映画レビュー 『宇宙人ポール』

『スーパーバッド童貞ウォーズ』や『アドベンチャーランドへようこそ』などで知られるグレッグ・モットーラ監督の新作『宇宙人ポール』は、タイトル通り宇宙人を扱ったSF映画。『ショーン・オブ・ザ・デッド』や『ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン！-』などで一躍時の人となったサイモン・ペグとニック・フロストが本作の脚本を務め、また彼らが、アメリカを旅するSFオタクのイギリス人グレアム（ペグ）とクライブ（フロスト）に扮している。

親友同士のグレアムとクライブがアメリカに来た理由、それはカリフォルニア州サンディエゴで開催されるオタクの聖地コミコン・インターナショナルに行くこと。そこに行く間に、西部のUFOスポットをRV車で巡る旅をしている彼らは、ある晩ネバダ州のハイウェイを通過中、エリア51から逃げ出して来たポールと名乗る宇宙人と遭遇し、旅を共にすることに。頭と目が異様に大きく、いわゆるよく見る宇宙人的な外見のポール。宇宙船が地球に不時着したことにより60年間もエリア51で拘束されていた彼は、すっかりアメリカナイズされているという設定だ。

本物の宇宙人との遭遇に驚きながらも、ポールを故郷に返すことを約束し、旅を続けるグレアムとクライブ。そんな旅の中で、彼らが目の当たりにするのは、夢のアメリカの姿とはかけ離れたアメリカの影：同性愛に嫌悪感を露にする者たち、宇宙の神秘を信じないキリスト教原理主義者など。制作者たちはそれを面白可笑しく見せてゆく。また、グレアムとクライブがポールに会って、素直なグレアムはすぐにポールと打ち解けるが、クライブは少々疑心暗鬼。ポールが彼らの間に入ってきたことにより、２人の友情の物語も新しい展開を迎える。

実生活でも親友同士のサイモン・ペグとニック・フロスト。この映画のアイデアはスティーヴン・スピルバーグ作品を始めとする、彼らが敬愛するアメリカSF映画へのオマージュから生み出されたという。よって彼らを出世させたエドガー・ライト作品と同様、物語の随所に懐かしい映画を思わせるシーンやセリフが散りばめられている。また、アメリカのSF映画にまつわる人たちがカメオ出演しているのも本作の粋な仕掛けの1つだ。真実は時に驚きで、時に幻滅させることもあるし、また時には痛かったりもする。でもどんなに現実が夢や想像とは違っていたとしても、夢を抱いていた自分の純粋さは尊い。また、だからこそこの映画がアメリカのSF映画にオマージュを捧げた作品であるように、美しい夢を見させてくれた人やものには心から感謝をしたい。

通なネタが多いため、オタクのための映画と思われがちなこの映画。しかしグラエムとクライブの冒険はSF映画オタクが楽しむための物語に留めておくのは勿体ないだろう。これはきっと信じる者たちを優しく受け入れてくれる映画だ。

レビュアー：岡本太陽