【連載コラム】鶴岡亮のデンジャーゾーン!第十回 富野監督の『G-レコ』を作った動機からオススメ映画まで! 劇場版『GのレコンギスタⅠ』「行け!コア・ファイター」関西最速試写会レポート

 

【文・鶴岡亮】

 

鶴岡亮Twitter:https://twitter.com/ryoutsuruoka

 

劇場版『ガンダム Gのレコンギスタ Ⅰ』「行け!コア・ファイター」第1弾PV【ガンチャン】
https://www.youtube.com/watch?v=ObjdkwP0AMY

富野由悠季総監督インタビューPV【ガンチャン】
https://www.youtube.com/watch?v=SNK-52oJZrM

 

去る10月27日(日)に兵庫県立美術館で劇場版『GのレコンギスタⅠ』「行け!コア・ファイター」の関西最速試写会が行われた。抽選250名限定で行われた試写会だが、応募には1000人を超える申し込みが殺到した。試写会では熾烈な抽選戦を勝ち抜いた熱烈な「富野由悠季」監督ファンで賑わい、多大なる期待を寄せながら本編を鑑賞した。

 

本作はテレビアニメ『Gのレコンギスタ』を新規カットを交えて再編集した劇場用映画で、TV版と同じく富野由悠季氏が総監督を担当する。ストーリーはベルリとアイーダに焦点が置かれ、自分達に襲いかかる困難にいかに向き合っていくかという成長物語としてまとめられている。映像は富野監督の編集技術によってテレビ版とは異なった印象を受けるフィルムになっている。追加カットもTV版を映画に変換するための装置としてうまく機能していて、富野監督が「『G-レコ』は劇場版が完成版です」と宣言しているのが納得出来る作品に仕上がっていた。OPはGARNiDELiAの「BLAZING」、EDはハセガワダイスケの「Gの閃光」とTV版と同じ顔ぶれが担当している。

 

上映後には拍手が鳴り響き、富野監督ファンに熱烈な支持を受けた本作。本編終了後に富野監督が登壇したトークショーが開催されたので、その様子をお伝えしていこう。

 

 

<スクリーンで味わう『G-レコ』について>
まず、スマホ画面で『G-レコ』を観た気になって欲しくないという思いがあります。基本的に作画の為のコンテを切ってる段階で、動く距離感については絶えず意識していました。その場合、大画面を想定していますので、テレビ版から13インチ画面では見て欲しくないという気持ちがありました。ですから、以前から映画にしたいという気持ちはありました。最低でも今日くらいのサイズのスクリーンでやって頂ければ、初期の予定通りに見えていると思います。

 

<劇場版のキャラクター描写>
今日、久しぶりに本作を観せて頂いたのだけども、ベルリっていうのはこんなにも生真面目なキャラクターだったのかという再発見がありました。キャラクターを作るという作業は、先の画面設計の作業より遥かに難しいです。ある意図を持って作ったキャラクターが、映画本編だと自分の意図とは違った見え方がする事があります。ベルリに関しては本作を観返して「養いお母さん」がかなり好きな子なんだなと新発見しました。母、子の関係みたいな事を、この映画の尺で見えているのにも驚きました。TVの時ではその部分を意識して長く尺を取っていたんですけども、劇場版では刈り込みました。刈り込んでいるにも関わらず、そうした部分が皮膚感覚で伝わっているのは、ひょっとしたら役者の力なんだろうなという気がしています。そういう所が、逆に云うと演出家の「得をするところ」という事もあります。テレビ版を観て完成品じゃないから作り直したいと思って、そういう部分を手直ししていった時に「付け加えているらしい」という部分が見えてくる事があります。これは役者さんもそうなんだけれども、だいたい今は「オンリー撮り」という一人で収録する状況が多いんですけど、相方が居てくれなければ困るという要求もありました。そこまで役者さんがこの作品に取り組んでくれている姿勢を見て、『G-レコ』は只の巨大ロボットの創りじゃないんだという事を教えられました。アニメーターもそういう部分を考慮して作画して貰っているので、大画面でそうしたキャラクター描写に関して再発見していただければ嬉しいです。正直、今回の仕事には幸せを感じています。

 

