映画『はじまりのみち』公開記念 原恵一監督インタビュー

映画『はじまりのみち』公開記念 原恵一監督インタビュー

2013年6月1日公開の映画『はじまりのみち』。本作は、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』などで有名な原恵一監督による、初の実写映画作品。今回、エンタジャムでは、本作の公開を記念して、原恵一監督に本作についてお話を伺ってきました。
—木下恵介監督作品に出合ったのはいつでしょうか? 

20代の半ばくらいですね。でもね、観はじめたきっかけになった作品がわからないんですよ(笑) ほぼ全作品観ているんですけども。ここが面白かったんだよねという記憶が重ならないというか。なんでこんなにぼんやりしているんだろうと。でも、面白いと思ったことは間違いないです。そこから、もっと観たいとおもったんです。

—その時は、すでにアニメの仕事をしていた頃でしょうか?

していました。演出をするようになって間もない、ほんの2、3年目くらいでしたね。

—木下監督の映画を見続けたのは、木下監督作品のようなものをいつか作りたいと思ったからですか?

こういうものを作りたいって思えるような環境ではなかったですので、求められるものも違っていたし。でも、いつかはこういう作品を作りたいな~とは思っていたかもしれません。
—本作では、木下監督の作風を意識しましたか?

意識して真似るのは良くないじゃないですか。今回の『はじまりのみち』で、このシーンは木下作品のあのシーンとか、そういうのはあんまりやりたくないですよ。木下監督は、作品ごとに凄い試みをしていたり、想像を越える試みをするじゃないですか(笑) 
『二十四の瞳』は木下監督の素晴らしい作品のひとつであるんですけども、そこで止まってしまうともったいない監督だと、僕はそう思ったんですよね。
他にもこんなに凄いものを沢山作っていた監督だということを、ほんとうに凄いんだぜ!という純粋な気持ちでいままで発信していたわけですよ。

—初の実写作品ということで、オファーがきたときはいかがでしたか? 

ためらいが大きかったですよね。実写やらないんですか?とか言われたことはあるけど、具体的に実写作品の監督をやらないかという話は無かったですから。
今回も、最初は脚本でというお話だったんですよ。でも、脚本を書きながら、誰が監督をするんだろうと思った時に、自分でやらないと駄目じゃないのって思い始めたんです(笑)
決して自信があったわけじゃない、でも、よくも悪くも自分でやったほうがいいだろうということで監督をやることになりました。

—自分でやったほうがいいだろうという結論に達した理由は何でしょうか?

誰が(監督を)やっても、もしも自分がやったらと思ってしまうとおもうんですよね。そうしたら、物凄く口惜しかったんじゃないかなと思うんです。だからといって、よくぞ私の所にお話を持ってきてくれましたとは思わなかったです。どちらかといいうと困ったことになったぞと(笑) これは断れないぞと。
—今までの作品では、家族をテーマにしたものが多かったですが、それは原監督自身がそういった題材が好きだからでしょうか。

選んでやってきたのではないと思うんですが、自分の生涯を掛けて描くテーマが家族とも思っていないです。

—『クレヨンしんちゃん』劇場版の後、周囲から熱狂的な評価をされて、とまどいはありませでしたか? 

オトナ帝国は自分のなかでも転機になった作品だと思います。あれをきっかけに大人の人が「クレヨンしんちゃん」を意識してくれるようになったのが嬉しかったですよね。
僕はずっと子供向けアニメを作ってきて、どこか物足りなさを感じていたんです。もっと、大人に向けたものを作れないかな~とね。とはいっても、そういうものを作ろうと強く思っていたわけではないんですが、オトナ帝国の時は、そういったものを取っ払ってしまいたくなってしまったんですよね。そのほうが、クレヨンしんちゃんということより、一本の映画としていいものができるという予感があったので。そこに、木下作品の影響ももちろんあるとは思いますけど。(木下監督作品には)枠にはまらない凄さとか、なぜこんなことをするのか、なぜこんな試みをするのか、生ぬるくないじゃないですか木下監督の映画って。
—「生ぬるくない」というのはどういう意味でしょうか。

