鶴岡亮のデンジャーゾーン! 第13回 23年の時を経てリメイク(再構成)された『FINAL FANTASY Ⅶ REMAKE』

【文・鶴岡亮】

鶴岡亮Twitter:https://twitter.com/ryoutsuruoka

 

 

 <90年代カルチャーが集約されたオリジナル『FINAL FANTASY Ⅶ』>

オリジナルの『FINAL FANTASY Ⅶ』 (以下『FF7』)が発売されたのは1997年1月31日。90年代生誕である『FF7』は、そうした時代のサブカルチャーの影響を多分に受けたRPGである。一例を挙げると、『FF7』の物語の舞台となるミッドガルは、「神羅カンパニー」の富裕層が住む天空都市プレートと、その下で貧困層が暮らすスラム街で構成されている。これは『銃夢』(1991〜1995)における、富裕層が暮らす空中都市ザレムと、その下で貧困層が暮らすクズ鉄街の舞台設定からの影響が伺える。主人公クラウド・ストライフは何でも屋を営む自称、元ソルジャー。彼が大剣バスターソードを使って、モンスターと戦う様は『ベルセルク』(1989〜現在)のガッツを思わせる。クラウドが己のアイデンティティを求め自問自答する様は『新世紀エヴァンゲリオン』(1995〜1996)の碇シンジからの影響だろう。そうした90年代に流行したカルチャーを踏襲し、スクウェア(現・スクウェア・エニックス)のクリエイターの想像力を組み合わせて作られたのが『FF7』なのである。

その『FF7』を現在の時代性に合わせるべく、既存のキャラクターの再設定、新キャラの登場、シナリオ展開の変更等を加味して作り上げられたのが本作『FINAL FANTASY Ⅶ REMAKE』(以下『FF7リメイク』)である。90年代に作られた作品が2020年の現在に、23年の時を経て如何に変化を遂げたのかを以下に記したい。

<キャラクター描写の変化>

主人公クラウド・ストライフはオリジナル版では、決め台詞「興味ないね」に代表されるテンプレートなクールさを意図的に設定されたキャラクターだった。しかし、リメイク版では彼の決め台詞の「興味ないね」はやや抑えられ、代わりに無関心を装いつつも、他者への関心を微細に感じさせるようなキャラクターに変更されている。この変更によってオリジナルのクラウドよりも、リメイク版のクラウドの方がやや共感し易いキャラクターに変わったと云え、プレイヤーによっては今作のクラウドの方が魅力的に思える人も出てくるだろう。

 

クラウドのみならず、彼と行動を共にするバレット、ティファ、エアリスも、ややリアル寄りな感情を持つキャラクターとして再構築されていて、オリジナル版とは一味違った印象を受ける。特に世界を牛耳る大企業・神羅カンパニーに反旗を翻す組織アバランチのリーダーのバレットは、オリジナルのような血気盛んな振る舞いを見せながらも、仲間の期待を背負うにたる一面も新たに描かれている。そのおかげで旧作で疑問だった「何故こんな短気で金払いも悪い男にアヴァランチの仲間達はついて行くのか?」という疑問が解消され、キャラクターとしての深みを作り出すことに成功している。

 

バレット率いるアヴァランチの仲間達のジェシー、ビッグス、ウェッジの面々も、オリジナル版よりキャラクターの深堀りがなされている。彼らはオリジナル版では序盤にしか登場しないキャラクターだったが、リメイク版では大幅に出番が増強され、オリジナルでは知られる事の無かった各メンバーのバックグラウンドも知ることが出来るようになっている。その為、オリジナル版よりもアヴァランチのメンバーの存在感が増し、彼らに対する仲間意識を強く感じる効果を生み出している。

 

そして、既存のキャラクターとは別に、新キャラクターのローチェというキャラクターも登場する。彼は、常にハイテンションで、バイクに跨りながら、プレイヤーに対して戦いを挑んでくるキャラクターだ。彼が主に登場するのは、プレイヤーがバイクに乗りながら戦う「Gバイク」戦で、一般兵とのチェイスバトル中に彼が乱入する事で、オリジナルよりも更に激しいバトルを演出するのに一役買っている。

<世界観描写の変化>

 

『FF7リメイク』は、クラウドたちが探索する世界観の描き方についても改変が加えられている。物語冒頭で主人公達が神羅カンパニーの魔晄炉を爆破するミッションがあるのだが、爆破を成功させると、そこには崩壊した街並みの惨状が現れる。街行く人々がその惨状に疲弊する様や、モニターに映る報道に人集りが発生している様子は、9.11や3.11などの現実世界の出来事を想起させ、リアリティを感じさせる。

主人公達が暮らすスラムの街は、天空を見上げると、神羅カンパニーの富裕層が暮らす人口都市プレートが一面に広がる街である。天空に広がるプレートの存在感は圧倒的で、主人公達の暮らす朽ち果てたスラム街と比べると貧富の差という現代的なテーマ性を視覚的に感じさせる。オリジナル版でもスラムとプレートは貧富の差を象徴する舞台装置の役割を果たしていたが、今回のリメイク版でスラム街からプレートを見上げるという新しい要素を加えた事によって、そうしたテーマ性により説得力を持たせる仕上がりになっている。

