映画レビュー アカデミー賞主演女優賞受賞作品『ブラック・スワン』



『ブラック・スワン』の憑依的演技で、ついにアカデミー賞主演女優賞をさらってしまったナタリー・ポートマン。『レクイエム・フォー・ドリーム』『レスラー』でも知られる監督のダーレン・アロノフスキーは、もともとポートマンを念頭に置いて『ブラック・スワン』の制作を始めたようで、この映画は彼女無しではありえなかったのだ。
映画の舞台となるのはニューヨーク。そこにあるニューヨーク・シティ・バレエ団の演出家のトマ(ヴァンサン・カッセル)は、中年のプリマバレリーナのベス(ウィノナ・ライダー)を主役から降板させ、代わりに若い才能を迎える事で、「白鳥の湖」で幕を開ける新しいシーズンからバレエ団の心機一転を計ろうとしている。そこで主役に抜擢されるのが努力家のニナ(ナタリー・ポートマン)。ところが彼女は、過去の夢を娘の将来に重ねる母親(バーバラ・ハーシー)や主役の座を守らねばならないプレッシャーから妄想、自傷行為が目立つ様になり、また新しくバレエ団に参加した奔放で才能あるバレリーナ・リリー(ミラ・キュニス)の存在がニナを精神的に追いつめていく。
悪魔によって白鳥に姿を変えられたオデット姫がジークフリート王子と恋に落ち、王子は彼女の呪いを真実の愛によって解こうとするが、姫と似た容姿の女性に王子は騙され、姫は悲しみのあまり命を絶ってしまうという、チャイコフスキーの白鳥の湖の物語に準えた『ブラック・スワン』。それ以外にもローマン・ポランスキーやデヴィッド・クローネンバーグの作品、さらにはマイケル・パウエル&エメリック・プレスバーガーの『黒水仙』や『赤い靴』、デヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』らの要素も物語に強く反映されている。
「白鳥の湖」の主役は全く表現方法の違う白鳥と黒鳥を完璧に踊らなければならない。今までの人生、バレエの事だけを考えて生きてきたニナは白鳥なら誰にも負けない。しかし正確さやテクニックだけでは踊る事が出来ない黒鳥に苦しめられる。前に述べた映画の中にも人間の持つ2面性を描いている作品があるが、本作ではニナの中に棲む欲望に忠実なもう1人の自分を黒鳥として描き、バレエ優等生の良い子が、「白鳥の湖」をきっかけに、人生で初めて彼女自身を解き放つ瞬間を見せる。人は誰しも、白か黒だけでは生きていけない。白だけに見えてもどこかに必ず黒を持ち合わせているのだ。
また本作では色で心の変化を表現している事も見逃してはならない。ニナは映画が始まった時は、白や薄いピンクの服を着用しているが、心の変化と共に灰色が服のコーディネイトの中に入り、そして徐々に黒が現れてくる、というように彼女の服の色の変化に気付いていると、何が彼女の中で起こっているのかも分かりやすく理解出来るようになっている。ニナが完璧に黒に身を包んだとき、ナタリー・ポートマンという女優に対する固定概念が大きな音と共に崩れ去り、目の前には『ローズマリーの赤ちゃん』や『キャリー』というような新しい映画のスタンダードが誕生する。
レビュアー:岡本太陽


『ブラック・スワン』
5月13日(金) TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
華麗なるバレエ界の過酷な舞台裏で、可憐なバレリーナが心の闇に囚われたとき、“もうひとりの自分”が目を覚ます!──ニューヨークのバレエ・カンパニーに所属するニナ(ナタリー・ポートマン)は、元ダンサーの母親の寵愛のもと、人生のすべてをバレエに捧げていた。そんな彼女に新作「白鳥の湖」のプリマを演じるチャンスが訪れる。しかし純真な白鳥の女王だけでなく、邪悪で官能的な黒鳥も演じねばならないこの難役は、優等生タイプのニナにとってハードルの高すぎる挑戦だった。さらに黒鳥役が似合う奔放な新人ダンサー、リリー(ミラ・クニス)の出現も、ニナを精神的に追いつめていく。やがて役作りに没頭するあまり極度の混乱に陥ったニナは、現実と悪夢の狭間をさまよい、自らの心の闇に囚われていくのだった……。
監督:ダーレン・アロノフスキー
出演:ナタリー・ポートマン、ヴァンサン・カッセル、
ミラ・クニス、バーバラ・ハーシー、ウィノナ・ライダー
2010年/ シネマスコ ―プ/アメリカ/ 配給:20世紀フォックス映画 上映時間:108分
(C) 2010 Twentieth Century Fox
配給:20世紀フォックス映画
公式サイト:http://www.blackswan-movie.jp


関連記事>>
・映画レビュー ソフィア・コッポラ監督最新作『SOMEWHERE』
・映画レビュー 実在したボクサー、ミッキー・ウォードの苦悩と再生を描く感動作『ザ・ファイター』
・映画レビュー 『ファンタスティックMr.FOX』
・映画レビュー アカデミー賞主演男優賞最有力候補! 『英国王のスピーチ』

コメント

タイトルとURLをコピーしました