『eBASEBALLパワフルプロ野球2022』発売記念 ストーリーは?演出は?あのキャラクターの誕生秘話は?名物モード「サクセス」を訊く !

 

【文・畑史進(編集長Twitter):https://twitter.com/hata_fuminobu

 

 

2022年4月21日にKONAMIから『eBASEBALLパワフルプロ野球2022』が発売された。

本作は初代『実況パワフルプロ野球』から続くシリーズ最新作。「サクセス」「栄冠ナイン」「パワフェス」を始めとしたおなじみのモードから今作初の収録となった「パワパーク」まで丁寧に作り込まれており、史上最大級のボリューミーな内容となっている。

 

先日、発売を記念してエンタジャムでは開発陣にインタビューを申し込み、敢行。当日のインタビューでは、長澤ディレクター、「サクセス」シナリオ担当の西川氏、豊原リードプランナー、「サクセス」プランニングリーダーの西野氏、「栄冠ナイン」プランニングリーダーの堀井氏、「サクセス」「パワフェス」シナリオ担当の島津氏と、多くの方に同席いただき本作のシステムから様々なモードに関する話を伺った。インタビューの一部は他メディアの方で弊誌編集長の畑が執筆し、寄稿しているのでそちらも参考にして欲しい。

 

弊誌では長年シリーズを支えてきた名物モード「サクセス」についての話を中心にまとめた。

 

 

最初に、今作の「サクセス」のシナリオ「パワフル高校」が歴代のライバルたちが集合するというコンセプトに至った経緯について伺うと、西野氏は「猪狩守、早川あおい、橘みずきを始めとした定番のキャラクターは簡単な紹介はあれど、キャラクターの初登場時や掘り下げたタイトルで描かれていたバックボーンを知っている方はあまりいないだろう」ということから再確認する意味も含めての制作だったと理由を話した。また、今後機会があればこのようなテイストで別のキャラクターの紹介も考えていきたいといった構想もあるようだった。

 

また今作、新時代の「サクセス」として制作されたシナリオ「千将高校」の設計、誕生についての話ついて伺うと今作のキャッチコピー「何度だって、熱くなれる。」に沿って「何度も遊べる」ということを「サクセス」に当てはめて考えた際、同じ時間軸を繰り返すのではなく、時間と共にチームメイトやキャプテンが移り変わっていくことを軸に考え始めたのがスタートだと明かした。

しかし、それでは固定キャラ、固有のイベントというのを作ることは難しくなることから、固有のキャラではないモブと言われるチームメイトたちが、それぞれの独自の性格や固有スキル(ポテンシャルスキル)、能力をもって、年が進んで新入生として入部してくる度に違った環境ができるのでは?という考えからシステムの基礎構想ができたと話した。そこから性格や仲の良し悪しはあるだろうということと実効スキルの切り替えなどから「サークル」というシステムができ上がったという。

 

 

動画投稿サイトでの個人投稿が気軽にできるようになった昨今、「サクセス」でのオリジナル選手育成理論の披露について開発側がどのように見ており、ユーザーがどこまで想定内の動きをしているのかと尋ねると。西野氏は「ゲーム中に設計し、散りばめた要素をユーザーさんたちはこういうふうに攻略していくだろうなと土壌づくりをして作った物なので、ある程度は想定の範囲内だった」としつつも、ユーザーが開発の想定を上回る立ち回りをしていることも確認していると話した。

 

続いて「サクセス」のシナリオの構成術、キャラクターとの向き合い方に関してどのような方針があるのかという話を以下のように伺った。

 

長澤ディレクター

西川(「サクセス」シナリオ担当)

島津(「サクセス」「パワフェス」シナリオ担当)

西野(「サクセス」プランニングリーダー)

インタビュアー:畑

 

 

 

畑
「サクセス」のシナリオ構成についてお伺いしたいのですが、搭載された当初は主人公も無個性でした。『パワプロ5』あたりからユーザーの声を代弁するようなツッコミキャラに変化しましたが、これはユーザーの没入感を考えてのものですか?

 

西川
西川
そういうわけではなくて、『パワプロ5』からは舞台がプロ野球から高校野球に変わったんです。高校生って学校生活の中で色んなイベントがあるのに対して、プロ野球の選手は2軍から始まって練習と実績を重ねて1軍に上がるという目標、ストーリーがあるわけですが、要は練習の連続なんです。コーチや監督、チームメイトとの関わりはあっても高校生活と比べると希薄だと思います。それが『パワプロ5』でイベントが多くなって主人公が喋る機会が多くなったという理由です。

その一方で主人公に色をつけてしまうとユーザーの分身という役割を失ってしまうので中立的な立場に置くようにしています。そのため、おかしなことをするのはあくまで仲間の方であって仲間に対するツッコミを主人公がしていくという役回りが多くなってくるんです。

 

畑
『パワポケ』とかは登場キャラの時点でも顕著でしたが、「サクセス」のギャグシーンなんかは関西的な喜劇のように感じます。スタッフの方はどのようにお考えでしょうか?

