【連載コラム】鶴岡亮のデンジャーゾーン! 第十一回 富野由悠季監督の魅力が凝縮!兵庫県立美術館「富野由悠季の世界」レポート

【文・鶴岡亮】

鶴岡亮Twitter:https://twitter.com/ryoutsuruoka

現在、兵庫県立美術館(神戸市中央区)では「富野由悠季の世界」展が開催されている。内容はガンダム等の作品で有名なアニメーション監督・「富野由悠季」が関わってきた歴代作品に関する資料を3000点以上集めた展覧会だ。本展覧会は福岡市美術館、兵庫県立美術館、鳥取県立石見美術館、青森県立美術館(予定)、富山県立美術館(予定)、静岡県立美術館(予定)を巡回する展示イベントで、福岡が9月1日に終了し、今回の会場の兵庫県立美術館では12月22日まで開催を予定している。今回はその展覧会の様相をレポートしていきたい。

(会場となる兵庫県立美術館)

会場となるモダンな建物が印象的な兵庫県立美術館。こちらでは「富野由悠季の世界」以外にも、ポーランド出身の作曲家ショパンをテーマにした展覧会「ショパン–200年の肖像」が11月24日まで開催中。コレクション展Ⅱ 特集1 「けんび八景─新収蔵作品紹介─」 特集2 「没後80年 村上華岳」 小企画 「美術の中のかたち─手で見る造形 八田豊展─流れに触れる」は11月10日迄開催中。

(入口前の展覧会のスタンドポップ)

美術館に入ると富野監督満面の笑みが出迎えてくれる。富野監督ファンとしては、監督自身の顔写真をメインに据えてくれている所に感心させられた。正に富野由悠季の世界にふさわしいビジュアルと云える。

展覧会前には長い階段が存在し、そこではプロジェクターを使った歴代富野作品のダイジェスト映像が「伝説巨神イデオン 発動篇」のテーマソング「海に陽に」と共に映し出されていた。この演出は八嶋有司氏による、映像インスタレーション「この世界と風景の─Dive」で、パープルを基調としたライトに照らされたプロジェクター映像と、BGMの曲調が相まって幻想的な雰囲気を生み出している。アニメ映像の向こう側に「富野由悠季の世界」展が待っているという構成も素晴らしく、兵庫県立美術館の建物の構造をうまく使った演出と云える。
※(このエリアは撮影禁止です。撮影許可を得て撮影しています。)

(階段を上ると展示会の入口前の案内板に)

入口前では音声ガイドもレンタルできる。価格は600円でナビゲートを担当するのは富野監督作品の「ガンダム 『Gのレコンギスタ』」のアイーダ・スルガン役「嶋村 侑」氏とベルリ・ゼナム役の「石井 マーク」氏。

展覧会場に入ると富野監督の本展に対しての見解が書かれた文章と、アニメーションが出来るまでの基礎を、実際に制作時に使われた資料を通して解説した展示品が姿を現す。富野監督の「概念の展示」は不可能なのだが…という文頭からいつもの監督らしい照れ隠しに満ちたコメントが楽しめる。

富野監督が宇宙への憧れを抱くようになった動機に関する展示コーナー。富野監督の父親は旧日本軍の航空機パイロットが使用する与圧服の開発に携わっていて、それが富野監督の後の創作活動に多大なる影響を与えた。ガンダムにおける技術屋の父を持つ主人公像や、監督の宇宙を舞台にした世界観を描く動機はここから始まったのだ。その他にも富野氏が学生時代に書いた小松崎茂の宇宙船コクピットの模写イラストや、「月世界旅行」の研究発表文なども展示されていて、序盤ながら既に見ごたえのある展示になっている。

富野監督の父親が開発に携わっていた与圧服を再現した青秀祐氏の与圧服─撮影の研究記録による─Ⅰ.造形の考察と立体表現

富野氏の幼少から虫プロ時代の創作物が展示されているコーナー。その数は膨大で、幼少期に書いた軍艦、戦闘機、ロケット等のイラスト、学生時代に書いた詩集、研究課題、漫画、学生運動「私学連」の勧誘ポスター、フォトコラージュ作品「鳥鴉(からす)」、自主制作映画「二つの場所」等のこれまで世に出ることのなかった創作物の数々が列挙されている。虫プロ時代の下積み時代の記録も満載で、制作当時に実際に使われた絵コンテや脚本などが展示されていて「コンテ千本切り」の異名をとった富野監督の仕事氏振りを堪能できる。特に富野監督が初めて総監督を務めた「海のトリトン」の絵コンテに記載されている修正指示は、監督の本作に対しての意気込みが垣間見えて必見だ。

