【連載コラム】畑史進の「わしは人生最後に何をみる?」 第8回 Mildom VS OPENRECという子供の喧嘩に出てきた大人のような構造について

 

畑史進(編集長Twitter):https://twitter.com/cefca_vader?lang=ja

 

久しぶりのコラム更新ですが、皆様コロナウィルスの影響いかがでしょうか?

いかがでしょうかってそんな季節の風物詩みたいに言われてもこっちは死活問題じゃ!という人の方が圧倒的に多いかと思いますが、僕もここ2ヶ月で10万円分くらい仕事が消し飛んでいて、いつ首に縄を括る日が来るのか考える毎日ですよ。なんで真面目に税金納めて“他人に迷惑かけずに”生きているのに保留中の死刑囚よりも早く首を括ることを考えなきゃならないほど貧困に喘いでいるのか訳が分からないけど、まぁそんなもんですわな。

 

真面目なバカ話もさておき、今回は大手ゲームメーカーのCygames(サイゲームス)が配信サイトのMildomに対して「うちのゲーム使わせねーからな!」と通告したメチャクチャ面白い事件を紹介しよう。

 

その前に前提知識として押さえておきたい事柄がいくつかあるんだけど、サイバーエージェントのグループにCygamesというゲームメーカーがあって、そのグループ内にはCyberZという会社も抱えているんだけど、このCyberZがOPENRECという“ゲームに特化した”配信サイトを運営している。

一方Mildomは「中国版Twitch」といわれるほどのゲーム特化型配信サイトで、中国のDouyu(日本はDouyu Japan)という会社が運営しているのだけど、この会社はこれまた大手ゲームメーカーの持株会社「テンセント」の資本が入っている。テンセントが“支配している”ゲームメーカーには『リーグ・オブ・レジェンド』のライアットゲームズや『クラッシュ・オブ・クラン』のスーパーセル、韓国のアプリゲームメーカーのネットマーブル、他にもプラチナゲームズとの資本提携と、色々多岐に渡っている。

 

 

で、これって何が面白いかっていうと、実はMildomが日本に参入したのはOPENRECよりも後だったんだけど、チャイナマネーを駆使して立ち上げ時から時給500円を掲げて様々な配信サイトから「ゲーム実況配信者」を引き抜いたわけ。その中にはOPENRECも入っていると言われていて、ここで個人配信番組をしていた人気者にお金で引き抜いたという話しもあって、交渉時にはそれこそ「億単位」の金をちらつかせたとかなんとか。現に相当数の配信が抜けたという事実があるからには、噂のままとまで行かなくても相当な金額を積まれたんでしょう。

ちなみにOPENRECって任天堂と提携を結んでいて、サイト内で「月額会員になる」という条件を満たすと任天堂タイトルを配信しても収益化出来ますよ。という特徴があったわけだけど(YouTubeやニコニコでも配信できるし、収益化もできるけどね)、Mildomの親会社のテンセントも任天堂と業務提携を結んでいて、この恩恵からMildomも任天堂タイトルの生放送配信の許諾を得ていたりする。ある意味一番難しい会社のタイトルが移籍先でも配信できるということで、配信者にとっての懸念材料も払拭されていることから引き抜きは更に加速。配信サイトって結局のところ「そこで配信してくれる配信者」がいないとサイトそのものが維持できない。YouTubeやニコニコ動画でいうと「“動画投稿されない動画サイト”は誰が盛り上げるのですか?」という話し。つまり、OPENRECからするとこの配信者引き抜き事件はかなりの痛手だった。

 

そこで3月13日。Cygamesはしれっとこんなインフォメーションを出しちゃった。

 

 

「(要約)Cygamesで作ってるゲームをMildomで配信するの禁止ね!」

もちろんMildomでゲーム実況配信をしているタイトルの全てがCygamesタイトルというわけじゃないけど、OPENRECからやってき配信者の中にはCygamesのタイトル(Shadowverseとか)で人気者になった人が多かったから、このインフォメーションはかなりきつい。なにせ、そういった配信者はCygames関連会社のCyberZの運営するOPENRECで優遇的な扱いを受けていて、そこから知名度が向上したところもあるわけで、自分の得意武器をいきなり取り上げられたわけだから“配信の盛り上げよう”が無くなってしまう。

 

