『アラフォーの挑戦 アメリカへ』松下恵&榊原るみ、親子対談インタビュー


【取材:畑史進、ジャンクハンター吉田】

女優の松下恵が昨年、アメリカへ1ヶ月ほど語学留学でホームステイを体験したドキュメンタリー映画『アラフォーの挑戦 アメリカへ』が4月6日から順次公開される予定だ。本作はただのホームステイドキュメンタリーかと思いきや、松下恵が現地で様々な立場で生活する女性にインタビューを行って、女性の「結婚」と「仕事」そして「エイジハラスメント」に真摯に向き合う濃厚な作品となっている。

僕がこの映画を見る前の印象は、女性がただのアメリカ旅行に行ったドキュメンタリーかと思ったら、インタビューする対象が変わっていくに従って、現代日本にも通じる女性の働き方と人生選択の狭さに対して警鐘を鳴らす作品となっていて、男という立場にありながら深く考えさせられた。それと同時に今、日本で行われている「働き方改革」という物が、如何にままごとのような稚拙な会話で成立しているものかと思い、本作の深層にあるメッセージに感動させられた。

また、インタビューに同行したジャンクハンター吉田は、この作品の根幹にあるテーマは「行動力」だと話した。「行動力が有るか無いかによって次のステップに踏み出す勇気が必要になるかと思います。僕はこの映画を見ていて、恵さんの行動力に感動させられました。女性に対してこういうのは失礼ですけど、女性の花の咲く時間というのは男と比べると短くて、30代後半になって動くのは勇気がいることだと思って、そこを捉えてこの映画を見ていたんです。結構いい年齢になってくると、もうチャンスは無いと思いがちだけど、行動力があればチャンスはいくらでもあると思うんです。現代人は忙しいということもあって、若い頃に挑戦しておかないと、40を超えてしまうと時間が経つのが早くなってくるんで、余計にチャレンジすることが難しくなってくるんです。恵さんが映像で今回のチャレンジを残していることは素晴らしいことで、今後お子さんができた時に見せてほしいなと思っています。もっともっとやるべきことはたくさんあるんだと思います」

この度、母親の榊原るみとの対談形式でインタビューを敢行。本作鑑賞前に作品の空気感に触れて、劇場に足を運ぶ契機になってもらえれば幸いだ。

—なぜアメリカ留学をドキュメンタリー映像として残そうとお考えになったのでしょうか?

松下:最初にお話をくださったのは、ロサンゼルスで語学学校を経営していらっしゃる女性の方で、「映画を作りたい」と仰ったのがはじめだったんです。どちらかというと私のほうが受け身なんですが、その彼女が言うには、海外に留学する若者が減ってきていて、アラサーアラフォーの女性の方がよく海外に来ているんだそうです。そういった人たちは就職してからコツコツお金をためて、仕事を休んでシングルの身で学校に来るのだそうです。そういったこともあって、アラフォー世代の私でやってみてはどうかという流れになったんです。

—ホームステイ先のお家はすぐに見つかったんでしょうか?

松下:彼女の学校は、語学教育からホームステイ先もコーディネイトしてくださるんです。私の場合は更に「撮影を許可してくれる」という条件もあったんで中々見つからなかったんです。

—映画では最後のインタビューから帰国の流れが無かったのですが、どのくらいの滞在だったのでしょうか?

松下:私の場合は1ヶ月の滞在でした。あれからはアメリカも行けずに、編集の手伝いをしていました。

—3週間の滞在で英語民になったというお話をされていましたが、それ以前はどの様に英語を勉強されていたのでしょうか?

松下:私は趣味がオンライン英会話で、一日スカイプで25分喋るのが160円なんで、そこから勉強していました。

—だからかなり早くからヒアリングに対応できたんですね

松下:それでもかなり苦労しました。私の先生はフィリピン人で彼女の英語は第2外国語で、その方とネイティブの方の英語を聞いているとやはり違いがありましたね。

—言い方はあまり良くないのですが、英語は犬に喋る言葉と友達に喋る言葉、大統領に喋る言葉もみんな同じだと言われていて、英語を勉強すると新しい考えが身につき、日本語を更に深く知るきっかけになるということも聞きますが、松下さんはそういった変化を感じられることはありましたか?

松下:確かに日本語は丁寧語から謙譲語などかなり複雑で、その点英語は世界公用語になるほど簡単ではありますよね。それ以外の外国語となると複雑な点もありますしね。英語の難しい点はスラングや、それこそ「ピースオブケイク」のような言い回しとか、とても種類がありますので、事前に勉強しなければならない部分は多いかなと思います。ただ、表現はストレートでわかりやすいですよね。

—なるほど、日本語だとその場その場で「状況を推し量る」力量を要求されますが、英語はその辺わかりやすいとは聞きますね。

松下:そうですね、YesかNoしか無いですからね。日本語はセンテンスの最後に分かることが多いですよね。

—今回の語学留学はご自身の役者としてのキャリアアップも考えてのことだったのでしょうか?