 

主人公達が行き交う街に膨大なNPCが居るのもオリジナル版から強化されたポイントである。NPCは、一人一人が違う会話を話し、恋人達の痴話喧嘩から、将来スラムから抜け出してプレートに上京したい夢を語る者が居て、その世界に生きる人々の生活感を感じ取る事が出来る。その台詞量は膨大で、探索が好きなプレイヤーは一つ一つをチェックしたい衝動に駆られるだろう。
<新旧の要素が組み合わさったバトルシステム>

本作のバトルシステムは、現代のアクションRPGと旧来のコマンド式RPGを組合せたものになっている。

敵と遭遇するとバトルに突入するが、オリジナル版のようなエンカウント描写は無く、シームレスにリアルタイムバトルに移行する。アクション時は通常の3Dアクションのようにフィールドを駆けずり回りながら攻撃、回避、ガードなどを駆使して戦うのだが、攻撃する事で溜まるATBゲージを消費することでアビリティや魔法などのバトルコマンドを使用できる。コマンドメニューを開くとスローモーション状態になり、じっくり戦略を考える時間が生まれるので、オリジナル版のように時間に余裕を持ってコマンドを選択できる。

 

更にバーストという要素もあって、攻撃を繰り返して敵のバーストゲージを貯めると敵はバースト状態になる。バースト状態の敵は無防備でダメージも多く与えられるが、バーストゲージは時間の経過で減っていくのでその点は注意が必要だ。基本的にはこの2つの要素を使いながら戦っていくのがこのゲームのバトルスタイルとなっている。

 

尚、アクションゲームが好きなユーザー向けに、アビリティや魔法等をボタンにプリセットする事で、コマンドメニューを開くことなくショートカットからコマンドを使用することもできるので、アクションゲームのようなプレイを楽しみたい人はこれを活用していくのも良いだろう。

 

更にアクションが苦手な人向けに、オリジナル版のゲームシステムを再現したクラシックモードというシステムも搭載されている。キャラクターはオートで攻撃等のアクションを行い、その間にATBゲージが溜まるので、プレイヤーは使いたいアビリティや魔法、アイテムの選択に集中出来る。オリジナルからそれほどゲームに手を出していなかったアクションが苦手なユーザーもこのモードがあれば安心だろう。

 

<分作について>

 

『FF7リメイク』の分作という販売スタイルを聞いた時、第一弾のボリュームについて少々不安に思うところもあったのは事実。しかし、プレイ後には1本のゲームを遊び尽くした満足感を得ることが出来た。引き伸ばしに見えるステージも多々あるが、肝心の戦闘が面白く、探索要素も楽しめ、シナリオも先の展開が気になるように作られていたので、買って損だと思うプレイヤーは殆ど居ないと思われる。

 

次回作が待ち遠しく、早く発売しないかと待ちきれない人もいるだろう。しかし、ミッドガル脱出後の世界は広大ですぐに発売するのは恐らく困難だ。心持ちとしては『スターウォーズ』シリーズの次回作を待ち望むようなスタイルでいるのが懸命ではないか。

 

<フィーラーという新要素について>

 

今作から加えられた新要素としてフィーラーというモノがあるが、これはプレイヤーによっては賛否が別れる所だろう。詳細はネタバレになるので言えないが、プレイ後にフィーラーに対して考察や議論をしたくなる欲求に駆られる事は間違いない。恐らくクリエイター側の視点に立つと、このフィーラーという新要素を使う事によって、オリジナル『FF7』とは違う『FF7リメイク』ならではの新しいテーマ性を描きたかったのだろう。

『FF7リメイク』と同様にオリジナルを現代の解釈で再構築した『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』も新要素の是非について賛否が別れたが、『FF7リメイク』に関しても同様のリアクションがネットで起こっているように思える。

しかし、コンテンツを進化させていく事において、オリジナルの焼き直しでは無く、新しい要素を構築していく事は大事な試みである。まだ次回作が発売されていない以上、この新要素についての判定はしかねる部分がある。しかし、筆者としては、次回作以降も『FF7リメイク』のクリエイター陣が描く新しいテーマ性を見届けたい気持ちである。

 

プレイ後に本作に対して抱いた印象は、オリジナル版を基盤としながらも、現代的なアップデートが計られた完成度の高いゲームと云った感じである。キャラクターや世界観の再構築は、リメイク作でありながらも新鮮味を持って堪能することが出来た。バトルシステムも新旧の良い要素がミキシングされていて、歴代FFシリーズで一番優れたシステムと云っても良いクオリティだ。昨今の現状や、ゴールデンウィークという状況を踏まえると、家で遊ぶコンテンツを探している人は多いだろう。そんな方やゲーマーには是非とも『FINAL FANTASY Ⅶ REMAKE』をオススメしたい!

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました