【連載コラム】鶴岡亮のデンジャーゾーン! 第七回 今だからこそプレイすべき「ライフ・イズ・ストレンジ」

【文・鶴岡亮】

鶴岡亮Twitter:https://twitter.com/ryoutsuruoka

今回は9月3日にスクウェア・エニックスより日本国内で続編のローカライズもアナウンスされたアドベンチャーゲーム「ライフ・イズ・ストレンジ」を紹介しよう。

「ライフ・イズ・ストレンジ」はパブリッシャー「DONTNOD 」が開発し、ローカライズと販売を「スクウェア・エニックス」が務めたアドベンチャーゲームだ。

主人公の名はマクシーン・コールフィールドことマックスという冴えない女子学生。シアトルから田舎町アルカディア・ベイに5年ぶりに帰郷したマックスは、写真を学ぶべく地元のブラックウェル高校に編入する。そこでかつての親友クロエ・プライスを見かけるが、彼女は同級生のネイサン・プレスコットと口論になり、感極まったネイサンは隠し持っていた銃をクロエに向けて発砲してしまう。クロエが銃弾に倒れたその時、突如マックスの身に時間を巻き戻す能力が覚醒!マックスはその能力を使ってクロエを救った。クロエによると親友マックスが去った5年間、彼女は新たな親友レイチェル・アンバーと過ごしていたが、六か月前から急に行方不明になったと云う。マックスはクロエと共に行方不明になったレイチェルを捜索すべく、懐しくも不穏な空気の漂う故郷アルカディアベイの街を駆け巡る。

本作のキモとなるのは主人公マックスが使う特殊能力「時間巻き戻しシステム」だ。この時間巻き戻しシステムは操作が非常に単純でR2ボタンを押しっぱなしにするだけで発動が可能だ。例えばマックスの前で親友のクロエが撃たれる時にR2ボタンを押すと、クロエが撃たれる前の時間に巻き戻して彼女が撃たれる状況を変化させる事が出来る。わかりやすく言えばビデオテープを巻き戻す感覚に近い感覚のシステムだ。主人公マックスはこの能力を使ってアルカディアベイを探索し、彼女や周りの登場人物が危機に陥る状況を未然に阻止していくのだ。

巻き戻しシステム以外で云うと、本作は刃物や銃を使うアクションゲームと違って、街を歩き回り、周りに配置されてるオブジェクトを調べたり、登場人物達と会話する等、非常に地味な仕様のゲームになっている。しかしこれには理由があって、主人公はステレオタイプなアクションゲームの主人公では無く非力な学生な為、タダの学生相応の行動しか出来ないという演出の為だ。マックスがGTAのようにいきなり無差別に住民に危害を加える事が出来てしまうと、それこそマックスの地味で非力な学生というキャラクター性が崩壊してしまう。だからこそGTAの自由性に富んだゲームデザインではなく、敢えて学生相応の限定的な行動しか出来ない制約を付ける事で、マックスのキャラクター性を護りつつプレイヤーに学生を操作しているという没入感を与えているのだ。

アルカディア・ベイはオレゴン州の架空の田舎町で、ブラックウェル高校、マックスの寮、クロエの家、空き地、ダイナー、灯台等様々な環境が存在し、そこに存在する人々と共に若干水彩画のタッチを施したようなモデリングで再現され、他の作品では味わえない独特の質感を表現している。それらの環境にはそこに住む人々の使ったオブジェクトが随所に設置されており、生活感溢れる世界が広がっている。例えばマックスの学生寮では、主人公マックスの使うパソコンや家族との写真、育てている植物、お気に入りのCDが入ったオーディオ機器等様々なオブジェクトが設置されていて調べる事が出来る。オブジェクトを調べる毎に彼女の固有の想いが語られ、普通のゲームなら表面的なディテールのみのオブジェクト一つ一つにドラマがあり、世界観にライフサイクルを感じさせる効果が施されている。彼女がそれぞれのオブジェクトへの想いを悟る時の声優「たなか久美」の演技も素晴らしく、飾り気の無い等身大の学生感を自然体で演じていてマックスのキャラクター性を上手く表現している。

