映画レビュー 『ファンタスティックMr.FOX』

ミセスFOX(メリル・ストリープ)との間に子供ができたため、ミスターFOX(ジョージ・クルーニー)は鶏狩りから足を洗い、家族のため新聞のコラムを書いて生計を立てている。しかし、ミドルライフ・クライシスを迎えた彼はネズミの友人カイリ(ウォーリー・ウォロダースキー)に聞く、「俺は一体何なんだ?どうしてキツネなんだ?どのキツネが鶏狩り無しで生きていけるんだ?」。一度は情熱を封印した彼だが野生動物ゆえに、その宿命に悩まされる。

『ロイヤル・テネンバウムズ』や『ライフ・アクアティック』等ひとクセのある作風で人気のウェス・アンダーソンが新しく監督を手掛けた『ファンタスティックMr.FOX』は『チョコレート工場の秘密』の原作者としても知られるロアルド・ダール著の児童小説『すばらしき父さん狐』を基にした作品。それをアンダーソンと『イカとクジラ』で知られるノア・バームバックが共同で脚本を手掛け、動物だけど人間臭い台詞が印象的な極上の家族ドラマに仕上がった。

つつがなく穴暮らしをしていたキツネ一家だが、友人の弁護士バジャー(ビル・マーレイ)の忠告を無視し、ミスターFOXは引越しを決意。一家の新居は丘の上にある一本の木の中で、そこからはなんと養鶏場を営むボギス、アヒルとガチョウ農場を営むバンス、そして七面鳥とリンゴ酒農場を営むビーンという、その辺りで最も冷酷でずる賢い3人の農場主たちの敷地が目の前に広がっていた。

引越しをして間もなく、父親の病気のためキツネ一家と一緒に暮らす事になるクリストファーソン(エリック・アンダーソン)。運動神経抜群で、容姿端麗、おまけに性格も良い彼にキツネ一家のちょっと風変わりで負けん気だけは強い1人息子アッシュ(ジェイソン・シュワルツマン)はライバルの眼差しを向ける。そんな中、ミスターFOXは衝動を押さえきれずミセスFOXに内緒で、カイリと共にボギスの養鶏場に忍び込むが…。

渋めでリラックスした佇まいが60年代のフランス人俳優を思い出させるミスターFOX。彼は危険を冒し、獲物を捕まえる補食動物である事を忘れて、2年間(キツネ時間で12年間)家族のために尽くしてきた。でも実はミセスFOXは知っている、どんなに平穏な暮らしを望んでも、いくらミスターFOXが変わろうとしても、結局彼が野生の動物だって事を。なぜなら彼女は周りとは違うそんな彼に惚れたのだから。

家族ドラマを描く事に長けるウェス・アンダーソン。今回は人間ではなく哺乳類の動物たちだが、擬人化された人間味溢れるキャラクターたちがちょっぴり切なくて羨ましいくらいにどこまでも愛らしい。アニメ映画は3Dが主流になった今日、この『ファンタスティックMr.FOX』はなんとこだわりの2Dのスットプモーション作品。子供の頃に読んで物語に恋に落ち、長年映画化を待ち望んだアンダーソン。彼がどうしても映画化しなければならなかった理由が手に取る様に分かる程、本作には温もりや愛がたくさん詰まっている。

レビュアー:岡本太陽

『ファンタスティクMr.FOX』
シネスイッチ銀座ほか全国公開中
原作:ロアルド・ダール 「チャーリーとチョコレート工場」
監督・脚本:ウェス・アンダーソン 「ダージリン特急」
声の出演:ジョージ・クルーニー、メリル・ストリープ、
ジェイソン・シュワルツマン、ビル・マーレイ、オーウェン・ウィルソン他
配給:ショウゲート
公式サイト:http://mrfox.jp/
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