映画『天才バカヴォン ~蘇るフランダースの犬~』FROGMAN監督インタビュー(後編)

天才バカヴォン ~蘇るフランダースの犬~



絶賛上映中な『天才バカヴォン ~蘇るフランダースの犬~』。既に公開中とのことで、FROGMAN監督から遠慮無用にネタバレ上等な前後編に渡るロングインタビューを敢行。前回に続き、後編では西から太陽を昇らせた深い理由などの舞台裏秘話を語っていただいた!

(インタビュアー:ジャンクハンター吉田)

■前回の記事はこちら

●太陽を西から昇らせることこそが『天才バカボン』イズム!

FROGMAN(以下、FM) 『天才バカヴォン』なんですが、皆さんイロモノっていうかネタだと思っていたせいでスゴく話題にはなったんですけど、果たして劇場へ足運んで観るべきなのかどうかって躊躇されてる方が多いみたいなんですよ。

―― まさにそうですな。観るまでわからないし、出落ち感が漂い過ってますからね。

FM TBSで放送されている『王様のブランチ』にレギュラー出演しているLiLiCoさんが絶賛してくれて、僕と一緒にラジオをやっている鈴木あきえちゃんにオフの時「番組だから言ったんじゃなくて本当に『天才バカヴォン』スゴくいいのよ! FROGMANに天才だって言っといて!」って言われたらしいんですよ(笑)。

―― LiLicoさんにそこまで褒められると、やっぱ照れくさいですよね(笑)。

FM 自分で言うのもなんなんですが、結構いろんなところで「意外に良かったよ」とか感想をいただきます。まぁ……”意外”にっていうのはシャクなんですけどね(苦笑)。

―― ひとこと余計なわけね(爆笑)。

FM 劇場公開始まってからは「意外に良かった」「意外に面白かった」「意外に感動した」というのが、ツイッター他SNS上で広がっていて、手前味噌ながら評判良いには良いんですよね。そのクチコミが広まってくれているから、もうちょっと伸ばしたいなって。

―― インターネット上でも「意外」と言われちゃうのかぁ。つまり、想像していた内容とは違った面白さだったってことかしら?

FM 恐らくそうだと思いますよ。僕としては褒め言葉に受けてます(笑)。

―― 劇中で最初に目ん玉繋がりのおまわりさんが出てきた時にまったく発砲してなかったから倫理的に考えて銃は封印なのかなって思ったけど、2回目に出てきた時は容赦なくバンバン撃ってたから、あれって結構モラルな問題でギリギリなのかなって思ったんだけど。

FM そうですね。そこは意味もなく撃たないとダメでしょって思いつつ、何か言われたら批判も受けようって覚悟はありましたよ。ポスターにも「観ないやつは死刑なのだ」って書いちゃってるし。

―― そのキャッチコピーも攻めの姿勢だなぁとビックリした!

FM 一番最初のテレビシリーズの来週の予告の一番最後にバカボンのパパがいつも「観ないやつは死刑なのだ」って言ってたんですよ。『元祖天才バカボン』になると「観ないやつは逮捕するのだ」に変わってて、『平成天才バカボン』になると『来週も楽しく観るのだ』と、段々と言葉の表現が柔らかくなっていくんですね。それがなんだか日本のテレビ業界のいわゆる規制の流れみたいな感じに思えてきて……。やっぱり『天才バカボン』はギャグマンガでありギャグアニメだから、こういう作品に関しては批判上等な感じでやらなきゃダメだなって覚悟を決めたんですよ。

―― おおー、パンクな精神!

FM なので今回のポスターにもオリジナル版のキャッチコピーを使ってみたんですけど、意外や意外、批判はひとつもなかったですね。ツイッターとかでも「こんな表現するなんて許せない」とかいう人が出てくるかなって思っていたんですが大丈夫でした(笑)。ぶっちゃけ批判を受け止めるべく、そういう炎上狙い的な期待も少しはあったんですけどね。それこそ炎上ぐらいさせたほうが赤塚イズムだなって思ってましたし。僕からスタッフにこれで行こうと決めたことから、逆に僕たち製作側のほうがビクビクしてたけど、まったく批判も非難も燃え上がることはなかったです。

―― 本編最後にパパの狙いどおり、西から太陽が昇った理由は?

