映画レビュー 『J・エドガー』

主に盗聴などをもって、ジョン・F・ケネディやフランクリン・ルーズベルトなど、アメリカにおけるあらゆる政治的重要人物の秘密を掌握し、FBIの長官に君臨し続けた男、ジョン・エドガー・フーバー。秘密を武器に、有名人に対する恐喝や政治的迫害を行ったことで、現在国を動かした恐ろしき男として広く知られている。アカデミー賞受賞映画監督クリント・イーストウッドは、最新監督映画『J・エドガー』でその悪名高きフーバーの生涯に迫る。

本作の脚本を手掛けるのは、『ミルク』でアカデミー賞オリジナル脚本賞を受賞したダスティン・ランス・ブラック。彼は青年期と老年期のフーバー（レオナルド・ディカプリオ）の生きた歴史を巧みな語り口で描く。しかし、それだけ凝縮された作品であるにも関わらず、展開に焦りがないのは、イーストウッドが独特のゆるやかな時間の流れを生み出しているからだろう。

アメリカ議会図書館の図書館員から司法省に入省し、忠実な秘書ヘレン・ギャンディ（ナオミ・ワッツ）を伴い1924年には若干29歳でFBIの長官にまで上りつめたフーバー。本作は、歴史的にも忠実に、彼を１人の人間として見つめてゆく。わたしたちが目撃するのは、あれだけFBI長官として名を馳せたにも関わらず、弱い１人の人間。愛する母親（ジュディ・デンチ）の前では国を動かした恐ろしい男の顔はなく、FBIの副長官、そしてプライベートでもフーバーを支えたクライド・トルソン（アーミー・ハマー）は彼の人間的なもろさを抱擁し守り続けた。

トルソンとは毎日昼食を摂り、しばしば共に休暇を取っていたフーバー。女装趣味があったとも噂されている彼だが、本作は彼のホモセクシュアリティを曝け出さず、表面では捉えることの出来ない彼の内世界を探求する。FBIの頂点に君臨していたのは心の知性に素直になれなかった孤独な男だったという事実。悲劇的な生き方を自ら招き苦しみ続けた幸福の探求者の物語がここにある。

レビュアー：岡本太陽

『Ｊ・エドガー』
1月２８日（土）丸の内ピカデリー他全国ロードショー
オフィシャルサイト：http://www.j-edgar.jp
facebookファンページ：http://www.facebook.com/jedgarjp
ワーナー・ブラザース映画配給
(C) 2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

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