに蓋❞をしないですよね。日本だと見なかったことにしようとか、議論を避けるところがあるのですが、ドイツは徹底的に議論をするので、そこは羨ましいなと思います。議論は大切だと思います」とコメント。

 

最後にマライさんが「わたしの世代だと、家族や、学校の担任の先生などに直接、戦争について聞くことができた。でもわたしより下の世代になると、そういう人たちとの直接のつながりがない人が多くなっていますね。もちろん学校でもたくさん勉強はするんですが、どこか自分とは関係ないと思っているし、ナチスがまた戻らなければいいんじゃない?というような風潮になっている気がします。でも次に巨悪がやってくる時は、分かりやすい格好やシンボルをひっさげてやってくるわけではないかもしれない。だからナチスが悪い、ヒトラーが悪いというだけで終わらせていたら、そういうものからガードができないんですよ。だからこそ、そういうものを見抜く力をつけるべきだとわたしは思っています。伝え方も時代に合わせて変えていくべきだと思うんです」と語ると、吉川さんも「確かに日本でも戦争の語り部がいなくなっているんですよね。皆さんが元気に語ってくれるのはあと5年くらいかもしれないですし、それはドイツでも同じ事が言えます。世界を見てると、紛争当事国の人たちも、犠牲者が大変な思いをしているのに、何十年か後にはわたしは知らなかったと言いますよね。命令されたから仕方なかったと。でもそれは責められない。わたしだってその立場になったら流されてしまうかもしれないから」とコメント。その言葉にマライさんも「だからこそ、そうならないように、(戦争を)ストップさせるような世の中を作らなくてはいけない、そこがポイントだと思います」と力強くコメント。終戦記念日ということで、平和への熱い思いがあふれ出るようなトークショーとなりました。

 

映画『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』は、絶賛全国公開中

 

 

監督・撮影:ルーク・ホランド/製作:ジョン・バトセック、ルーク・ホランド、リーテ・オード
製作総指揮:ジェフ・スコール、ダイアン・ワイアーマン、アンドリュー・ラーマン、クレア・アギラール/アソシエイト・プロデューサー:サム・ポープ
編集:ステファン・ロノヴィッチ/追加編集:サム・ポープ、バーバラ・ゾーセル/音楽監修:リズ・ギャラチャー
2020年/アメリカ=イギリス/ドイツ語/94分/カラー(一部モノクロ)/ビスタ/原題:Final Account/字幕翻訳:吉川美奈子/字幕監修:渋谷哲也/ナチス用語監修:小野寺拓也  https://www.universalpictures.jp/micro/finalaccount/
配給:パルコ ユニバーサル映画/宣伝:若壮房 ©2021 Focus Features LLC.

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