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映画レビュー イルカ殺しの是非を問う 「ザ・コーヴ」

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「あんなにかわいいイルカを殺すなんて日本人は残酷だ」「お前らだって牛や子羊ウサギだって殺して食ってるじゃないか」
感情のレベルで議論されがちな今年のアカデミー賞ドキュメンタリー映画賞を受賞したルイ・シホヨス監督作『ザ・コーヴ』。



今日、アカデミー賞受賞を受け、日本でもイルカが殺され、その肉が日本のどこかで食べられているという事実が周知の事となり、その余波は広がるばかり。特に国外からの圧力は大きく、映画の早急な公開を望む声も多い。
映画の内容は物議を醸すもので、それを観た後の判断は人それぞれ違うが、この映画がこれほど多くの人々を引きつけ、数々の映画祭で賞を獲得した理由は、このドキュメンタリー映画が目に焼き付く隠し撮りされた衝撃的な映像を含んでいるにも関わらず、暗過ぎず、時にコミカルで、エンターテイメントとして質の高い非常に稀に見る作品だからだ。
物語の舞台となるのは、和歌山県にある太地町。この港町では近海で獲れる魚を食べ尽くしてしまうイルカを害獣として駆除しており、毎年9月に行われるイルカ漁は何艘もの船でイルカ達を町の海岸沿いにある入り江に追い込んで行われる。ところが、町の伝統であるはずのこのイルカ漁はメディアの撮影を一切受け付けず、一般に公開される事もない。そんな中、ある1人のアメリカ人男性が太地町を訪れ、謎に包まれたイルカ漁の全貌を暴こうとする。
その人とは60年代に人気を博したアメリカのテレビシリーズ「わんぱくフリッパー」に出演したイルカの元調教師リック・オバリー。彼は番組にフリッパーとして出演した1匹のイルカがストレスにより自殺(オバリー氏曰く)した事から、イルカを訓練する立場から、イルカを保護し解放する立場へと方向転換。イルカと毎日触れ合い、彼らに強い愛情を抱いていた彼だからこそ、一度はイルカで金儲けをしていたにも関わらず、産業がイルカを死に追いやった事にタダならぬ嫌悪感を感じ改心せざるを得なかったのだ。また、そのイルカの死がオバリー氏の消えないトラウマとなり、彼が罪を償うかの様にイルカ解放に執着する姿が印象的で、彼の背景に『グラン・トリノ』でクリント・イーストウッドが演じた主人公のそれに近いものが感じられる。
イルカ漁が行われている入り江はまるで要塞。24時間体制で外部からの侵入を防ぐため、オバリー氏だけの力では到底作戦を成功させる事は不可能。そこで、素潜りのダイバー、ILM(インダストリアル・ライト&マジック)から独立したスタジオKernerFXからの特殊効果アーティスト、航空電子工学のエキスパート等が太地町という小さな町に集結する。もちろん、外国人の存在はすぐに町中に知れ渡り、彼らの滞在するホテルは警察や町が雇った組織からの張り込みが行われ、任務遂行に困難を来す。その様子はまるで『スパイ大作戦』や『オーシャンズ11』を彷彿とさせ、ハラハラする展開が繰り広げられる。
イルカの肉には水銀が多く含まれている事、イルカ狩りが産業として成り立っている事等、本作は細かくリサーチされたサイドストーリーがある事によって、イルカ漁の無意味さを論理的にも説得しようとする。イルカ漁の賛否は抜きにして、制作者の語り手としての才能はやはりアカデミー賞受賞に値し、約600時間という途方も無いスクリプト無しの映像から紡ぎ出された90分間はドキュメンタリーという名のサスペンスアクション映画だ。
レビュアー:岡本太陽
映画『ザ・コーヴ』上映決定劇場
6月3、4日に東京2館、大阪1館での上映が中止になりました『ザ・コーヴ』ですが、このたび、改めて以下の劇場にて公開決定いたしました。
上映決定劇場一覧(6/21現在)
【7/ 3~】(6館)
東京:シアター・イメージフォーラム/横浜:横浜ニューテアトル/大阪:第七藝術劇場/京都:京都シネマ/宮城:フォーラム仙台/青森:フォーラム八戸
【順次】(16館)
名古屋:シネマテーク/福岡:KBCシネマ/苫小牧:シネマ・トーラス/青森:青森松竹アムゼ/山形:フォーラム山形/岩手:フォーラム盛岡/福島:フォーラム福島/栃木:フォーラム那須塩原/群馬:プレビ劇場
ISESAKI/金沢:シネモンド/新潟:シネ・ウインド/広島:サロンシネマ/岡山:シネマ・クレール/愛媛:シネマルナティック/熊本:Denkikan/沖縄:桜坂劇場
【調整中】
札幌:シアターキノ
ほか
7月3日(土)全国順次ロードショー
シンポジウムに駆け付けた田原総一朗さんからのコメント:
私も映画を観ました。第一に、ずいぶん恵まれた映画作りをしていると思った。第二に、私なんかの作るものとは違う。あれは宣伝映画だ。普通であれば、和歌山に行きますね、なんで撮るんだ?という質問から入る。
そんな質問はない。決め込んでいる。崔さんが言うように嘘っぱちでもいいんです。でも、そこがイルカ漁は悪いんだというところから入っている。ただ、宣伝映画としては良くできている。ラストも。愉快か不愉快かと言うと不愉快だ。でも、不愉快な映画を見ちゃいけないかというと、それは違う。面白いものもある。面白い映画だ。お客さんにいっぱい観てほしい。

