鶴岡亮のデンジャーゾーン!  第17回『トランスフォーマー:ウォー・フォー・サイバ トロン・トリロジー第Ⅰ章:シージ』

【文・鶴岡亮】

鶴岡亮Twitter:https://twitter.com/ryoutsuruoka

 

 

今回紹介するNetflixオリジナルアニメシリーズ『トランスフォーマー:ウォー・フォー・サイバトロン・トリロジー第Ⅰ章:シージ』は、変形ロボット玩具シリーズとして有名な『トランスフォーマー』のアニメシリーズ最新作。本作は7月30日よりNetflixにて公開され、世界中のファンによって高い評価を受けた。まずは、本作の魅力を紹介する前に、このアニメの原点であるトランスフォーマーというコンテンツの成り立ちから紹介したい。

 

<トランスフォーマーの成り立ち>

 

トランスフォーマーは、日本の玩具メーカー・タカラ(現:タカラトミー)ダイアクロン』『ミクロマン』の変形ロボット玩具を、国際的な流通力を持つ米国の玩具メーカー・ハズブロと業務提携を結んで、海外で展開する為に誕生したグローバル・コンテンツだ。ハズブロはこの変形ロボット玩具を海外で受け入れ易くする為に、コミック出版社のマーベル・コミックに協力を仰ぎ、世界観の再構築を依頼。名称はトランスフォーマーに改められ、「サイバトロン星から地球にやって来た変形能力を持つロボット生命体・トランスフォーマーが、正義のオートボットと悪のディセプティコンに別れて戦う。」という新たな世界観が与えられた。このトランスフォーマーを全米で展開するに当たって、アニメやコミックというサイドコンテンツも作られ、強力なメディアミックス体制が作られた。その結果、トランスフォーマーは全米で驚異的な売り上げを誇り、日本にも逆輸入という形で先祖帰りを果たすことになった。その後も、動物や恐竜から変身する『ビーストウォーズ』や、実写映画版『トランスフォーマー』等の数々の新シリーズが作られ、現代においても新展開が続いてる息の長いコンテンツだ。

 

<『トランスフォーマー:ウォー・フォー・サイバトロン・トリロジー第Ⅰ章:シージ』とは?>                           

 

Netflixオリジナルアニメシリーズ『トランスフォーマー:ウォー・フォー・サイバトロン・トリロジー第Ⅰ章:シージ』は、先行して発売された玩具シリーズ『TRANSFORMERS SIEGE(トランスフォーマー シージ)』のアニメ化作品で、トランスフォーマー達の故郷の惑星サイバトロンでのオートボットとディセプティコンの戦いを全六話で描いた作品だ。因みに、タイトルにトリロジー(3部作)と表記されている通り、本作の後にも『第2章:アース・ライズ』『第3章:キングダム』のリリースが予定されている。

 

アニメーション制作は、『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』『超ロボット生命体 トランスフォーマー プライム』『トランスフォーマー アドベンチャー』『GODZILLA』などで知られるポリゴン・ピクチュアズが担当。製作はNetflix、ハズブロ(オールスパーク・アニメーション)、ルースター・ティースポリゴンピクチュアズ

 

監督は『ジャングル大帝』(97年版)等のアニメ作品でアニメーターを務め、『シドニアの騎士』『蒼天の拳 REGENESIS』等のCGアニメ作品で絵コンテ、演出を担当、『バイオハザード5』等のゲーム作品でアニメーション・スーパーバイザーを務めた亀井隆。ショーランナーを務めるのは、『Transformers: Combiner Wars』『Transformers: Titans Return』『Transformers: Power of the Primes』のシナリオライターとエグゼブティブプロデューサーを担当し、今作でもプロデューサーを兼任しているF.J.デサント。それに加え、『Transformers: Combiner Wars』『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』でシナリオライターを担当したジョージ・クリスティックも脚本に参加している。音楽は『ロスト・イン・スペース』(2018年版)『ザ・ボーイズ』『ファースト・マン』に参加したアレクサンダー・ボーンスタイン

 