FM バカだからですよ。バカのパワーは全てを超越するからですよ。あんなに恐々としていたソ連が崩壊して世界が一気にガラッと変わったり、ある日、突如ベルリンの壁が崩壊してドイツが統合したりとかね。だから太陽が西から昇ることだって絶対ありえないことなのかっていったら、そんなことないんですよ。僕らが思ってる常識こそ本当はバカなんじゃないかなって。実際、地軸って過去何億年のなかで何回も何回も変わっているというじゃないですか。大陸だってアルフレート・ヴェーゲナーが大陸移動説を唱えるまで地面が動くなんてありえないって言われてたけど動くじゃないですか。僕らが考えてる常識ってものこそ本当はバカが作り出したものである……と思うんですよね(笑)。

―― なんだろ、この説得力(笑)。

FM 西から太陽が昇ることを当たり前に思っちゃダメなんですよ。そんなことないんです。地軸なんていくらでも動くし。そんなことをパパはひっくるめて分かっていて、世間からみたらバカなことばかりしているようにみられちゃうけども、でもそれでもいいじゃないっていうふうに受け入れないといけないんじゃないかなってことを、メッセージ的に一応入れたかったつもりでいたんですけどねぇ。

―― 確かにあのクライマックスは説明もなんもないから、初期『天才バカボン』の主題歌を知らないと意味がわからない!

FM まぁ、分からない人は分からないと思いますが、そんな難しく考えないで単純にバカバカしくて面白いとか。こんなのありえねえよって突っ込んでもらって観てもらうのもありだしって思いは強いです。ありえないことが起きる世界だから西から太陽が昇ってもいいんじゃないの? あそこでどうして西から太陽が昇ったんだろう? って言う人はバカなんですよ(笑)。何も考えなくていいんです!

―― だってあれは原作ファン、初期『天才バカボン』好きな人たちのためのアプローチかなって思ったけどね。

FM そこなんですよ。西から太陽が昇るっていうのは赤塚イズムのいわゆる代表的な部分じゃないですか。原作ファンに向けて、初期の『天才バカボン』のアニメを観ていた人にメッセージはしっかり届けたいなって強く思ってましたし。「FROGMANの作品だから赤塚テイストがない!」ってのだけは絶対思われたくなかった。なもんで作品に向き合ってるメッセージは原作を知って観る人がどれぐらいいるか分からないですが、キチンと届けたかったんです。

●もっと弾けられた作品だったが原点に帰るべく、キャラの特性をFROGMAN流にチューニング

―― 独特の赤塚漫画走りが再現されているのを観た瞬間から伝わってきていた!

FM パパの名前が分からないってのも永遠のテーマじゃないですか。赤塚作品に真正面から向き合ってることをファンの方々に分かってもらいたかった。見た目の出落ち感はありますけど、中途半端な気持ちで作ってないことだけは間違いないです! ただ今回原作ものを取り扱ったことでデリケートになり過ぎた部分もあります。本来ならもっと狂っていてもよかった息子のバカボンなんですが、優しくいい子にしなきゃ設定的にうまくいかなかった……うーん、いい子に作りすぎたかな。

―― バカボンが弾けてない部分は多々あったけど、それは『フランダースの犬』と絡まなきゃいけなかったからでしょ?

FM 確かにそうなんです……けどね、『フランダースの犬』との接点役って誰かマトモな人間じゃなきゃダメなんですよ。で、今回はバカボンの役目にしないとバランスが取れない。彼がネロに対する友情や愛情っていうものをちゃんと分かりやすくしておかないといけないなってのが頭にあって仕方がない部分でした。。

―― そりゃ2つの作品を絡ませる調和を取るために必要不可欠!