<『G-レコ』を作った動機>
『ガンダム』は40年くらいの歴史があって、僕は10数年前に『ガンダム』を作るのをやめました。その10数年の間に時代のギャップというのがありまして、何故、現在の世界で一番力をもっている人達が、こうまで自分の事しか考えていないのだろうか?この人達にまともな統治ができるのか?という疑問がありました。僕は『ガンダム』で「ニュータイプ」を描いたのですが、それに至るまでのハウツーを描かなかった為に、ニュータイプのような政治家が出てこなかったと思っていて、本当に申し訳ないと思っています。アニメのロボットもので政治家を教育するなんて出来る訳がないのですが、本当にそうなんだろうか?という想いもあります。数年前から現実で起こっている事なんですが、子供たちが国連の場で環境問題を訴える時代が来ています。15、6歳の子供が発言する事で世界の潮流が変わるかもしれないという時代の中、だったら巨大ロボットアニメでも同じことができたのではないか?という思いが湧いてきました。でも昔の僕は「アニメだからね」というとこで逃げていたんです。でも、そういう今の世の中を見れば見るほど、こういうふうな事態が起こったらまずいよねって事で10年前に『G-レコ』の物語を作りました。つまり、エネルギーを一番問題にするような物語を作ったのは、現実がそういう状況になっているからなんです。

 

<オープニング映像をTV版と同じにした事の意義>
第1章に関しては、オープニングはテレビ版のものを使用しています。これはどういうことかというと、オープニングというTV版のミスをそのままにすることで、劇場版本編でそのミスを修復しました。違ってるとこに気が付いてくださいって事なんです。これは老人の持つ特権で、僕がかつてこういうミスを作ったという判例を残しておかないといけないと思ってこういう事をしました。だからこういう事例を見て、若い方は僕のような年寄りのミスをしないようにしていただきたい。アニメは嘘八百の物語だけど何やっても良い訳でなくて、ひとつの物語の世界を作ったら、その世界のルールを守らなくちゃいけないんです。

 

 

<富野監督の語る天才と世の中に訴える上で最低限必要なものは?>
本当に新しいモノを作るってのは天才にしかできないことなんですよ。そういう意味では僕は天才ではありません。アートの世界では天才というものは突然出てくるものなんです。世界中の意思を全部チェックしたくらいの能力があった上で、こういうものを打ち出せる人が天才なんです。僕の育った時代の天才を1グループ言いますと「ビートルズ」のような人達です。僕はビートルズが出てきた時代に20代になっていて、当時から10年後ぐらいはビートルズは糞だと思っていました。しかし、LPというレコード版が無くなる頃に、5、6枚ほど聞き直したのですが、やはりこのバンドは凄いんじゃないかと思いました。僕はこの程度の理解力の人間なんです。時代と共に現れてくる天才に、ある部分ひれ伏さないといけないのが大衆でもあるし、逆に絵でも演劇でもアニメでも良いのですが、自分で創るもので世の中に訴えたいものがあるのなら、最低でも「新海アニメ」レベルの100億超えの利益を出せるものを作れなきゃダメなんです。つまり、力、実行力、センスとか貫禄を持たないといけないという事を覚えておいて欲しいです。

 

 

<富野監督の映画論>
アニメが好きだけで、メカが好きだけで映画を作っちゃいけません。最近、そういう映画が世に有り触れているという現状があります。最近だと、車がロボットに変形するハリウッド映画がありましたが、あれだけバンバン変形しておもしろいか?映画になってるか?ということです。逆に言えば、ああいう風にお金と膨大なマンパワーを使って作ることが出来るのが映画と言えますし、それだけの力があるなら、もうちょっと良いモノ作ったら?と思うんです。映画を作るのは「ドラマ」を描くこと、単純にそれだけの事なんです。日本や世界の映画史を見ればそうした優れた作品があるのがわかります。高校の頃に黒澤明監督の「七人の侍」を観ましたが、全部が良いなんて口が裂けても言えません!「七人の侍」は後ろのパートが長すぎます。公開されたものは3時間はないんだけど、後ろ30分は切れよ!と思います。よく解らなかったんだけど、名作だなと思ったタイトルは「小津安二郎」監督の「東京物語」です。これは名作です!どういうふうに名作かと言いますと、話はごくつまらない日常的な話です。ですが、それを見せるために映画の技法をどれだけ使っているかという面で見ると、物凄く見事な映画です。小津安二郎の映画の中でこれを観始めたら、最後まで観ちゃいますよ!日本間の畳の上で座ってる人が立っていく、そして移動する、このカッティング技術は舌を巻く程凄いから覚えておいてください!これを言っとかないとお前ら見過ごすから!動画を見慣れてる人は当たり前だと思うんだけど、小津安二郎の時代には動画の撮影をしていないんですよ。ワンカット、ワンカット、一々立って、座って、歩かせてってのをワンカットずつ繋いでる。あれをやれるなら見せてもらおうか?ってくらい凄いんです。だけどそれが今ちっとも凄く見えない。だからもう一度敢えて言っておくと、日本間のある畳でやってる挙動だから、アクションシーンなんてどこにもないの!なのにスルスルスルと日本人はああいう挙動ができたのね。そのスピード感に一度気が付いたら堪りませんよ!映画ってのはそういうところから入って下さい。その上で、「東京物語」にあるとっても切ない老夫婦の話があるから是非見てください。「東京物語」は世界的に云うとベスト100なんじゃなくてベスト20くらいの所に入ってる映画です。そういうことから考えたら黒澤映画なんてどれ程酷いものなのかって解れ!