プロデューサーはテッド・ビアセッリ、バーニー・バーンズ、F.J.デサント、ジョージ・クリスティック、塩田周三(Shuzo John Shiota)、ジャック・リヤン、小原浩平、他。

 

<本作のトランスフォーマーのビジュアル>

 

まず、本作を目にして印象に残るのは、トランスフォーマー達の造形だろう。歴代アニメシリーズでは、玩具をアニメ化する上でロボットデザインを修正する流れが一般的だったが、今作では殆ど玩具通りのデザインでCGが作られているのが特徴的だ。各トランスフォーマーは、背中、腕、脚にビークル(乗り物)モードの余剰パーツやジョイント接続用の穴が付いており、通常のアニメ化作品では省略されたり、目立たなくさせられるポイントをそのまま再現している所にファンは喜びを感じるだろう。トランスフォーマー達に汚れや傷等のディテールが加えられている所も本作ならではの表現で、戦場下で戦うトランスフォーマー達の壮絶さを演出するギミックとして見事に機能している。

 

そしてもうひとつの注目ポイントは、トランスフォーマーがしっかりとロボット生命体として演出されている所だ。初代アニメの『戦え!超ロボット生命体 トランスフォーマー』でも、トランスフォーマー達の人間らしさは重要なアイデンティティーだった。本作でもその要素は健在で、各キャラクターの感情表現は、顔の表情や身体を使った動作によってしっかりと演出されている。特に、オプティマス・プライム等の感情表現の難しいマスクキャラも、目を使った演技によってその問題をクリアしている所に工夫を感じる。彼らが繰り広げるアクションの数々も、初代アニメのような取っ組み合いの肉弾戦や、実写版『トランスフォーマー』の市街地での戦争アクション的テイストも盛り込まれていて、バリエーション豊かなアクションシーンが楽しめるのも今作の見所だ。

 

玩具再現率の高いモデリング、キャラクターの演出力、バラエティ豊かなバトルシーンが合わさったアニメ表現は、今までのトランスフォーマーアニメを一段と進化させたような完成度を誇っている。トランスフォーマーファンもそれ以外の人も、ポリゴン・ピクチュアズが放つ新しいアニメ表現に注目して頂きたい。

 

<豪華吹き替え声優陣>

 

本作はトランスフォーマー達を演じる吹き替えキャスト陣にも非常に力が入れられている。

 

(キャスト)

オプティマス ・プライム:玄田哲章エリータ-1:井上喜久子バンブルビー:木村良平、ジェットファイヤー:乃村健次ウルトラマグナス:井上和彦ラチェット:郷田ほづみホイルジャック:ボルケーノ太田ミラージュ: 松浦義之レッドアラート:中村和正クロミア:かつやままさみアーシー: 木村涼香コグ:新祐樹ハウンド:武田太一サイドスワイプ:岩中睦樹メガトロン:大塚芳忠スタースクリーム:佐藤せつじショックウェーブ:茶風林サウンドウェーブ&インパクター: 拝真之介バリケード:田所陽向、スカイワープ:佐々木祐介

 

その他にも、阿部竜一綿貫竜之介松芹香各務立基多田野洋平銀河万丈、が出演し、声優アベンジャーズとも云うべき幅広いキャスト陣が集結している。

 

久々にアニメ版のオプティマス ・プライム(旧日本名:コンボイ)役に復帰し、レジェンドとしての存在感を披露している玄田哲章、威厳と狡猾さを兼ね添えたメガトロンを好演した大塚芳忠、スタースクリームのせっかちな野心家っぷりにベストマッチした佐藤せつじの演技等、出演声優陣の演技がどれも素晴らしいので注目して欲しい。台詞や翻訳面も、初代アニメ作品の『戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー』や、『トランスフォーマー・ザ・ムービー』等のオマージュを取り入れた要素が随所に現れているのも、トランスフォーマーファンへの心憎い演出だ。豪華声優陣による演技合戦は、トランスフォーマーファンのみならず、アニメファン、洋画吹き替えファンの鑑賞に耐えうるものになっているので是非ともご覧頂きたい。

