鶴岡亮のデンジャーゾーン! 第14回 今だからこそ遊ぼう!そこを歩く喜び!小島秀夫監督が描くゲーム『DEATH STRANDING』の世界

【文・鶴岡亮】

鶴岡亮Twitter:https://twitter.com/ryoutsuruoka

 

 

昨今、緊急事態宣言が解除されつつあるが、世界中で蔓延する新型コロナウイルス(COVID-19)による余波は未だに続いている。その為、自宅で楽しめるエンターテイメントを模索している方々は多いのではないだろうか?そんな方々にオススメしたいのがゲームDEATH STRANDINGである。『DEATH STRANDING』は昨年11月8日にソニー・インタラクティブ・エンターテイメント(SIE)よりPS4 で発売されたゲームソフト(PC版は今年の7月14日に発売予定)で、『メタルギア・ソリッドシリーズ』で有名な小島秀夫監督率いる『小島プロダクション』によって作られた「ストランド・ゲーム」である。ストランド・ゲームと聞くと何の事?と思われる方々が多いだろうが、ストランド(strand)とは紐や縄を意味する言葉で、このゲームの目的の「人々を繋げる」事の象徴として用いられている言葉である。如何にして人々に繋がりを齎していくのかというと、その手段はなんと「配達」なのである。

 

物語の舞台は「デス・ストランディング」という超常現象によってアメリカというコミュニティが崩壊した世界。人々はデス・ストランディングの影響によって荒廃した外の世界を恐れ、各々がシェルターに閉じこもる生活を送っていた。そんなコミュニティが分断された世界の中、凄腕のポーター(配達人)として有名なサムに「ブリッジズ」という組織から任務が下る。彼に与えられた任務は、シェルターの人々が必要としている物資を「配達」し、分断されたコミュニティを繋ぎ合わせてアメリカを復活させる事。プレイヤーはサムを操作し、配達を通して人々のコミュニティを繋いでいく事になる。

 

シェルターにこもりながら暮らす人々や、配達人が主人公と聞くと我々の現実世界を思い出さずにはいられないだろう。新型コロナウイルス(COVID-19)拡散による自粛ムードで自宅に籠りがちな人々や、その中でも現場で配送業を勤める物流関係の方々がそれに該当する。発売されたのが去年でありながらも、今もっとも前線で活躍している職業の人々が主人公として設定されているのも予言的としか良いようがない。このゲームを今やるべきと思わされる所は、そうした「現実世界との繋がり」を感じさせる要素で、本作はこれ以外にも現実世界を想起させる点が幾つか散見される。

例えば、配送中に険しい山々や川を渡る為に梯子やロープ等を設置する局面がある。これらの設置物はオンライン要素も兼ねていて、オンライン上の別の世界のプレイヤーに使ってもらったり、別の世界のプレイヤーが設置したモノをこちら側が使う事も出来るのだ。そしてその設置物が各々のプレイヤーに役立った報酬として、その設置物に「いいね!」ボタンを押し合う事が出来る。自分が設置したモノに日々蓄積される「いいね!」を見ると世界中の誰かの助けになったという充実感を得られたり、自分の役に立ったモノに「いいね!」をすると世界中の誰かに助けられた気分になる。その感覚は我々が日夜頻繁に使用する事の多いTwitterやFacebookやInstagramの「いいね!ボタン」を押したり、押される感覚をゲームという媒体で味わっているような感覚だ。このシステムがあるお陰で、プレイヤーはたった一人で配送任務をこなしつつも、誰かと繋がっている感覚を味わう事が出来る。その為、不思議と寂しさを感じない所も面白い所だ。自粛期間中にSNSを通して外部と触れる方々も多かった分、尚更この機能は身近に感じるのではないだろうか。

 

そしてゲームシステムのみならず、我々の世界の政治体制に対するメッセージを感じさせる要素も存在する。劇中、とある人物が昔メキシコに壁を作れと言った大統領がいたと証言するメールを送ってくる場面や、デスストランディングによって世界は分断されたというキーワードが出てくる。その大統領とは言わずもがなドナルド・トランプの事で、デスストランディングにより分断された世界というキーワードは、トランプの「メキシコに国境の壁を作る」宣言イギリスのEU(欧州連合)離脱等の世界情勢を思わせる。それに対してサム(プレイヤー)は世界中に梯子を掛け、縄を繋いで分断されたコミュニティを繋ぎ合わせようとする。その行為はトランプを筆頭とする世界を引き離す分断主義政策とは異なり、まるで世界を結びつけようとするグローバル主義のようにも見える。恐らく小島監督は本作を通して現代の分断、利己主義が蔓延する世界に対して、人々を再び繋ぎ合わせ、団結する事が大事なのではないかと問いたかったのだろう。庵野秀明監督が『シン・ゴジラ』の後半で日本はこうであって欲しいという理想を描いたように、小島監督がアメリカはこうであって欲しいという理想を描いたのが『DEATH STRANDING』なのだ。

かつて『バイオハザード』という作品に「そこを歩く恐怖」というキャッチコピーがあったが、『DEATH STRANDING』の場合は「そこを歩く喜び」に近いモノを感じる。プレイヤーが歩むその一歩一歩が後に誰かの幸せに繋がり、その道中で別の世界の人々を助けたり、助けられたりする。特に現在の世界を騒がせているパンデミック下の状況ではそうした歩み寄りがより必要なのではないかと考えさせてくれる。『DEATH STRANDING』はそうした「歩み」そのものを娯楽にし、重厚なテーマ性も含ませた素晴らしいゲームなので是非ともプレイして欲しい!そして現在の「この状況」を乗り越えた小島監督が次回作にどんなテーマ性を持ったゲームを生み出してくれるのか期待したい!

 

 

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