「ライディーン」、「ザンボット3」、「ダイターン3」、「ガンダム」等の富野作品の肝となる巨大ロボット作品の展示物も膨大で、企画書、コンセプトアート、設定画、脚本、絵コンテ、当時品の玩具等が展示されている。展示物の中には制作段階であるが故に、本放送とは違ったタイトルやキャラクターの名称が掲載されているモノもあり、アニメを見るだけでは視聴者に伝わらない情報の宝庫になっている。中には「ザンボット3」の映画化構想を記した執筆メモ、ガンダム企画段階の「ガンボーイ」の企画メモ、イデオン企画段階の「スペース・ランナウェイ ガンドロワ」の企画メモ等、ここでしかお目にかかれない貴重な展示物に溢れている。

アニメ本編で使われたセル画や版権イラストも展示されている。

<ロボットアニメの画稿>
ロボットアニメのメカデザイン関係の展示も膨大な展示量が存在し、富野監督自身が手がけたラフデザインや、デザイナーの書いたラフ画への修正指示文が書かれた画稿が展示されている。特に「ガンダムMK‐Ⅱ」、「アーガマ」、「ガンダムF91」、「トムリアット」の設定ラフに対する富野監督の修正指示は、微細でありながら的を射た指示や、監督らしい本音をぶつけた文面が記されていて、監督のデザインに対する実直な姿勢を伺うことが出来る。

<プロジェクターで楽しむ富野作品>
作品毎にプロジェクターが設置されており、映像を通して富野作品を楽しむ事が出来る。膨大な資料を見た後に映像を見ると、アニメーションは映像化に至るまでに多くの人と展示されている資料が関わった上で成り立っているものだと実感させられる。

(Gのレコンギスタに登場するクラウンの立体物)

<幅広い客層>
会場には学生から60代位迄幅広い客層が来客していた。展示品を観たコメントも世代毎に変化が見られ、学生で恐らく富野作品にそれ程詳しくない人も「これ見たことないけど、こんなに沢山の資料で作られてるなんて驚いた」と言っていたり、古くからのファンと思われる人は展示品について懐かしい思いを発しながらも「これってアニメになる前はこんなのだったのか」と話していた。両者に共通するのは今まで知らなかったことに触れる喜びを得られている所で、富野由悠季監督の手掛けた作品の情報量の膨大さを本展覧会を通して実感させられた。かく云う筆者も本やネットで得た富野監督の知識は、この展覧会で展示されている知識量と比べると1ミリも達していないのではないか?と疑問にかられた次第である。

出口を抜けると物販コーナーが表れ、各種富野由悠季の世界展の関連グッズが販売されていた。売り場は盛況で客足が途絶えることなく、各々が記念品アイテムを購入していた。

キネマ旬報社「富野由悠季の世界」公式図録(4000円+税)

「富野由悠季の世界」アクリルスタンド(1650円+税)

MG 1/100 ガンダムF91 Ver.2.0 ORIGINAL PLAN Ver.(4500円+税)

展覧会を抜けるとダイターン3がお見送りしてくれる。兵庫県立美術館の奥行きのあるモダンな建物と、カラフルなダイターン3の組み合わせは異色でありながらも、独特なシックな味わいを醸し出している。展覧会の別れと共にダイターン3と写真も撮るのも乙なものかもしれない。

 

 

<展覧会を見終えて>
膨大な展示数、今まで知り得ることのなかった情報、富野監督の作家としての感性に触れられる本展覧会は、監督ファンなら行かなければ後悔することこの上無いイベントとなっている。歴代監督作の資料は勿論、個人的に感心したのは、監督の個人蔵故にこれまで世に出ることのなかった幼少期から学生時代の貴重な資料に出会えたところだ。おそらく、今後このような資料を生で見ることはないので、非常に有意義な一時を味わえた。アドバイスとして、この展覧会は3000点以上もの膨大な展示物が網羅されている為、一回こっきりで全展示物を鑑賞することは事実上不可能に近い。その為、時間に余裕を持たせて、副数回に分けて来場されることをオススメする。レポートでお伝えした部分も本展覧会の極一部に過ぎないので、是非とも本会場へと足を運んで富野由悠季の世界を堪能して欲しい。

コレクション展Ⅱ「美術の中のかたち―手でみる造形 八田豊展―流れに触れる」「けんび八景」と近代日本画を代表する画家「村上華岳」の展覧会は11月10日迄開催中

ポーランド出身の作曲家ショパンをテーマにした展示会「ショパン–200年の肖像」の展覧会は11月24日迄開催中
(兵庫県立美術館公式サイト)https://www.artm.pref.hyogo.jp/
(富野由悠季の世界公式サイト)https://www.tomino-exhibition.com/

<兵庫県立美術館の方々へ>
取材に協力していただいて誠にありがとうございました。

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