ドラマ面はマックスとクロエの2人の友情を基本にしたストーリーが展開される。マックスは地味で目立たない根暗な性格で、クロエはパンクなファッションに身を包んだ能動的な性格で正反対の性格だ。クロエ役の「Lynn」も攻撃的であるが繊細な心を内包している彼女のキャラクターを見事に表現している。この凸凹コンビがクロエの親友レイチェルを捜索すべく協力するのだが、その展開は「ツイン・ピークス」や「ドニー・ダーコ」「バタフライ・エフェクト」「アデル・ブルーは熱い色」のようなサスペンス、青春ドラマの影響を思わせるものがある。しかし、普通のドラマなら見ているだけで登場人物が勝手に話を進めていくが、今作ではプレイヤーが主人公を直接操作する事により、彼女達のドラマをタダ「観る」のでは無く「体感」している感覚に陥れる。彼女達のドラマを体感するのに一役買ってるのが、ゲーム中頻繁に訪れる「選択肢」で、自分が選んだ選択肢の結果がストーリーの今後に左右するので、毎回「この選択で良いのか?」「あの時の選択は正しかったのか?」と自問自答させるのだ。特に人の生死に関わる選択肢は緊張感を伴う局面が多く、物語にプレイヤーを引き込む効果を与えている。まさに彼女達のドラマを「観る」のでは無く「体感」している感覚に陥れる。特に物語最期の選択肢は最近の映画作品で云うと「天気の子」に通じる究極の選択が待ち受けているので本作は今やるべき「旬」なアドベンチャーゲームといえるだろう。最期の究極の選択肢はどちらの選択肢を選んでも筋の通った話になっていて、どちらかがおまけのIFストーリー的シナリオになってないのも本作が優れた作品である証左だろう。

マックスとクロエ以外の登場人物も魅力的なキャラクターが登場する。熱心なキリスト教徒でありながら心に深い傷を負ったケイト・マーシュ、いつも不幸な目に遭うがマックスに時間戻しで助けて貰うアリッサ・アンダーソン、いつも校庭でドローンを飛ばしているオタク少女ブルック・スコット、独特の感性を持ち、時折メンターとして助言を与えてくれる用務員のサミュエル・テイラー、特に科学科のウォーレン・グラムはマックスに気があり、彼女にアプローチを試みてくるのだが「ウルトラヴィクセン」や「猿の惑星」「CGアニメ版ファイナルファンタジー」を一緒に観ようと誘ってしまうドオタクであり、映画オタクなら他人事とは思えなくなってしまう事請け合いだ(笑)今作では多彩に富んだ登場人物が登場し、それぞれのプレイヤーが好きになるキャラクターが出来ると思うのでそちらもチェックして欲しい。

エピソードは全部で5つが収録されていて、編成は海外ドラマを思わせるものになっている。1チャプターをクリアする毎に「前回までのライフイズストレンジは…」という海外ドラマお得意の前回までの内容を振り返る冒頭のナレーションから始まるので、途中までプレイして暫く放置してても、この導入のおかげで内容を思い返すことが出来るので、ハードコアゲーマーのように一気に全チャプターをプレイしてしまう人だけでなく、じっくりと間を置いてプレイしたいライトユーザーにも親切な仕様になっている。

ライフイズストレンジの場面場面で雰囲気を盛り上げてくれるのが音楽の存在だ。マックスが登校時に流れるカントリーソングをイメージした「Syd Matters-To All Of You」やマックスやクロエの友情を感じさせる時に流れる「Obstacles-To all of you」や柔らかさを感じさせつつも感傷的な曲調の「Syd Matters-Obstacles」日暮れを見つめる登場人物達のバックで流れり荒涼とした曲調の「Local-Natives-Mt.Washington」等々これらの楽曲は青春のあの時だけのかけがえのない思い出感を演出する効果を発揮している。本作プレイ後にかけがえの無い友との思い出を振り返るアルバムを観るように聞き直したくなる事請け合いだ。

田舎町アルカディア・ベイを舞台にした街並み、数々の選択肢がもたらす緊張感、マックスとクロエの青春物語、青春の1ページを彩る魅力的な音楽群で作られた「ライフ・イズ・ストレンジ」はプレイ後に心に残る一本になる事を保障しよう。

今作はマックスとクロエの「青春」をテーマにした作品だが、前日談である「ライフ・イズ・ストレンジ・ビフォア・ザ・ストーム」も存在する。今作が気に入った方はそちらもプレイしてはどうだろうか。そして続編である「ライフ・イズ・ストレンジ2」はメキシコ系移民の兄弟が救いを求めて過酷な差別と戦いながらメキシコに向かう「ロードムービー」のような作品となっている。次回作もキャラクターやテーマ性が違えど今作のように心に突き刺さるドラマを期待したい。

ライフ・イズ・ストレンジ公式サイト https://www.jp.square-enix.com/lis/

ライフ・イズ・ストレンジpsstore販売サイト https://store.playstation.com/ja-jp/grid/PN.CH.JP-PN.CH.MIXED.JP-160303LIS/1

ライフ・イズ・ストレンジ・ビフォア・ザ・ストーム公式サイト https://www.jp.square-enix.com/lisbts/

ライフ・イズ・ストレンジ・ビフォア・ザ・ストームpsstore販売サイト https://store.playstation.com/ja-jp/grid/PN.CH.JP-PN.CH.MIXED.JP-CATEGORY00002310/1

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