松下:確かに一つの理由として海外の作品にはずっと出たいと思っていて、それもあって英語は勉強していました。あとは映画に限らず、海外で何かを作ってみたかったり、外国人の方とコミュニケーションを取るのも好きで、そこからグローバルなことはなにかやってみたいなと思っていました。

—映画の冒頭ではそれこそ一人の女優さんが語学留学、カルチャー交流を目的にしているのかなと思ったら、歳を重ねていく女性の生き方に対して活動の選択肢を狭めて良いものなのかという問題提起に繋がっていって、特にアラフォーというポイントは転換点でもあるのではないかなと男である僕も考えさせられる内容になっていました。

松下:私からすると、アラフォーの女性はシングルの男性からするとすごく魅力があるんじゃないかなと思うんです。

榊原:でも年齢的なものもあるんじゃない?

松下:年齢的な部分で年上は嫌だと言われたらしょうがないですけど・・・。

榊原:年齢的にお姉ちゃん好みの人のこと?

松下:(年上の女性は)ものすごく男性に対しての理解力はあると思います。包み込める物があると思いますよ。

榊原:欧米はそうなのよ。若い娘はだめだよね、大人の女こそ良いんだって言う文化だけど、日本はその逆だから。

松下:そんなものですかね?

—難しいところですよね。キャリアを選んで40代に差し掛かったら、その後もその様に進まざるを得ない。逆に結婚して子供を産んだら職場復帰は難しくて、子育て中心にならざるを得ない2つの道しかなく、どの道を進んでも周りからは「あなたの人生はこれしかないの」という圧迫した社会の空気感が今の日本にあるのは確かかなと思います。この作品は「そうではないよ、子供を産んでも仕事を続けても良い。キャリアを長く積んでからでも結婚して子供を作っても良いんだよ」という多様な人生の提唱をしている作品だと感じたんです。

松下:そうなんですよ。日本は3人に1人が専業主婦になりたいということですが、向こうは「結婚しても仕事は続けていきたい。自分がやりたいことも大事だ。子育てはご主人もすればいいんじゃない。」という考えがあって、生活スタイルも成り立っているんです。一方で日本は働きながら女性が幸せを追求していくというのがやりづらい。お母さんが働いているとお父さんが無職か、お母さんが子供をほったらかしにしていると思われちゃいますよね。ホームステイ先ではお母さんはお仕事で遅くに帰ってくるから、お父さんが晩御飯を作って、お弁当まで作っている。共働きでこの様な生活環境になっているんですが、仕方なしにやっているんじゃなくて、お父さんが積極的に子供の面倒を見ているんですよね。

榊原:得意なことをしているということ?

松下:そう、平等に子供の面倒を見る。

榊原:えらいよねぇ。どうしてそのお父さんはそんな感じなのかしら?元々そういう家庭環境だったのかしら?

松下:わからないけど、海外のお父さんはそんな感じだよね。日本の家庭はどうしても夫が働きに出ていて、妻は家庭で家事をするという形式が続いていて、まだその傾向が多いと思います。日本も早くスタンダード化してほしいなと思います。

榊原:なんだか共稼ぎっていけない空気感はあるよね。

—今は働いている人の給料が全体的に下がってしまっているので、結婚しても共働きをしないと食べていけないので、考えを改めないとならない時期に入ったかと思います。そういう意味ではこのドキュメンタリーは警鐘を鳴らす作品になっているかと思います。監督は『442日系部隊・アメリカ史上最強の陸軍』(2010)を撮っていますが、今作も同様に人種差別のメッセージを込めていてこの人はぶれていないなと思ったんです。僕もチャック・ノリスさんの道場に通っていて、当時のロスでゲイ・コミュニティや黒人の人種差別を体感していたんで、すごく共感できる作品でした。

榊原:よくよく主人にも伝えておきます(笑)

—娘がいる立場としてお伺いしたいのですが、恵さんをアメリカに1ヶ月行かせるというのはどの様な心境でした?

榊原:男親と女親は違うかもしれませんが、私達もロサンゼルスを知っていたのと、いい歳ということもあって、あまり心配はしていなかったですね。

—タイトルに関しても少しお伺いしたいのですが、作品のメッセージ性に対して少し力が足りないかなと思ったんですが、他にも候補はあったのでしょうか?

