勝敗のあとにも、キャラクターは残る。EVO Japan 2026「EVO ART EXHIBITION」取材レポート

 

【取材・文:ライター ゆん】
https://x.com/yun_blueDaisy

 

 

2026年5月1日から3日にかけて、東京ビッグサイトで開催されたEVO Japan 2026。会場の中心にはもちろん、各タイトルの試合があった。青いライトに照らされたメインステージでは、1ラウンドごとに歓声が起こり、選手の集中と観客の熱が絶えず交差していた。

 

 

その熱気のすぐそばに、少し違う時間が流れる空間があった。「EVO ART EXHIBITION」だ。EVO Japan 2026は東1-3ホールへと規模を広げ、メイン12タイトル、賞金総額3000万円を掲げた大会だったが、その巨大な競技空間の一角に、勝敗とは別の角度から格闘ゲームを見つめる展示が用意されていた。

 

つまりここは、単なるイラスト展示ではない。キャラクターのデザインがなぜ長く「作品の顔」として記憶されるのかを、原画・設定資料・立体物から読み解く場所だった。

 

格闘ゲームキャラクターの設計図

 

今回の展示で面白かったのは、各格闘ゲームの「キャラクターアート」の設定資料が大判パネルでずらりとならんでいたことだ。。

 

『ストリートファイター6』のサガットのパネルでは、巨大な蹴りのカットアウトを中心に、初期のラフスケッチから現在の3Dモデルに至るまでの設定資料が並んでいた。ムエタイの王者という記号を保ちながら、現代の『スト6』らしい重さと質感へどう更新するか。複数世代の設定画が並ぶことで、そのアップデートの軌跡が可視化されていた。

 

 

SNKの『餓狼伝説 City of the Wolves』のパネルでは、テリーが大判のビジュアルで展示されていた。長年シリーズを支えてきた「らしさ」を、新作のグラフィックでどう表現するか。その答えがそれぞれのアートの中に凝縮されていた。

 

 

アークシステムワークスの『GUILTY GEAR -STRIVE-』ではソルとカイの2人が一緒に描かれたビジュアルが印象的だった。向かい合うのではなく、別々の方向に視線を向ける構図。ライバルであり、長い歴史を共有する2人の関係性が、単なる対峙図ではない形で表現されていた。

 

 

設定資料という「解説書」

展示の核心は、個々の設定資料の密度にあった。

『UNDER NIGHT IN-BIRTH II Sys:Celes』のハイドの設定シートは、特に細かかった。武器「断裂の免罪符」は刀身・柄・鍔それぞれに注釈がつき、「こっち側が刃です」という実務的な記述まである。衣装では、ジャケットのファスナーの形状、ポケットの縁取り線の有無、ブーツのファスナー位置まで注記されていた。プレイヤーが画面上で「かっこいい」と受け取っているものの裏に、これだけの設計がある。

『MELTY BLOOD: TYPE LUMINA』のアルクェイド・ブリュンスタッドのパネルでは、パネルの上部に横一列に並んだモーション連続図が目を引いた。白いシャツ・黒のパンツという極めてシンプルな衣装のアルクェイドのモーションがコマ送りの形で並んでいる。格闘ゲームのキャラクターは静止画として美しいだけでは足りない——あらゆる動作の中でシルエットが破綻せず、かつキャラクターらしさを保ち続ける必要がある。その難しさが、一列の連続図からよく伝わってきた。

 

 

鉄拳8の麗奈のパネルには、パネルの説明文が添えられていた。「鉄拳8で初登場となる麗奈のデフォルトコスチュームは、嶋崎 麻里によるコンセプトスケッチを基にデザインされています」という一文が、実際のスケッチ数枚とともに展示されていた。黒と紫のジャケット、ショートボブ、鋭い目元——見た目に記憶される新キャラクターが、誰の手でどのように作られたかが、コンセプトスケッチを通じて見えてくる。

 

正面からは見えない設計思想

モリガン(『ヴァンパイア』シリーズ)の展示で面白かったのは、背面の設定図が単独で大きく取り上げられていたことだ。グリーンの長髪、黒のボディスーツ、背中の羽——「脇周辺に羽がフィットしており、ボリューム感もあります」「腕の上げ下げに応じて白い羽が伸縮するイメージです」という注記が添えられていた。正面から見慣れたシルエットが、背後からはどう構成されているか。30年経っても一目でわかるデザインの強度は、こういう見えない部分の設計に支えられている。

『グランブルーファンタジーヴァーサス -ライジング-』のヴェルサシアの設定資料では、四本の腕の指の描き方について赤丸と矢印で「指4本」と注記がつけられていた。ボスキャラクターとしての威圧的なシルエットを持ちながら、操作キャラクターとして読み取りやすいデザインを成立させる——その細部への注意が、こういう注釈に現れていた。

『2XKO』のジンクスのパネルでは、「暴走バンクガール」のキャッチコピーと「好きなもの:大爆れ、爆発、ベルト」という設定が記載されていた。LOLで長く親しまれてきたキャラクターを格闘ゲームの文脈に置き直すとき、どの記号を残し、どこを対戦の動きに合わせて再設計するのか——既存ファンと格ゲーファンの両方に向けた設計の痕跡が、キャラクターシートから読み取れた。

 

格闘ゲームを描いてきたアーティストたち

 

その他、展示エリアにはFeatured Artistとして、JBSTYLEと森気楼(SHINKIRO)のパネルが設けられていた。

 

JBSTYLEは、Adobe Illustratorをメインツールに、アメコミタッチと劇画的表現を組み合わせた独自スタイルで知られる作家で、鉄拳7のビジュアルをはじめ格闘ゲームキャラクターを題材にした作品を多数発表している。そのパネルは、鉄拳やEVO Japanをモチーフにしたグラフィックが大判で並ぶ構成だった。トライバルや刺青的なモチーフとキャラクターを組み合わせた独自のスタイルで、大会ポスターのような密度と熱量がある。EVO Japanそのものをビジュアル化しようとする作家の意志が、色とラインの強さに出ていた。

森気楼(SHINKIRO)は、1990年代のSNKでKOFや餓狼伝説、サムライスピリッツのパッケージアートを手がけ、後にカプコンのMARVEL VS. CAPCOMシリーズにも携わったイラストレーターだ。写実的な筋肉表現と重厚な色彩が特徴で、90年代格闘ゲームのビジュアルアイデンティティを作った一人といっていい。そのパネルは、アレックスが中央に大きく描かれており、これまで作者が手がけたパネルがその周囲を囲む構成となっていた。個々のイラストというより、パネル全体が格闘ゲームのビジュアル史の一断面になっていた。

メインステージでは、1ラウンドごとに歓声が起こる。EVO ART EXHIBITIONは、同じキャラクターたちを別の速度で見つめる場所だった。試合中は一瞬で過ぎる技、画面の端に消えていくポーズ、勝利演出のわずかな表情。それらを、注釈付きの設定資料として止めて読み返すとき、格闘ゲームがどれほど緻密に作られているかが改めて実感できる

格闘ゲームは、勝つために遊ばれる。けれど、勝敗が決まった後にも残るものがある。好きなキャラクターの立ち姿、初めて見た必殺技、長く使い続けたメインキャラへの愛着。

 

EVO ART EXHIBITIONは、その「残るもの」に光を当てた展示だった。大会会場の中に生まれた小さな美術館は、格闘ゲームが競技であると同時に、記憶され、描かれ、飾られ、語り継がれる文化であることを静かに示していた。

 

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