映画レビュー アメリカ軍に実在した超能力部隊!?『ヤギと男と男と壁と』



アメリカ軍に実在した超能力部隊。彼らは超能力を使って、人の心を読む事が出来、壁をすり抜け、見つめるだけでヤギの息の根を止める事が出来た。


そんなアメリカ軍の実態に迫った”危険な”部隊について暴くノンフィクション本「実録・アメリカ超能力部隊(ジョン・ロンスン著)」を映画化したのが俳優としても活躍するグラント・へスロヴが監督した『ヤギと男と男と壁と』だ。



物語は2003年に、ユアン・マクレガー扮するジャーナリストの主人公ボブ・ウィルトンが妻に逃げられた事に失望し、半ばヤケクソで戦争ジャーナリストとしてクウェートに向かうところから始まる。以前取材で知り合ったガス・レイシー(スティーヴン・ルート)に名前だけ聞いた、”新地球軍”にいたリン・キャシディ(ジョージ・クルーニー)という男に偶然出会い、興味を引かれたボブはリンと行動を共にする事に。取材先でとんでもない情報を入手してしまったボブ、果たして彼は砂漠の地で重要な事実を掴む事が出来るのだろうか。


”新地球軍”は70年代にニューエイジ・ムーブメントに影響を受けたビル・ジャンゴ(ジェフ・ブリッジス)によって組織されている。彼はベトナム戦争での体験がきっかけで、武器を使わず、人を殺す必要のない戦術を実践しようとしたのだ。三つ編みの長髪で、まさにヒッピーにしか見えないビルの基になったのは元アメリカ陸軍中佐ジム・チャノンのいう人。瞑想やヨガを訓練に取り込み、映画にも登場するちょっとしたスピリチュアル本の様な”新地球軍”のマニュアルを作ったのが実在の人物というのは俄に信じ堅い。


リン・キャシディとラリー・ホッパー(ケヴィン・スペイシー)はビルが”新地球軍”に入隊させた有能な兵士。ところが2人は思想の違いから相反する。リンはビルの教えに忠実に、部隊の良い面を伸ばそうとし、逆にラリーは超能力のダークな部分に興味を持つ。同じスピリチュアルでも人を癒そうとする人と、人に害を与える事に執着する人がいる様に、授かった能力の使い方次第で、『スターウォーズ』の様にジェダイになるかシスになるか決まるのだ。


ジョージ・クルーニーは『マイレージ・マイライフ』でアカデミー主演男優賞にノミネートされ、ジェフ・ブリッジスは『クレイジー・ハート』で見事アカデミー主演男優賞を受賞した。『ヤギと男と男と壁と』は米国での興行成績こそ、そこそこの結果だったが、輝かしい話題の影に隠され、またたとえアメリカ軍についての狂気を暴いたとしても、その事実のほとんどは伝えられないという事を改めて知らしめるかのように闇に葬り去られた印象を受ける作品。


しかし、クルーニー、ブリッジス、マクレガー、スペイシーという演技派スターがありえない共演を果たした本作は、次々と奇想天外なエピソードが展開していくユーモアに溢れた満足度大の94分間を提供してくれる。皮肉的でダークで馬鹿馬鹿しい物語の中で、4大スターの素晴らしい化学反応を目撃するのはまたとない贅沢だ。
                                                レビュアー:岡本太陽
『ヤギと男と男と壁と』
シネセゾン渋谷 シネ・リーブル池袋ほか 全国順次ロードショー!!
監督: グラント・ヘスロフ
製作: ジョージ・クルーニー
原作:ジョン・ロンスン
脚本:ピーター・ストラーン
撮影:ロバート・エルスウィット
製作国:2009年アメリカ・イギリス合作映画
上映時間:94
PG12
配給:日活
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