 

西川
西川
むしろ関西系の社員が多いので、何が関西的なのかよくわかっていない部分があります。関西的だって指摘されてもこれは普通ちゃうの?って感じなんですよね。自然とこうなっているんですよね。

 

長澤
長澤
それもさっきのルール作りと同じで、「サクセス」は基本的に地方色を作らないように心がけているのですが、どこかで出ちゃっているのかもしれないです。

 

島津
島津
ボケとかツッコミ、笑いでオチ、なんかは話の流れ上どうしても出てきちゃいますよね。

 

長澤
長澤
最近はボケとかツッコミも全国的に市民権を得ているところもあるので、あまり関西的だと意識していないとは思います。

 

畑
関東系のお笑いはビートたけしさんのように逆にボケに対して更に大ボケをかぶせたりすることもあるんでそういった差を感じることはあります。
西川
西川
シナリオで延々にボケ続けるというのも苦しいですからね。

 

島津
島津
ボケに対する返答を作っているだけということで。

 

 

(一同笑)

 

 

畑
猪狩守、猪狩進、早川あおい、橘みずき、六道聖の誕生経緯を覚えていらっしゃったら教えてください。

 

西川
西川
『パワプロ3』のときにライバルとして戸井という後輩が入ってくるという流れがありました。続く『パワプロ4』では、今度は同期のライバルとして設定したのが猪狩守です。戸井よりもライバルっぽさは増したと思います。

その後の「パワプロ5」では舞台が高校野球となって、ライバルというのはピッチャーとキャッチャーのバッテリーであるという意識があったので、前作に登場した猪狩守の弟として猪狩進を出して、このバッテリーが主人公の敵であるという設定にしました。また、短気な守に対しての抑え役として進は立ち回っていましたよね。ただ作っているうちに、守と進どちらがライバルか分からないという意見が来ましたので進は事故にあうという設定ができました。

 

 

西川
西川
その後私は『パワプロクンポケット』の担当になったので、早川あおいに関しては相談に乗っただけです。当時の担当者によると、本人はプロの選手として頑張りたい、けれども周りは女性として騒ぎ立てるばかりで、客寄せとしてしか扱われない・・・という話を入れたいということでしたね。

みずきと聖に関してはノータッチだったので、私にはわかりません。

 

西野
西野
新しく駒坂という後輩のライバルが出てきたくらいに「あおいの他にも女性選手のキャラが居ると良いね~」という話の流れでみずきと聖が出てきたという流れは聞いています。

 

 

畑
あの当時、彼女らを初めて目にしたときには「女の子が野球をする」という所に驚きと違和感があったのですが、今このご時世となってはかなり先駆け的な作品になったなと思っています。

 

西川
西川
私一個人の意見としては、賛否両論あるテーマでもありますので「女性のプロ野球選手」には前向きではありませんでした。あらゆる観点をしっかりと考えられていないならば、安易に出さない方が良いと話したんです。しかし、当時の開発スタッフの熱意が強かったので、あのような形で世に出すことができました。

それ以降も女性キャラがプロ野球の世界に出て活躍させるというのは慎重になる必要があると考え、『パワポケ』のほうでは高校野球か、アマチュア野球でしか出していません。そういったこともあってアンヌ(『パワポケ3』)とかは「女性が男性に混じって野球をすると色んな問題があるよね」という話を入れました。アプリ版に関しては色んなキャラクターが出てくる一種の「お祭りの場」なので、そのあたりは気にしていないです。

 

 

畑
ここまでの話を伺って思ったんですが、あおいもみずきも男性の身体能力、肉体能力を基準にステータスを設定しているのも納得が行きました。

 

西川
西川
はい。女性キャラクターに関しては技量を補って勝負するというデザインで統一していますね。これはアプリ版はじめ、近年登場する“人間の”女性キャラクターはそう設定しています。

 

畑
アプリ版だと男性選手を上回る女性選手も出ていませんでしたか?

 

西川
西川
あっ、彼女らは人間じゃないので・・・

 

(一同大笑い)

 

西川
西川
いや本当に、守備と捕球とコントロール以外でB以上の能力が2つ以上ある女性キャラがいたら普通の人間じゃないかも、と思ってください。

 

畑
確かにピンクはヒーローで神良美砂とかは吸血鬼でしたね!

