鶴岡亮のデンジャーゾーン! 第12回 スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明けを経て

<スカイウォーカーの夜明けを経て>
2012年に「ウォルト・ディズニー」が「ルーカスフィルム」を買収して以来、それまでルーカスフィルムが製作していたプリクウェル3部作とオリジナル3部作の続編にあたるシークウェル3部作が製作された。

2015年12月18日に第1部の『スター・ウォーズ フォースの覚醒』が公開。2017年12月15日に第2部の『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』が公開。そして、2019年12月20日に第3部『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』が公開された。

シークウェル3部作は、オリジナルシリーズの冒険活劇と反乱の物語を、現代のフォーマットに復活させた意味では意義のある作品ではあった。レイやフィン等の主要キャストに女性や有色人種を採用し、ドナルド・トランプを彷彿とさせるスノークや皇帝の描き方や、物語の核となる主人公レイと宿敵カイロ・レンの物語は、最後まで緊張感を持って見届ける事が出来た。
しかし、シリーズ産みの親のジョージ・ルーカスが目指した「今迄観たことの無い世界観を描く」と云う目的は果たせなかったと云える。砂の惑星、氷の惑星、緑の惑星等のお馴染みのロケーション。X-ウイングやTIE-ファイター等のお馴染みの戦闘機群。コンセプトアートから拝借したビジュアル設定。このデジャブ感が続く映像表現に対して『フォースの覚醒』時にはビジネスの観点から観て、稼ぎ頭のオリジナル3部作ファンの「観たいもの」を取り入れるのは仕方無いと割り切る事は出来たが、『スカイウォーカーの夜明け』で再びそのリフレインが繰り返されるのは、些か過剰が過ぎるのでは無いかと云う印象を受けた。
そこで今回は、今後のスター・ウォーズの世界観を広げていくにはどういった手法が必要か?という事について考えて行こうと思う。

<アイコニックで弄り辛い世界>
今や「遠い昔、遥か銀河系の彼方で…」から始まる銀河系の世界観は、宗教的なファン心理によって「弄り」が効き辛い状況となっている。そのファン心理は旅行に置き換えると、その土地特有のご当地名物が無ければいけないという意識に近いだろう。例えば、ニューヨークに行けば自由の女神が無ければいけない。中国に行けば万里の長城がなければいけない。エジプトに行けばピラミッドがなければいけないと云うような意識に近い。オリジナルSWファンに置き換えれば、SWと云えば、砂漠や雪に覆われた辺境の惑星が舞台で、ジェダイとシスの二大勢力が登場して、X-ウイングやTIE-ファイターのようなビークルが無ければいけないと云う意識だ。

ルーカスがSW世界の拡張を狙ったプリクウェル3部作は、それまでのSW世界とはかけ離れたモノだった為、オリジナルシリーズのファンから嫌悪の対象になった。そうした層が稼ぎ頭な為に、オリジナル3部作を基本にした世界感で描きたいという、ディズニー側のビジネス的判断もあった。それまで誰も観た事の無い世界観を描く事を目的としたSWシリーズが、観光名所的な普遍のアイコニックさ故に、世界観の新構築が果たせないのは余りにも皮肉めいている。

<ガンダムに学ぶ世界観の多様さ>
ここでスター・ウォーズシリーズと双璧を成す歴史を持つコンテンツを例に出したい。『ガンダム』シリーズだ。ガンダムシリーズにはスター・ウォーズシリーズのように一本の歴史大河モノの「宇宙世紀」と呼ばれるシリーズがある。宇宙世紀シリーズは初代ガンダムでお馴染みのアムロやシャア、それに続く歴代キャラクター達が積み上げた長大な歴史絵巻だ。1987年から現在に至る迄、宇宙世紀シリーズは続いており、本伝とも云えるコンテンツだ。それに加えて、ガンダムシリーズには本伝である宇宙世紀に縛られない「アナザーシリーズ」が存在する。各国が繰り出すガンダム同士の熱い格闘バトルを描いた『機動武闘伝Gガンダム』、美少年五人がガンダムに乗って世界を統治するOZに戦いを挑む『新機動戦記ガンダムW』、ニュータイプ理論について再解釈する『機動新世紀ガンダムX』等が存在する。

これらの作品は、各々の独立したパラレルワールド的な世界観を持って描かれており、今日に至るまでのガンダムワールドの多様性の確立に役立ったコンテンツだ。そこで、この手法をSWワールドに持ち込めば、そうした世界観の「弄り」が難しい現状から離脱する事が出来るのではないかと考える。オリジナルシリーズを好むファンのアイコニックな銀河系に手を加える事なく「新たなる惑星」「新たなる宇宙船」「新たなる派閥」等を創作する事が容易になるだろう。音楽方面もジョン・ウィリアムズ風のクラシカルなBGMに捉われず、ハンス・ジマーやジャンキーXLのような近代的な音楽を導入して行く方向性でも良いだろう。とは云え、映画と云う大規模な予算が掛かるプロジェクトだとこの企画は通り難いと思うので、アニメシリーズからでも良いので、こうした試みの種子はばら撒いていて欲しいと願う。

SWシリーズが今後シリーズを続けて行くにあたり、凝り固まった世界観を破壊するのは、シリーズモノとして決して避けては通れない道だ。SW第一作「新たなる希望」が目指した「誰も見た事が無い世界」を取り戻すには、やはり「新たなる銀河」の創設が必要ではないか

 

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