<コアな層にも初心者にも訴える内容>

 

今作はタイトルに『ウォー・フォー・サイバトロン』と表記されている通り、トランスフォーマーの故郷・サイバトロン星を舞台に、オプティマス・プライム率いるオートボットと、メガトロンが率いるディセプティコンの戦争を描いた作品だ。彼らのサイバトロン星での戦いは、初代アニメ『戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー』(以下:G1)の第一話『地球への道』の冒頭で描かれたが、本作はそのパートをシリアスな物語として再構築した内容になっている。

 

まず、本作のシリアスな要素として代表されるのが、オートボットとディセプティコンの両軍に明白な正義が存在しない所だ。長きに渡る戦争によってサイバトロン星が荒廃していく中、オートボットは自由意志を尊重した上で終戦を望み、ディセプティコンは圧制のもとで終戦を望む。双方が早期終戦を望みながらも、イデオロギーの違いによって戦争が終わらないという状況は、非常に皮肉でシリアスな世界観だ。それに加え、両陣営の確執が産まれるきっかけとなったサイバトロン政府の厳しい身分制度や、種族間の軋轢について語られるシーンも存在し、政治腐敗や人種問題的なシリアスさも描かれている。

 

そうしたシリアスな世界観は、コミック出版社IDWパブリッシングから発売されたトランスフォーマーのコミックシリーズから影響を受けた部分が多い。IDWコミック版・トランスフォーマー』は、G1の世界観をシリアス路線に再構築したコミックシリーズで、前日談やIFストーリー等も作られ、コミック独自の拡張性を持った作品群だ。本アニメでは、中でもファンからの人気が高い『トランスフォーマー:メガトロン・オリジン』からインスピレーションを受けている部分が顕著で、労働者階級出身のメガトロンが、如何にしてディセプティコンのリーダーになったのかを描いた作品だ。オートボットの暴君・センチネル・プライムが腐敗政治を行なう中、抑圧されたメガトロン達によってディセプティコンが誕生するという内容は、メガトロンを単なる悪役ではなく、腐敗した政治体制を世直しする革命家として描いた作品だ。本アニメでも、メガトロンが虐げられたディセプティコン達の気持ちを代弁するシーンや、この戦争は改革を目指して始めたものだと言うシーンから、G1とは違うIDW寄りのシリアスなキャラクターに改変されたと云える。このシリアスなコミックの要素を本編に取り入れたことによって、IDWコミックファンへのアプローチを試みると同時に、アニメのドラマ部分に深みを与える相乗効果を産んでいるのが本作の特徴だ。

 

そうした、IDWコミック作品からの引用に留まらず、本作独自の再構築が行われてるキャラクターも存在する。その代表格となるのがバンブルビーだ。G1のバンブルビーはオートボットに所属していたが、今作では無所属トランスフォーマーとして登場し、彼はオートボットとディセプティコンの戦いに巻き込まれていく事になる。この改変要素は、本作で初めてトランスフォーマーの世界に足を踏み入れる人達の為に、彼の視点を通して惑星サイバトロンの世界を観てもらおうという意図があって設定されたものだろう。その役割は、G1の主人公スパイクや、実写版『トランスフォーマー』の主人公サム・ウィトウィッキーのようで、歴代作品の人間の主人公のポジションをバンブルビーが代弁しているのが面白い所だ。どこにも属さないバンブルビーは、オートボットやディセプティコンの主義主張に同意しないし、面倒ごとは極力控えたいタイプ。それは正に我々一般人のような立ち位置で、トランスフォーマー初心者には最も共感し易いキャラクターと云えるだろう。シリーズ未経験の人は、是非とも、彼を通してトランスフォーマーワールドへの第一歩を歩んで欲しい。

 