榊原:題名の重要性は分かっているんですけどね、あまり重たくなると人が来なくなるんじゃないかなというのもあって。

松下:そうだよね。もっと他に候補はあったんですけどね。

榊原:お客さんをタイトルで引っ張るのはすごく難しくて、テーマもあるんだけど、最終的には軽い感じにして気軽に入ってもらおうということでこのタイトルにしたんです。

松下:監督からすると、本当は日米文化の違いや、日系人の歴史を描きたかったらしいです。

—途中にはゲーム会社の方のインタビューも入っていて、僕もゲーマーなんでどこなんだろうなと思ったらアクションシューティングゲーム『オーバーウォッチ』のブリザード社だったので驚きました。

松下:私もあまりゲーム会社は詳しくは知らないのですが、プロデューサーの青井さんに知り合いがいらっしゃって、そこから会社見学やインタビューをさせていただきました。とても楽しそうな会社でした。会社の中にマッサージ施設もあって、動物がいてもいいですし、ビールサーバーもあって自由な空気を感じました。食堂も充実してましたね。

—作品から話はずれてしまうんですが、プレイステーションのゲーム『アナザー・マインド』(1998)はどの様な経緯で出演されたのでしょうか?

松下:これはホリプロ時代に何人かピックアップされて、その中からオーディションで決まりました。とにかく演技力を重視されていて、ゲームの展開に応じて百面相みたいなことをしなければならないので、顔の表情が多く変えられる演技のできる人を探していたと思います。

—松下さんが女優になりたいと思うきっかけはお母さんの影響が強かったのですか?

松下:そうでしたね。

榊原:私より欲がありましたし、断然出たがり屋でしたよ。私の取材なのに何故か出てきちゃってね。私の場合は小さい時に、親に引っ張って行かれたこともあって、自分からということはなかったんですが、彼女の欲が強かったんですよ。

松下:私が旅番組に出た時にホリプロのマネージャーさんから声をかけてくださったので、そこから始めた感じでした。

—『男はつらいよ 奮闘編』(1971)の当時のお話を覚えている限りでいいので教えて頂けますか?

榊原:もう50年近くも前のことですよね。みんな若々しかったですね、倍賞千恵子さんも27歳位で、寅さんも7作目だったので山田監督も渥美さんも40代で初代のおいちゃんもまだ健在で、いい雰囲気でのお仕事でした。もう皆いなくなっちゃいましたけどね。

—この当時は最年少マドンナという立ち位置でしたよね。

榊原:そうそう。それまでは大女優さんが出ていらっしゃったんですけど、突然私が抜擢されちゃって、しかも立ち位置も特殊でしたよね。花子は障害を抱えている女の子で、作品のスタイルもシリーズの中では特に違っていましたよね。

—この作品をきっかけに人気若手女優へ登っていくわけですが、『帰ってきたウルトラマン』(1971)でナックル星人に殺されて急な降板となった理由はその当時忙しかったということでしたが本当ですか?

榊原:ちょうど『気になる嫁さん』(1971)という主役の話が急に来て、当然マネージャーとしてはそちらを取りますよね。それで週に3、4日ウルトラマンに私を渡せませんという事になったわけですよ。

—円谷は怒らなかったんですか?

榊原:怒ったから「この野郎!」っていう感じで私が車で轢き殺されちゃったんですよ(笑)。まぁ分かりませんけどね(笑)。でも、なにもお兄さん役の岸田森さんまで殺す必要はなかったんじゃないですかね?完全にとばっちりですよ。でもまぁ他に方法は無いですからねぇ・・・。

—でもその後親子で『大決戦!超ウルトラ8兄弟』でその設定は無かった事になって、親子で共演されるわけじゃないですか。その時の感想はいかがでした?

榊原:あれは全員出てきましたもんね。ひし美ゆり子さんから、星光子さんのお嬢さんまで。団さんも今は真っ白ですごく風格も良くなって、同窓会みたいな感じで面白かったですよ。

—最後にこの映画をこれからご覧になる方に向けてメッセージを頂ければと思います。

松下:年齢に関係なく一歩を踏み出すと、とても世界が広がるので、アラフォーでもアラサーでも関係なくチャレンジしてほしいなと思います。そういった方たちが見たらカウンセリングみたいな印象を受ける映画だと思うので、癒やされに一人でこっそり観に来てください。

榊原:私はこの映画は「親子で観る映画」だと思っているんです。親子で観るとお互いに言えなかったことを黙っていても理解できるんじゃないかなと思っています。

『アラフォーの挑戦 アメリカへ』
2019年4月6日(土)公開
配給:フイルムヴォイス
(C)アラフォーフィルム・パートナーズ
公式サイト:https://arafo37.com/

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