なんで“配信の盛り上げようが無くなってしまう”のかというと、ゲーム実況者は実況プレイとして取り扱っている“ゲームのファン”が付いて行っているところが多く、その実況者がプレイタイトルを変えると途端に人が来なくなることが当たり前に起きる(もちろん「その人が好きで実況配信を観ている」という人も一定数いる)。

なんでゲームに寄って人離れが起きるのかと言うと、その人を知ったキッカケが自分(視聴者)の知っているゲームであったのに、急に違うゲームをプレイされると「そもそもそのゲームって何さ?」「いやルールもプレイ方法も分からないし」「ゲームに興味ないから観ていてもつまらない」という辛辣な感想を抱いて、その配信者から離れちゃうというわけ

要はTVのバラエティ番組で言うところの「視聴者はルールが分からないまま芸能人が何かゲームをやっている状態」と考えれば理解が進むんじゃないでしょうか。

結局のところこういった視聴者側からすると配信者はゲームのキャラクターみたいなもので、個人として認識できていないということなんだけど、これが「ゲーム実況者」でゲーム実況者はそのゲームが廃れると同じ様に消え去ってしまう可能性が高い。この辺はプロゲーマーと同じかもしれない。

 

こうした背景もあってCygamesはOPENRECにゲーム実況を戻すキッカケ作りもかねてMildomに牽制したわけだけど、この構図ってわかりやすく例えるなら「子供の喧嘩に親が出る」ようなもの(寧ろ兄貴か?)。当事者じゃ無い側からすると観ているだけで中々面白い。

「まぁOPENRECが育ててきた配信者をMildomが札束で殴って引き抜いたわけだからしょうがないんじゃないの?」って考える人もいるかもしれない。確かに見方によってはそうだとしかいえない。だけどこの配信サイトの業界で生き残って行くためには、圧倒的な資金力で配信者を買い上げて、その配信者が抱えている視聴者を配信サイトに引き込んでアクセス数を増やして広告を取ってくるというのが定石だから、やり方がいくら汚くてもそこは大人の世界として理解するしか無い。

 

 

ここまでの話は「OPENREC対Mildom」という配信サイトの戦いで、先に人材を引き抜かれたOPENRECが兄ちゃんに泣きついて、見えない力でMildomを牽制したという会社同士の戦いということで終わるのだけど、これって実は被害者がゲーム実況配信者だって話に中々行かない。

 

ゲーム実況配信者は毎日数時間ゲームを実況プレイしてお金を稼いでいる人たちなんだけど、さっきも書いたようにCygamesが自社タイトルを制限したことによってその生活の手段を奪ってしまった。

Mildomとお金のやり取りを経て移籍した配信者からすると、さっきもした通り知名度を得たゲーム以外で配信を盛り上げようかとするのは至難の業。今からOPENRECに戻ろうにも年間契約なんぞしていたら戻ろうにも戻れない。契約内容によってはCygamesのゲーム配信をするためにOPENRECで活動できるかもしれないけど、Mildomの方で一月の配信時間を契約で決めているだろうから仮に課外活動をしようにも体力をごっそり削られるでしょう。

この大人の喧嘩に巻き込まれたゲーム実況配信者に同情するところは色々あるけど、結局の所、お金で動いてしまった以上この現実に直視して対策を練って頑張っていくしか無いという事実は変わらないし、そこは巻き込み事故ではあるものの移籍を決断した自分に多少の責任があると思って頑張ってほしい。

 

一方で全面的にOPENRECが一方的な被害者かと言うとそうとうも言いづらい。

お金で配信者が消えたということは、このOPENRECも自社の配信サイトを盛り上げてくれた配信者に対して“それなりの”待遇しかしていなかったという疑惑がでる。どれだけの配分でお金を渡していたかはわからないけど、お金の話抜きで配信者の引き抜きが起きるのって考えられない。

 

OPENRECの運営元のCyberZは現在、エイベックスやテレビ朝日と協業してRAGEというeスポーツイベントを行っている。また、CyberZはRAGEとOPENRECの他に何をやっているのかというと、この会社はネットの広告代理店をやっていて、ここからRAGEやOPENRECの運営をやっているというわけだ。

ここまでの前提知識を押さえておくと、巨額のマネーを有しているであろうCyberZがなぜ簡単に引き抜きにあってしまったのかという疑問にある程度の答えが見えてくる。

「配信者に払うお金をケチってきたんじゃないの?」こう考えるのは自然な流れで、ここに注目すると現在進行形で疑問に思うお金の使い方が出てくる。それは「手越祐也さんを起用したレギュラー番組」の存在。

