映画レビュー テレンス・マリック最新作『ツリー・オブ・ライフ』

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わたしたちは人として生まれたきた以上、幾度となく様々な疑問を自分自身に投げかける。わたしたちはどこから来て、どこへ行くのか。苦しみながら生きることに果たしてどういう意味があるのか。父と母の元に生まれてきた理由は。善と悪とは…。

各映画祭や映画賞の授賞式、またマスコミにも姿を見せないため、『地獄の逃避行』、『天国の日々』、『シン・レッド・ライン』、『ニュー・ワールド』とわずか4作で、伝説と化したアメリカ人映画監督テレンス・マリック。第64回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した新作『ツリー・オブ・ライフ』で、マリック氏は、彼自身をモデルとした主人公を通して、想像と記憶を紡ぎ合わせながら、人生の物語を壮大な詩のように謳っていく。

物語は、旧約聖書のヨブ記の中で、神が沈黙を破ったときの言葉で幕を開ける。主人公ジャック・オブライエン(ショーン・ペン)は、仕事で成功しているにも関わらず、19歳で他界した弟の死により、喪失感を抱き続けている。彼は子供時代を回想する。1950年代、テキサス州ワコで、ジャックは、厳格な父(ブラッド・ピット)、愛に溢れた母(ジェシカ・チャステイン)の元に育った。彼にはR.L.とスティーヴという2人の弟がおり、母は3人の息子を平等に愛したが、父は長男であるジャックに特に厳しく接した。そしてジャックは、秘める父への反抗心から、徐々に、純真さを失い始める。

テレンス・マリックは、ジャック・オブライエンのように、1950年代のテキサスで少年期を過ごし、彼自身の見た世界がジャックの回想シーンに反映されている。またその回想シーンでは、ジャックの弟R.L.は音楽や美術の才能があり、罪を赦す心を持っていたことが語られるが、実はマリック氏にも音楽の才能があった弟がいたのだ。彼の弟ラリーは、現代クラシック・ギター奏法の父と言われているアンドレス・セゴビアに慕うため、スペインへと渡った。しかし、上達しない自分に落胆し、両手を2度と使えないようにして自殺したのだそうだ。だからこそ、喪失感に囚われているジャックは、マリック氏自身と解釈出来、この映画は実は、非常にパーソナルな作品だということが分かる。

本作では、荘厳な音楽と、驚くべき映像で描かれる宇宙、そして地球の誕生、また地球上の様々な生命の存在、そして絹糸の様に繊細な旋律の中で語られる、吸い込まれるように美しい光と空気の中にあった子供の頃の記憶が、ジャックに新たな悟りをもたらしてくれる。神の作った世界には、善き者が幸福を手にし、悪しき者が裁きを受けるという概念はなく、人間の理解を超えたことが多くあり、それらに人間が答えを出することは不可能である、と。そして彼は、ようやく生命の讃歌に耳を澄まし始める。本作は、観ているわたしたちが、時に、風に舞う砂のように、時に、水に浮かぶ木の葉のように、どこまでも限りなく流されていく精神の旅のようだ。

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レビュアー:岡本太陽

『ツリー・オブ・ライフ』
2011年8月12日(金)全国ロードショー
キャスト
ブラッド・ピット、ショーン・ペン、
ジェシカ・チャステイン
監督:テレンス・マリック
製作:サラ・グリーン、ビル・ポーラッド、ブラッド・ピット、デデ・ガードナー、グラント・ヒル
脚本:テレンス・マリック
撮影:エマニュエル・ルベツキ
美術:ジャック・フィスク
編集:マーク・ヨシカワ
音楽:アレクサンドル・デプラ
公式サイト:http://www.movies.co.jp/tree-life/
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