崔洋一さんからのコメント:

ある意味ではプロパガンダだけど、それを右か左かというものを前提に認識するのはナンセンス。大変うまくできている。ある意味ではエンターテイメントと言えるかもしれない。こういう映画はある種のドキュメンタリーのトレンド。流れです。観終わって、右とか左ってなんだろうと思った。
この映画を相対的なきわめてフェアな映画と言うことはできない。だからといって、反日という人達の気持ちは理解できない。映画は自由でいい。だから、映画館は自由でいい。たとえば、コンビニで自分が嫌いなもの置いていたからと言って、街宣かける?と思う。かけないだろう、普通。僕は当然こういうおかしなことには反対です。
『ザ・コーヴ』上映に関するコメント
上映館の方から以下のメッセージを預かっております。

<東京>シアター・イメージフォーラム 支配人 / 山下宏洋

『ザ・コーヴ』の東京での劇場公開中止の決定後、当作品の配給会社から当館に上映の依頼がありました。当館としてはその依頼を受け、7月3日(土)より当作品を上映することを決定いたしました。上映を決定した理由としては、上映依頼があり、観たいというお客様がいらっしゃるということ、それ以上他にありません。独立系単館映画館である当館として、この作品が上映できないことで、上映される映画の幅が狭まっていくよう
な事態は避けたいと思っています。

