ポンコツ野郎の人生にフリーダムファイト! by ジャンクハンター吉田 第2回 戦争を描いた大虐殺人形劇映画『猫は生きている』を42年ぶりに観た。

ご自身も東京大空襲経験者な早乙女勝元が原作の絵本「猫は生きている」をなんと1975年に人形劇で映画化。ミニチュア等のセットは『眠狂四郎』『子連れ狼』シリーズの下石坂成典。切ないメロディーを奏でる劇伴は『それいけ!アンパンマン』で馴染み深い、いずみたくが担当。監督は大映の京都撮影所で社員助監督を務めていた島田開。島田氏は『ガメラ2 レギオン襲来』の企画を担当した以来ここ最近どんな活動しているかあまり聞かないが……。人形操演は歴史ある人形劇団の京芸。主役の昌男少年の声を演じたのが初代「ジャングル大帝」のレオ、「リボンの騎士」のサファイア、初代「ひみつのアッコちゃん」のアッコちゃん役なイメージの強い太田淑子。

米国と日本が戦争真っ只中な昭和20年3月が舞台。既に町では戦争へ駆り出される男性、食べ物がないので国から配給された食料で人々へ雑炊を提供している食堂、いつ米兵が襲って来ても戦えるようにと残された女性たちは竹槍で相手を突き刺す訓練をしている。母、妹2人の4人暮らし(父親はおそらく徴兵されていた様子)だった昌男の自宅軒下へ勝手に住み着いていたノラ猫の稲妻が沢山の子猫を産む。

このノラ猫の稲妻の目を通し物語が進んでいくのだが、話も25分に差し掛かる頃、74分の本編尺ではあるがいきなり急展開。米軍の爆撃機から焼夷弾が町へ次々にバラ巻かれて平穏だった町は瞬く間に阿鼻叫喚の地獄絵図へと様変わりしてしまう……。稲妻は自分が産んだ4匹の子猫をどうにかして生き残らせるため救い出すのに必死。

一方、少年の昌男は妹の光代と赤ん坊のチイ子を背負う母親と共に逃げるのに必死。だが優しい昌男は稲妻たちも救わねばと思うのだが、無念にも余裕がなくなり、ノラ猫ならではな生きるためにたくましく強い生命力に託すしかない。逃げる際、爆撃機から降り注ぐ焼夷弾が妹の光代へ直撃して即死。チイ子を背負っていた母親は目の前で娘が死んでしまったことで気が狂ってしまい、チイ子だけは助けたいと気絶した昌男を放置して(死んだと思っていたのかな?)助けを求めにフラフラと移動。

稲妻に発見された昌男は子猫たちを両手に抱え川辺のほうへ逃げるも焼夷弾で煮えたぎる川の中には入れず、大木が流れるが如く死体が散乱した川を簡易的なイカダに乗って空爆から逃げようと試みる。が、稲妻と子猫3匹を自分の命と引き換えにして昌男は力尽きて熱く煮えたぎる川の中へ落ちて死んでしまう。

母親はチイ子だけの命をなんとか救うべく、大急ぎで土を掘って小さな穴を作り、チイ子へ一緒にくっ付いてきた稲妻の子猫1匹と共に穴へ入れて自分自身はその穴へ覆い被さり、燃えさかる炎に包まれ焼死。家族は命懸けでも救う、子どもには未来がある……つまり母親は自己犠牲をしてでも我が子を守らなければならない深いメッセージが全体に包まれている凄まじい人形劇なんです。

早い段階から本作のハイライトである大空襲で町が焼け野原になり、人々が死んでいく描写を惨いぐらい繰り広げていく描写は驚かされるはず。戦争の残酷さを伝えるため、人形だけども人の命の尊さを真剣に考え、覚悟して観るようにしないと子ども心には確実にトラウマ的記憶へ刻まれる。人形操演の素晴らしさは歴史ある京芸が担当しているので今更説明することはないが、ミニチュア特撮レベルが大変高い。ジェリー・アンダーソンが本作の存在を知ったら撮影現場を確実に見学したいと言ってもおかしくない完成度。怪獣が襲って来る円谷プロとはこれまた違った温かみある雰囲気な日本の昭和20年代の家屋を築いたクオリティーに感動すら覚える。

有名な絵本の原作なので小学校の頃に図書室で読んだ記憶と今年49歳にして42年ぶりに映画版を観た記憶とすり合わせると、もしかしたら記憶違いがある気がするのだが、絵本では昌男家の赤ん坊の妹チイ子も確か亡くなったと思った。が、映画版を改めて観て、最後の希望とばかりに生存していた(エンディング直前で赤ちゃんの泣き声がする)のに驚くと同時に、原作は東京大空襲を描いていた(はず)が、そのエンディングでカメラが焼け野原の町を上空から捉えるとなぜかボロボロになった広島の原爆ドームが見える。島田監督ならではな原爆に対するアンチテーゼなメッセージ最後に含ませようとしたふうにも感じたが、映画版では確かに東京を舞台にしているとはどこにも表現されていなかったから、映画版ならではなアレンジで受け止めるべきだろう。

主人公までも死ぬ(死に方がなんとなく『ターミネーター2』のシュワルツェネッガーっぽい雰囲気)というか登場人物ほぼ皆殺しされてしまう救いようのない悲しく切ないドラマだが、戦争は何も罪のない人たちを数多く苦しめてきたわけで、日本も決して自衛隊を戦争へ送り込ませてはダメだと痛感。悲しむ人たちがいるってことをもっと考えて憲法改正するべきではないでしょうか。

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