第25回 『ザ・レスラー』

小宮山雄飛の東京DVDライフ 第25回 『ザ・レスラー』


文章/小宮山雄飛
画/黒木裕貴

これまたすごい映画が出て来たもんです!
やっぱりアメリカは侮れないなあ・・・と、アメリカの底力を感じさせてくれる今回の作品はこちら

ザ・レスラー

この映画に関しては、主人公の老いたプロレスラーという役柄が、演じるミッキー・ローク本人の波瀾万丈の人生とダブるという評論をよく読みますが、僕はそこはあまり感じなかったですね。

僕には、老いたレスラーがミッキー・ロークではなく、アメリカそのものとダブって見えました。

プロレスという過激なショーでヒーローになり、ステロイド=薬物や家庭問題など様々な問題を抱えつつ、歳とともに衰退し、それでも心の平和よりも最後まで戦うことにしか生き甲斐を感じない。
これってアメリカそのものでしょ?

これ色々な意味で、『ロッキー』と根底では同じだと思うんですよ。

ロッキーとは内容が正反対じゃないか!と思う人もいると思いますが、ロッキーの時は、時代もイケイケで、あれこそがアメリカの姿だった訳ですよね。
今のアメリカは全く違う、奇しくもロッキー演じるシルベスター・スタローンがステロイドの不法持ち込みでオーストラリアで訴えられましたが、まさに今のアメリカって、過去の無理がたたって問題となってきてる時期だと思うんですよ。
その現状をそのまま描いたのが、このザ・レスラー。

だから、その時代のアメリカを描いているという意味ではロッキーもザ・レスラーも一緒。
80年代にアメリカをそのまま描いたらロッキーになった訳だし、今のアメリカを描いたらザ・レスラーになったという。

最も印象的だったシーンは、バーで主人公がストリッパーとRattの『Round and Round』(80年代のヘヴィメタの名曲)を聴きながら

「80年代の音楽は最高だった! ガンズンローゼズとか。90年代はつまらない、ニルバーナの登場が音楽をつまらなくしたんだ!」

これ、なかなか言えないセリフですよ(笑)
言いたい事は分かるんですよ、80年代の華々しいロックの時代から、90年代の暗いオルタナの世界へってのはね、一理あります。
しかし、ここまでそれをはっきり言った映画(しかもまさかのニルバーナ否定)は、たぶんなかったんじゃない?
映画ウェディングシンガーなんかでも80年代のPOPSがフィーチャーされてましたけど、80年代を表す場合ってだいたいカルチャークラブとかワムとか、イギリスのニューウェイブ系が多いんですよね、普通。
それがこの映画では80年代を賞賛する際にも、ガンズだって・・どこまでアメリカ好きなのよ、ほんとに。

しかも最後の試合では、入場曲にまさかの『スウィートチャイルドオブマイン』!
これにはビビった!
まさかこのタイミングでスラッシュのギターイントロを聴けるとは!

よくよく考えてみたら『スウィート・・』って、恋の曲でしょ?
これから戦うレスラーがそれで入場しちゃうって時点でめちゃくちゃ(笑)、とにかく80年代のアメリカの最高の『感じ』だけ出れば、歌詞とか関係ない訳ですよこの主人公にしてみたら。

ネタバレになっちゃうので結末は言いませんが、ラストシーンが終わった後、数秒間の真っ暗な画面があって、まさかのブルース・スプリングスティーンでエンドロール!
もう、かっこ良すぎというか、アメリカすぎというか、完璧なノックアウトですね。

もうひとつ気になったシーンは、落ちぶれてスーパーの肉売り場でバイトしてた主人公が「こんなことやってられっか!」って出て行くシーン。
たしかに表舞台から一転、スーパーで働くのは辛いだろうなと思うのですが(そう描かれてるのですが)、よくよく考えたらこのスーパーの他の従業員は毎日せっせと同じ仕事を文句言わずにやってるわけですよね。
なんで、この人だけ怒ってんだろう?と。

このシーンは、こういうセコい労働はメキシコ人にでもやらせておいて、アメリカ人はもっと派手で楽しい仕事をすべきなんだ!という、典型的なアメリカ人の気持ちを描いてる訳です。

つまりこの映画は、ほんとに見事に現代アメリカの悪い部分というかある種身勝手な部分を描いてる訳ですよね。
この映画のすごいところは、そんな自分たちの悪い部分すら映画というエンターテイメントにしてしまうという、ある種のパラドックス(パラドックスの使い方あってる?)

おそらくこの映画を見て、多くのアメリカ人は「そーだ!やっぱりアメリカ最高だー!USA!USA!」となにも悪びれずに盛り上がっちゃうんでしょうねえ、そこが問題だっつのに。それこそがアメリカのパラドックス(使い方があってれば・・・)



小宮山雄飛(ホフディラン)

ミュージシャン
1973年8月14日生まれ

1996 年「スマイル」でホフディランのVo&Keyとしてデビュー。「遠距離恋愛は続く」「恋はいつも幻のように」「欲望」「極楽はどこだ」など、ヒッ ト曲を多発し、FUJI ROCK FESTIVALへの参加、日本武道館でのワンマンライブを成功させるなど、ライブでも活躍。日本のポップシーンにおいて根強い人気を誇る。デビュー以 来、シングル19枚、アルバム9枚(ベスト盤含む)をリリースしている。

絶賛発売中のニューアルバム『ブランニューピース』(DVD付き初回限定盤)に収録されている『恋人たち』『ニューピース』のPVでは、自ら監督を 務めるなど、多才な一面を持つ。2009年7月3日には、渋谷C.C.Lemonホールにて、デビュー13周年記念ライブを行い大成功!その模様を収録し たライブDVD『13年の金曜日』においても監督を務め、11月4日にライブCDとともに同時リリース、絶賛発売中! 
RISING SUN ROCK FESTIVAL 2010 in EZOへの出演も決定!

2010年7月3日(土)
ホフディラン ワンマンライブ
『14年の土曜日』
会場:SHIBUYA-AX
open 18:00 / start 19:00
チケット料金:3980円(ドリンク無し!)
ワタナベイビープロデュースDVD第3弾発売&自ら手売り
ゲスト:ゆってぃ / and more…
問い合わせ:HOT STUFF 03-5720-9999
5/9からの一般発売に先駆けて、HP先行予約を受け付けます!
受付期間   4月19日(月) 12:00 ~ 5月5日(水) 18:00      
  ※専用URL http://eplus.jp/hoff-hp2/   
・ホフディラン HP http://hoff.jp/
・軟式ブログ http://blog.excite.co.jp/yuhi-blog/
・こむぞう http://comzo.cocolog-nifty.com/
・シコウヒンTV http://www.andsmile.tv/
・SHOOT UP http://www.shootup.net/

黒木裕貴(クロキユタカ)

東京生まれのイラストレーター。
CDジャケットや書籍・雑誌、アパレル等で幅広く活躍中。
また、影絵やコマ撮り作品をつくる映像作家としての顔も持つ。

official website http://www.kurokiyutaka.com/

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