<横浜>横浜ニューテアトル 代表取締役 / 長谷川喜行
正確な情報を下さいました配給会社、及び他劇場の皆様、また直接当館を応援して下さいました皆様、さらには“追い風”となる世論を作って下さいましたマスコミの皆様、これらの方々のお陰で辛うじて『ザ・コーヴ』の「上映劇場」として踏みとどまることができました。
ありがとうございました。本来でしたら、直接皆様にお礼を申し上げなければならないのに、どうしても都合が付かず、お許し願います。
今回のような状況において、当館は無力です。何も出来ません。難しい議論も出来ません。
ただ、皆様のお陰で映画館としての義務を果たすことが出来そうです。
これからが本番です。スタッフ一同さらに頑張りますので、引き続きご指導よろしくお願いいたします。
<大阪>第七藝術劇場 支配人 / 松村厚
ドキュメンタリー『靖国』の上映中止騒動の際にも繰り返してお答えして来たことですが大上段に構えた「表現の自由を守る」という錦の御旗を立てるというよりも、映画を上映する場である映画館が映画をごく普通に上映出来なくなるという状況を心配しております。
『靖国』や今回の『ザ・コーヴ』に関しても批判や賛同がその内容に関して寄せられておりますがそういった議論が多くの問題点を私たちの前に提議して行くのではないかと思います。
コメントは避けますが私自身にもそれぞれの作品に対する考えはあります。故に作品の正当性を主張して上映するというよりも作品を見れる環境を提供することで作品への賛同や批判を多くの方に共有して貰えたらと思っております。
そして、今回の上映を中止された映画館に対しては頑張って欲しかったという気持ちもありますが、それはそれぞれの映画館の環境や立場もあるのでそうした映画館を責めるのではなく逆に励ましてあげて欲しいと思います。そうした応援や励ましの言葉が今後、こういった事が起こった時に踏ん張れる事にも繋がって行くような気がします。
映画館という不特定多数のお客様と接して商業施設内にあるという一番弱い部分を責めてくるやり方を逆に批判して欲しいと思っています。
更に「靖国」や今回の上映中止で一番心配しているのは小さな抗議街宣活動や予告で中止を決定してしまったことです。多くの抗議活動や妨害の中で上映中止をやむなく決定したのではなく自粛という形を取ってしまった前例が出来てしまうと映画という表現手段のどんな部分にも抗議する要素ははらみ持つもので今後、『靖国』や今回の作品のように微妙な問題を持つ映画に限らず、単なるアクション映画などの娯楽映画にすら抗議の声を上げる土壌が出来てしまう恐れです。
現在、当館で本年度のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞で『ザ・コーヴ』に敗れた『ビルマVJ 消された革命』を上映しておりますが軍事独裁国家ミャンマーでは抗議のプラカードを掲げているだけで警察に連れて行かれるシーンがビデオジャーナリストによる映像で描かれています。そうした映画を見ていると今回の上映中止を求める抗議活動も表現の自由を守るという原則の上で保障されている日本という国はまだ健全なのかもしれないと思います。
<京都>京都シネマ 代表取締役 / 神谷雅子
上映中止に関しては、映画館それぞれの事情があっての判断ですので、コメントは控えます。問題だと感じている点、執拗な抗議行動で上映を中止に追い込もうとする人たちのやり方です。映画の内容について、批判をするのは自由ですが、逆に、見る自由も保障するのが、民主主義社会のはずです。しかも、すでに100カ国以上で公開されている作品を、当事国である日本で観ることが出来ない事態に追い込むことは、日本人だけ知らない、“臭いものにふた”をしたことにしかならないです。
日本だけ孤立して、諸外国との関わりなしに存在することはできません。だからこそ、映画を見てほしい。映画には多様な価値観、異なる文化や宗教などが随所に織り込まれています。異文化を理解するうえで、最も優れたものだと思っています。
映画で描かれた「イルカ漁」の捉え方も一方的かも知れません。だからこと、観て、議論する。そうした議論の積み重ねがお互いの理解につながります。
暴力的、威圧的な街宣活動で、お客様に、何よりも快適な上映環境を用意しなければならない映画館を委縮させ、上映中止に追い込む、その方法に、憤りを覚えます。
<広島>広島サロンシネマ 支配人 / 住岡正明
同様の上映中止問題は「靖国」の時にもありましたが、「靖国」と大きく違う点があります。「靖国」の<靖国神社>、<南京事件>、などはすでに歴史的、戦史的、評論的にに多々発表されています。
この度の「ザ・コーヴ」は、日本人のほとんどの人が知らないことなので、上映をしなければならないのが映画館の使命であるのですが、デリケートな点がある地方都市のある小さな町であるということです。 生計にかかわる点、しかも差別問題(同和関係)もあるという指摘がとても気になるところです。つまり、靖国神社の様な巨大な存在と地方の小さな町の出来事の差でしょうか。自国のマイノリティであるミニ・シアター系がマイノリティの町で起こっていることを白日のもとにする辛さはあります。
ただ、日本が平和であることの一番の証は「自由」であることだと確信しておりますので、上映する自由、見る自由、見ない自由、意見する自由こそが最も重要であると考えております。これまでは当館が独自の判断で、「靖国」しかり、「ゆきゆきて神軍」なども上映してまいりましたが、今回は地元でのマスコミ試写会を2度も開催し、地元のマスコミさんのご意見をアンケート、ティーチインも行いました。
どうあれ、映画館の責務は、作品の是非、作品の賛否が自由に語られる日本であらねばならないと考えます。方針としては上映したいと思っています。この度の上映中止問題で一番の悲劇は、世界に冠たる東京が先陣を切って上映中止を表明したことです。先陣を切って上映します、と言って欲しかったです。(「靖国」の時もそうでした。)東京は危ないと感じられます。この「自主規制」が多方面に広がることが一番怖いと感じられます。そのことも問題にしたいのが地方の立場です。東京がいい見本を見せて欲しいということです。
『ザ・コーヴ』
初夏、全国順次ロードショー予定
2009年/アメリカ映画/91分/アメリカンビスタ/ステレオ/PG-12/原題:The Cove
監督:ルイ・シホヨス
出演:リック・オバリー 、ルイ・シホヨス ほか
提供:メダリオンメディア
配給:アンプラグド
[公式HP]
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