こうした新規の視聴者が入っていける窓口を用意し、前述のIDWコミックファンのコアな層にも訴えかける要素を持つ本作は、どちらの層も楽しめるバランスの取れた内容と云えるだろう。大人が見ても楽しめるシリアスなドラマパートは、映画や海外ドラマのSFシリーズモノが好きな人にも受け入れ易い世界観だ。本編のボリュームも、各話約24分程のエピソードが計6本、合計約144分程(約2時間24分)と、時間を取りにくい人にも優しい仕様だ。毎日一話ずつ観ても良いし、映画のように一気に観るのも良い。こうした視聴スタイルの間口の広さがあるのも、配信媒体がNetflixだからこそ出来た事だ。是非ともこれを機に、トランスフォーマーファンも初心者も、本作の優れたストーリーテリングをご堪能頂きたい。

 

<本作のショーランナーF.J.デサント>

 

そして、本作の優れた脚本を担当した人物として注目したいのが、過去にもトランスフォーマーのアニメシリーズの『Transformers: Combiner Wars』『Transformers: Titans Return』『Transformers: Power of the Primes』の脚本経験のあるF.J.デサントである。彼は脚本家という顔のみならず、コミック作家ウォーレン・エリスをテーマにしたドキュメンタリー映画『Warren Ellis- Captured Ghosts』や、SFドラマ『Vagrant Queen』のプロデュースも手掛けた才能豊かな人物だ。本作では彼は、製作会社のルースター・ティースを通して脚本とエグゼブティブプロデューサーを兼任し、クリエイターと製作者の両方の役割を務めている。アニメーションにIDWコミックの要素を落とし込んだ本作の評判は、ファンに概ね好評で、彼が築いたトランスフォーマーの新たなるストーリーテリングは成功したと云える。ファンからの評判の良い作品には、そのコンテンツの中に「理解のある製作者」がいるのは、マーベル・シネマティックユニバース(MCU)」を成功に導いたプロデューサーのケヴィン・ファイギを見れば判る事だ。トランスフォーマーシリーズへの理解のある脚本の製作方針を示した彼が、今後のトランスフォーマーフランチャイズにどう携わっていくのか気になる所だ。

 

今までのシリーズに無かった新しい映像表現や、派生作品からの要素を取り入れつつ、新規の視聴者にも配慮した作品は数多く存在するが、『トランスフォーマー:ウォー・フォー・サイバトロン・トリロジー第Ⅰ章:シージ』はその成功例と云えるだろう。トランスフォーマーという長い歴史を持つコンテンツに、新たな息吹を与えた本作はNetflixで好評配信中!是非ともチェックして頂きたい!

 

Netflixオリジナルアニメシリーズ『トランスフォーマー:ウォー・フォー・サイバトロン・トリロジー第Ⅰ章:シージ』配信ページ

https://www.netflix.com/jp/title/81002438

尚、これを機にトランスフォーマーというコンテンツが気になった方々は、Netflixで配信されているNetflixオリジナルシリーズ『ボクらを作ったオモチャ達』シーズン2のトランスフォーマーのエピソードもチェックして頂きたい。トランスフォーマーの世界観設定に協力した「マーベルコミック」のエピソードや、ライバル商品『ゴーボッツ』と競合した当時の時代背景を、ドキュメンタリー作品として纏め上げた作品だ。トランスフォーマーの成り立ちと当時の時代の雰囲気が解りやすく纏められているので、是非ともオススメしたい!

 

Netflixオリジナルシリーズ『ボクらを作ったオモチャ達』配信ページ

https://www.netflix.com/jp/title/80161497

 

アニメの原作となった『TRANSFORMERS SIEGE(トランスフォーマー シージ)』玩具シリーズの公式サイト

https://tf.takaratomy.co.jp/products/tf_sg

今作のトランスフォーマーの姿を再現した『WFC(ウォーフォーサイバトロン)』シリーズの玩具も順次発売予定!

https://tf.takaratomy.co.jp/products-lineup/tf_wfc/wfc-01

 

今作のアニメ制作を勤めた『ポリゴン・ピクチュアズ』の公式サイト

https://www.ppi.co.jp/

コメント

  1. ゴールドE より:

    日本の初代アニメの筒美京平先生が作曲したオープニングとエンディングの曲が良かった

タイトルとURLをコピーしました