FM バカボンは触媒なんですよね。バカボンファミリーとネロ&パトラッシュとの間をつなぐ触媒にならなきゃいけないということで良い子にしたんです。フジオ・プロの社長、赤塚りえ子さんは「バカボンを今回スゴく可愛いく描いてくれてありがとう!」と大変気に入ってくれて、「不二夫も生きてた時は最初の頃のバカボンはおとなしかったのに徐々に弾けてきちゃって、わけの分かんない子になってきちゃたと言ってたんで、本来のバカボンはこういう感じで可愛くなくてはいけなかったのね」とおっしゃってくれてちょっと気持ちに弾みが付きました。僕がやったことは間違ってなかったんだなと(笑)。

―― おー! いい話ですなぁ。個人的にはバカボンが良い子になってるのは原作を知っているから全然問題なかったけども……物足りなかったのがパパの鼻毛の揺らしが無かったことぐらいかな。フラッシュアニメで表現するのは難しい面倒なのは分かるけどこれは頑張って欲しかったなぁ。

FM そうなんですよ……でも時間的制約とかもあり難しかったですね。あと腹巻に手を突っ込んでいるパパのポーズも再現したかったなぁ。これは後になって描くの忘れたって気がついたんですが、正直なところもっと赤塚イズムは出したかったですね。時間との戦いに負けました。

―― 『フランダースの犬』と並べちゃうと、一方だけアクが強いってなると、どうしてもネロとパトラッシュが薄まっちゃうからね。これってものスゴく難しいんだろうと。

FM ネロも原作から相当キャラクターを変えているんですよね。『フランダースの犬』の原作みれば分かると思いますが、ネロはもっと天真爛漫な子どもっぽいんですよ。実際は瀧本美織ちゃんみたく声も低くないし、おとなしい子でもないんですよ。今回は闇を抱えていながら純真っていうか、自分に対する恨みをピュアに貫く、でも本気で人を嫌って悪いような役を演じてもらわなきゃいけなかったから、敢えてキラッキラしてるような声優さんではなく美織ちゃんにお願いしたんです。

―― 『風立ちぬ』ですね。

FM そうそう。『風立ちぬ』のヒロイン役やってたじゃないですか。美織ちゃんて大変透明感があるんですよ。尚且つお芝居もうまい。彼女の芝居上手な部分と透明感が程良く交わり、あまり媚びてないところも気に入ったわけですね。だから最初から瀧本美織ちゃんの起用しか考えてなかった。彼女に断られたらゼロから考えようって思ってたほど。彼女は鳥取県出身だし、島根からの山陰繋がりで、以前から瀧本さんと仕事がしてみたいって思ってたからね。

―― 山陰繋がりとは……なんて強引な(笑)。スグに瀧本さんからはOKはもらえたの?

FM スグもらえました。ただ劇場用アニメが国民的大ヒットした『風立ちぬ』の次が『天才バカヴォン』なんで、ちょっとどうかなって心配はあったんですけど、意外にも速攻で返事もらえたんです。そういう意味では今回初挑戦した部分とか色々ありましたが、すべては『天才バカヴォン』に救われたなって思ってます。

フロッグマン.jpg
監督・脚本・バカボンのパパ役:FROGMAN
映像作家。「秘密結社 鷹の爪」シリーズ作者。ひとつの作品の監督・脚本・キャラクターデザイン・編集・声の出演を一人でこなす独自のスタイルでトップクリエイターとしての地位を確立した。また、有名作品をコメディアニメにリメイクすることも多く、過去に「週刊シマコー」や「ルパンしゃんしぇい」、「攻殻機動隊ARISE」、「ベルサイユのばら」などを手掛けている。現在はテレビ、WEB、ラジオにて「秘密結社 鷹の爪」シリーズの新作を毎週放送・公開している。

『天才バカヴォン~蘇るフランダースの犬~』
5月23日(土)、新宿バルト9ほか全国ロードショー!
配給:東映 (C)天才バカヴォン製作委員会
公式HP:http://bakavon.com

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