映画レビュー 『キック・オーバー』



役者業を本格的復帰して久しいメル・ギブソンが今年度に主演(共同で脚本、製作も担当)したクライム・アクション作品。監督はギブソン主演作『アポカリプト』で第一助監督を担当し、同じくギブソン主演作『復讐捜査線』でセカンドユニットを率いたエイドリアン・グランバーグ。彼は、本作が長編映画監督デビュー作であり、共同で脚本も担当。

元軍人“ドライバー”(メル・ギブソン)はマフィアから大金を強奪し、国境を越えてメキシコへ逃亡を図るが、逮捕されてしまい、政府も介入できないほどの無法地帯と化した凶悪犯専用刑務所エル・プエブリートに投獄される。彼はそこで、母親(ドロレス・エレディア)と二人暮しの少年キッド(ケヴィン・ヘルナンデス)に出会う。キッドの父親は肝臓病を患う刑務所内のボスであるハビに殺された上に肝臓を移植用に奪われ、キッドも次期肝臓提供者として守られている。ある日、ドライバーはキッド親子を狙ったギャングを撃ち殺すが、このギャングがハビの息がかかったギャングであったため、ドライバーはハビから目をつけられることとなり、さらにはドライバーから大金を奪われたギャングのフランク(ピーター・ストーメア)も大金を取り戻すべく手下たちを引き連れて乗り込んでくるが……。

アクション映画の3大要素である爆破、銃撃戦、カーチェイスがしっかりと用意されている本作。冒頭からカーチェイスが楽しめる。ピエロを装ったドライバーが運転する車を2台のパトカーが追跡するが、ドライバーの車は豪快に横転し、クラッシュする。中盤で壮絶な銃撃戦が観られるが、この銃撃戦こそが本作におけるアクションシーンの中では見応えバツグンで迫力と面白さを存分に感じさせる一番出来の良いシーンだと言いたい。爆破シーンは手榴弾による爆破が銃撃戦シーンの中で観られる。だが、黒煙だけで炎が燃え上がることもないため、「爆破シーンはこれだけなのか…」と思っていると、その後は迫力を増してしっかりと燃え上がってくれる爆破シーンがしっかりと楽しめる。このようにアクション映画に相応しいシーンがしっかりと用意されてはいるものの、結果的にはこぢんまりとしたB級映画らしい出来栄えだ。

アクション以上に興味深いのは、エル・プエブリート存在であり、メキシコに実在した史上最悪のムショだ。金さえあれば何でも手に入り、薬物をはじめとする様々な悪が横行しているというアウトロー丸出しの極悪コミュニティーで暮らす人々の生活ぶりをはじめ、生きるためにうまい具合に立ち回るドライバーの姿も興味深い。

本作のメル・ギブソンは、アウトロー的な魅力はもちろんのこと、人情味のある一面も描かれており、歳を重ねても身体を張ったアクションに挑戦している。強くてカッコいいオヤジぶりに注目していただきたい。

レビュアー:佐々木貴之

『キック・オーバー』
10月13日(土)、新宿バルト9ほか全国ロードショー

(C) 2011 ICON FILMS, INC.
※本作はR15+指定作品です

公式サイト:kickover-movie.com

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