 

<富野監督に質問コーナー>
イベントの終わりに250名の観客が富野監督に質問するコーナーが設けられた。
二名の方が選ばれたのでその質疑応答をお伝えしよう。

 

Q:『G-レコ』で宗教とエネルギーを組み合わせた理由を教えてください。

あの世界では人類が絶滅寸前まで行ったので、エネルギーに触れてはならないというタブーが必要だったんです。政治的に経済的にタブーを作ったとしても人は絶対に破るのですよ。でも、宗教のタブーだと人は破らない、それだけの事です。だからどうしてもスコード教という宗教が必要だった。そのことを「それはおかしくない?」と思ってくれる世代が出てくれればありがたいと思っています。以前から僕自身宗教というものを意識してたんだけども、物語の中心に現れていることがなくて、今言った理由でタブーを設定する為に宗教を設定した。そう設定したことによって、キャピタル・タワー(軌道エレベーター)は、宇宙と繋がっているへその緒(スペースアンビリカルコード)という言い方をしていますが、頭文字を取ってスコード教という名前を付けました。それを作っておくとキャピタル・タワーありきって説明にもなるんです。だけど、キャピタル・タワーって名称がとても可笑しいって思う方もいらっしゃると思うんですが、キャピタルっていうのは「首都」という意味もありますし「資本」という意味もあります。基本的にキャピタル・タワーを基盤として地球の経済が廻っているんじゃないのか?と思うので、エネルギーがあそこから地球に全部投下されてるという設定にしています。

 

Q:ガンダムシリーズの主人公とヒロインは何故結ばれないんですか?

そんなの知るか!(苦笑い)…なんなんでしょうね…それは僕が嫉妬深いからだと思います。メインの二人は絶対ひっつけない!と思ってるかもしれない。そういう潜在的な欲求というか、いじめ癖があるのかもしれません。これは作者の一番の問題点かもしれません。只、これだけ画面で見るとベルリやノレドにしても『G-レコ』のキャラクターは殆ど肉付けがついたような気がしてる部分があるんです。なので、さっき言った答えは半分は冗談なんだけど半分は本当で、御本人に聞いてくださいとしか言えません。逆に云うと作り手の理想がありまして、そういう風に言えるようにキャラクターを作っていきたいと思っています。その「餌の素」のまんまで終わらせたくないという欲がありますし、そういう風な意見が出てくるということは、ノレドはうまくいったんだなと思っています。

 

<『ガンダム』では無い『G-レコ』>
記者の方に本作がガンダムでなかったらガンダムファンのお父さんお母さんに言って欲しい事があるんじゃないですか?と言われたことがあるんです。はっきり言いますと、ガンダムファンのお父さんやお母さんに『G-レコ』は絶対解らないから、観る必要がありません。只、言っておきたい事があるのは、お子さん達には観せてやって欲しい。きっとお父さんやお母さんが解らない問題を見つけてきて唸るはずだから。それだけでいいから、そういう機会を与えてやって欲しいなって答えておきました。ガンダムなんだけどガンダムじゃないらしいね。だけど、とりあえず観ると面白いから観てみなって勧め方をして欲しいです。騙されたつもりで観てみれば、取り敢えず最後まで観ることが出来るかもしれないという構図になったつもりでいますので、その部分についてお子さんに伝えて頂ければと思っています。

 

イベント終了時に来館記念として富野監督が劇場版『GのレコンギスタⅠ』「行け!コア・ファイター」のポスターにサインをした。

 

このポスターは10月30日から兵庫県立美術館のエントランス(1F)に掲示されるので、当展覧会に足を運ぶ予定のある方は是非ともチェックして欲しい!

そして最後に、11月29日からの本上映時の入場者特典として、富野総監督が予告用に作り上げた絵コンテを複製した「劇場版『G-レコ I』予告絵コンテ」が配布されることが発表された。更に、関西地区の上映館に「大阪ステーションシティシネマ」が追加されることも発表され、全国24館での上映となることが決定した。

 

劇場版『GのレコンギスタⅠ』「行け!コア・ファイター」は2019年11月29日から上映開始!

 

劇場版『GのレコンギスタⅠ』「行け!コア・ファイター」公式サイト
http://www.g-reco.net/
兵庫県立美術館公式サイト
https://www.artm.pref.hyogo.jp/

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