 

諸事情により色々隠します。(https://www.openrec.tv/user/tegogame_channelより)

 

OPENRECは立ち上げ時から声優を起用したゲーム実況番組なんかと色々やってきていたわけだけど、配信者引き抜きの憂き目にあった後にサイトの低迷化が進み、一つの解決策としてジャニーズ事務所の手越祐也さんをアンバサダーとして起用し、定期的に特番を制作している。

ジャニーズタレントの影響がどれほどのものかは、ネット民でもある程度は知っているかと思うので割愛するけど、この手越効果は目に見えて効果が出てきた。初回の放送は34万、その次が22万、12万と視聴数は減っているものの10万以上はキープしている。手越さんの番組にはOPENRECに残留して配信している配信者も登場していて、ただの有名人ピン番組にならずサイト全体を盛り上げようと頑張っている。

1回の放送で10万人以上が観ているというのは普通のゲーム実況番組として考えるとかなり優秀だと思う。ところが、手越祐也さんを起用したそのギャランティに対して見合っているかと言うとかなり厳しいんでねぇの?と思ってしまう。そのギャンティ分他の配信者に分配したほうが、配信者も生活が成り立つし、配信するモチベーションも上がるし、今以上に積極的になるのではないかと思うのがいかがだろう?

 

あと手越祐也さんを起用したからと行って、OPENRECというサイトの固定客が増えるとは考えにくい。というのも、これはゲーム実況配信者の逆パターンで、手越祐也さんについているファン層というものは彼自身のファンであって、彼の一挙一動に魅力があるわけでどんなことをやらせても(流石にNGはあるだろうが)彼のファンは基本的に喜び、それを見るためにOPENRECという辺境の村まで足を運ぶ労力を厭わない。

で、その次の問題が辺境の村OPENRECに定住し続けるか。ということだが、そんな可能性は微塵も無いと思ったほうが良い。広島県でライブが行われたから広島県に住むかというのと同じ話。

仮にゲストとして出演した配信者に魅力があってもその番組に来ている大多数は「手越祐也のファン」であって、その他に付いている出演者(ゲーム実況配信者)は「メインディッシュの添え物、前菜」程度にしか見えていない可能性が大いにあり、そのゲストのファンになる。または固定のリスナーになることは考えにくい。断言しても良いくらいじゃなかろうか?

 

一応OPENRECの名誉のために行っておくと、ゲーム実況配信者をメインに据えた番組も制作していて、こちらも一定の盛り上がりを見せている。ただ、これらの番組は本質としてゲスト出演者も含めて「ゲーム実況配信者」を起用しているため、それぞれの出演者のファンがゲーム実況者という性質を理解しており、互いのファンが互いに出演者の個人放送に足を運ぶ効果がかなり見込める。

手越祐也さんはあくまでテレビという箱の中で活躍し、歌ってダンスを踊ることメインにしていて、そこにファンが付いている。そういったファンが「ゲーム実況配信者」を観ても魅力に思って「じゃあ今日からOPENRECで毎日この人のこと見てみよう」という気になるかと言われるとかなりハードルが高いかと思いますよ。

 

あと手越さんの番組でどんなゲームやってんだろうなぁと思って調べてみたらびっくりしたよ!

 

第1回 荒野行動 (NetEase Games)

第2回 スプラトゥーン (任天堂)

第3回 スーパーマリオワールド スーパードンキーコング (任天堂)

第4回 カップヘッド (StudioMDHR)

第5回 Apex Legends (EA)

第6回 ジャストダンス2020 (UBI SOFT)

 

兄弟(Cygames)のゲーム入っとらんのかーーーーい!

 

そういったちぐはぐな効果に期待するくらいならMildom以上にお金を出して配信者を引き止めて、配信者の口コミで「OPENRECって良いよね」という風潮を作るか、それが出来ない(お金が無い!)ならサイマル配信(同時放送)許可させるなりしたほうが良いんじゃないでしょうか?というお話でした(というかRAGEはYouTubeでも配信しているんだから個人配信者もやらせれば良いのでは?)。

あと、下手にMildomにゲーム配信に置いてのタイトル使用に圧力をかけたわけですから、逆襲されても文句を言えない立場なのは辛いと思うので、早めに撤回したほうが良いんじゃないでしょうかね?

 

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