 

西川
西川
そうです。そういうのはギャグキャラか、なにか裏のある奴です。そこにはこだわりがあります。

 

畑
今にして思えばこのシリーズは世に先駆けてジェンダーレスについて真剣に向き合っているゲームだと思っているので、色々議論される昨今、もっとそういった視点でも広まってほしいなとは思いますね。

 

長澤
長澤
単純にあくまで日本のプロ野球として女性を見たときにどういう問題に直面するのかというリアルを優先したところはありますね。

 

西川
西川
一概にこうだと結論づけて話をするのは難しいですよね。そうなると女子プロ野球はどうなるんだという話にも広がるので。

 

長澤
長澤
「あおいはSFの世界、漫画の世界の中」というイメージで、それがリアルのプロ野球にやってきたとしたら現実的じゃないよね。というのは大前提としてありました。

 

西川
西川
こういった方がイメージ付きやすいと思うのですが、10年前に大谷翔平選手のことを話したら「二刀流でメジャーでホームラン打ちまくって活躍する日本人選手?そんなのいるわけないだろ」って怒られたと思います。たとえ可能性があるとしても、ユーザーが認めてくれるかどうかは別の問題です。

 

長澤
長澤
そうですね。ですからSFとしてもここまでだったら行けるかなというラインをちゃんと引いて狙っていっていますね。

 

畑
突拍子もないキャラクターも登場する作品ではありますが、「サクセス」を作るにあたってシナリオから先に作ってキャラクターが誕生するのでしょうか、それともキャラクターが誕生してシナリオができていくんでしょうか?

 

西川
西川
これは両方ですね。先にストーリーがあって、そこに登場するキャラクターを設定していくのですが、それ以外には、その世界にいそうなキャラクターを色んなアイディアから取ってくるということも多いです。こんなキャラ動かしたいなとかがストーリーに参加してくるという事もあります。大体はストーリーありきなことが多いですね。

 

島津
島津
セリフの掛け合いから誕生したキャラとかもいますよ。

 

 

 

畑
突出したキャラという部分では実和男や尾根瑛人、鬼鮫清治のようなキャラも魅力的ですが、面白いのですがキワキワながら後を引かないようなテキストで感心します。どのように取り回しているのか教えてください。

 

西川
西川
結局社内でチェックですかね。最初の原案ではかなり尖らせてあって、そこから社員に見せて練り直しをして、完成に至っています。

 

畑
システム的な話にも繋がりますが、ひたむきに練習するよりも彼女と付き合うことのほうが良い選手が作りやすいというのは小学生の僕にとって衝撃でした。

 

西川
西川
そこはゲームとしての作りで、ただ練習して休むだけだと単純な作業になってしまうので面白さが欠けてしまうんです。先程から私はリアルを追求する話をしていましたがゲームとしてはそれだけではダメで、ある程度遊びの幅を効かせるためには切り離して膨らまさないとゲームとしては成り立たないというところがあります。

彼女とデートして回復するだけだと弱い選手になってしまい、そうなると彼女なんかいらないという事になりかねないので、最後まで完走した時には超特殊能力をもらえるといったご褒美要素を用意することで彼女とお付き合いすることの楽しさ、メリットを見出してもらえるように設計しているんです。

 

 

畑
矢部明雄や凡田大輔といったコアなマニアキャラは印象深く、説明テキストでも濃厚な説明文があって感心するのですが、これは西川さんはじめスタッフの中にディープな人がいるのでしょうか?

 

西川
西川
コアなスタッフはかなりいますね(笑)。そういったテキストは書きやすいと言ったところがあったりします。ただその一方でそういったキャラクターを出さなきゃいけないというときは必要な部分を勉強しなきゃいけなくて、私らが勉強しても分からないとなったら、わからないという人の目線に立ったイベントにするようにしています。

緑文字の説明テキストというのは自分たちがわからなくて調べたということが多いです。

 

 

畑
声優さんを起用されるようになったことでシナリオの作り方が変わったこととかはありますか?

 

島津
島津
今作『パワプロ2022』に関して言えば、サクセスシナリオ「アオハル学園」の新キャラを作る時に声優さんの声や演技、「このアニメキャラのこのセリフや性格」を具体的なサンプルとして挙げ、それをチームで共有しながらキャラクターの設定を詰めていきましたね。

 

 

 

畑
となると「アオハル学園」はかなり後半になって完成した感じなんでしょうか?

 

島津
島津
いえ、あくまでこういう声優さんが良いよね。という声のイメージ、参考レベルでシナリオを書いていたので、それに合わせて制作の工程で声優さんを決めて行ったという流れでした。

 

畑
実際イメージ通りにキャスティングは決まったのでしょうか?

 

島津
島津
紆余曲折はありましたが、最終的に満足する形で終わりました。

 

畑
最後にメッセージを頂けたらと思います。

 

長澤
長澤
「何度だって、熱くなれる。」をテーマに、これまで以上に長く遊んでいただける作品になっていると思います。各モードがそれぞれ別のゲームともいえるほどのボリュームがあるので、サクセスだけなく、これまで遊んだことの無いモードにもぜひ触れていただき、じっくり楽しんでいただけたら嬉しいです。

 

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