よくも悪くも過剰だと思ったんです。だから、それが逆にでちゃう作品もあるわけです。49本の作品のうち、全ては好きかというとそうではないし、でも結構好きだよという感じで作品を選ぶと20本くらいあるんですよ(笑) それってすごいことじゃないですか。物凄く評価された作品を作った後って、同じようなものを作り始めたりするじゃないですか。でも、『二十四の瞳』を撮った後に、そうなったかというと、決してそうならなかった。『二十四の瞳』の数年後に『楢山節考』ですから(笑) とんでもない人ですよ。そういうことを、知れば知るほど、自分の中で変な枠を作って作品を作るというのはダメだろうと思うようになりましたけど(笑)
—本作の題材はオファーの時点で決まっていたのでしょうか

決まってました。

—映画のラストに10分くらい木下監督の作品の名場面集が流れます。これは文化事業的な感じがしたのですが、これも製作サイドのオファーだったのでしょうか。

文化事業的な意味ではなくて、僕の純粋な木下監督作品を少しでも興味を持ってもらいためにあの長さになっています。ほんとうはもっと長くてもいいと思ってますけど(笑)

—名場面集は最初はどのくらいの長さでしたか?

まず、一本一本を5分くらいの長さにまとめる作業をしていきました。でも、このままではさすがに無理だろうと。どこまで縮められるかな、大変だし辛いし、好きなシーンをカットして行かなくてはならないし。最後は思考停止ですよね(笑) でも、ご覧になった方から、あのシーン長かったと言われることは少なくて、木下作品を観たいとおっしゃっていただくことが多いですね。
—本作で全編にわたって原監督の作った映像が観られると勝手に期待していたので、ラストに木下監督の作品の名場面集が流れて、すこし違和感を感じてしまいました。

あれは、僕にとっては必然で、なくてはならない時間なんです。ただ、すべてフィクションで終わらせていたらどうだったろうとは思いますけど。でも、やっぱりあの最後の作品集は不可欠なものだと思っています。すべて、木下監督のフィクションで一本の映画として作ったとして、それが面白かったとしても、実際の木下監督の作品を観て見ようとは、ちょっと思い難いんじゃないかと。
僕も、木下監督自身の人生に深く興味があったわけではないんです。でも、今回、木下監督の人生や人となりを調べいくと、だからこういう作品が作れたんだなと思ったんです(笑)
理由のない傑作はないんだろうなと。この人が作るべくして作った映画なんだなと。だからこそ挫折した監督が松竹に戻っていくというカットの後には、その後に作った作品が、バァーっと流れたらいいんじゃないかなとおもったんです。それは文化的な価値としてではなく、演出的にそう したいという気持ちが強かったんです。

—自分で撮りたい作品を作れる立場になった今、今後は、どのような作品を撮っていきたいですか?
 
『河童のクゥと夏休み』とか、『カラフル』とかもそうおもうんですけど、自分にとって相当ハードルが高いと思っていた作品を作れてきているので、他の監督より作りたいものは作れているんじゃないかなという気はしています。ただ、作りたいものが作れるということは、それはそれで結構、追いつめられるというか(笑) 逃げ道がないというか(笑) 作りたかったんでしょ?と言われてしまうので(笑) 今回の依頼があったときも、そんな感じでしたね。だから、待ってました!とは思わなかったですよ(笑)
—最後に『はじまりのみち』をご覧になる皆さんにメッセージをお願いします。

僕にとって初めての実写作品なんですけども、自分で言うのもなんですけども、かなりいい物ができたなと思います。やっぱり、スタッフと役者さんが素晴らしかったということがあると思うんですけど。僕は今まで作ったアニメーションの作品で、そんなことあまり言ったことないんですけど、今回は、自分でも思っていたよりずっとよくなったって思ったんですよ。作品を観て異論があるひともいるかもしれないけど(笑) 僕はそう思いました。

—ありがとうございました。


『はじまりのみち』 2013年6月1日ロードショー
(C) 2013「はじまりのみち」製作委員会









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