ポンコツ野郎の人生にフリーダムファイト! by ジャンクハンター吉田 第7回 『ヘンリー』のブルーレイを購入し、マイケル・ルーカ―熱が沸騰

かねてより欲しかったキングレコードから発売中のジョン・マクノートン監督のデビュー作(1998年の『ワイルドシングス』以降はパッとした作品はないが、最近は地元シカゴの学校で映画の授業を行なう講師を務めている)『ヘンリー』(ヘンリー ある連続殺人鬼の記録)のブルーレイソフトを購入し、その円盤の中身をしゃぶり尽くした。

観るのは以前マクザムから発売されたDVD版を当時即購入して鑑賞した以来なので7~8年ぶりぐらいかな。一見すると悪そうなツラしたゴリラ顔マニアなので(マーティン・コーヴやデヴィッド・ハーバー含む)マイケル・ルーカ―はその中でも演技面で大好きな役者でもあるので、必然的に『ヘンリー』に惹かれるようになった。

本編の内容は実在の連続殺人鬼ヘンリー・リー・ルーカスに焦点を当てて、独自のアレンジを施した非エンタメ性、というよりも作家性の色濃い特に起承転結な映画的文法通りに描かれた作品とは程遠い連続殺人鬼ムービー(ホラー映画の枠に入れるのもちょっと違う気がするんで)。ジェイソン・ボーヒーズやマイケル・マイヤーズ、フレディ・クルーガーのような非現実的でポップアイコンになりそうな殺人鬼とは対極に位置し、心に闇を抱えた殺人鬼が女性を殺さずにはいられない衝動に駆られる……言うなれば現実にいてもおかしくない殺人鬼のヘンリーが主役の救いようのない物語になっている。

本作は1986年に作られるも3~4年間、出資者の望むようなエンタメ性高いホラー映画からかけ離れていた内容とMPAAがR指定ではなくX指定にしたおかげでアメリカでは劇場公開されず塩漬けされていたことに驚かされる。と同時に、演劇の仕事をしながら奥さんの紐生活に近いバイト人生だったヘンリー役のマイケル・ルーカ―の映画デビュー作でもある。

筆者がルーカ―を最初に意識したのがアル・パチーノが出演したハロルド・ベッカー監督作『シー・オブ・ラブ』。ルーカーが無名だったからこそ成り立った役としかオチでネタバレしてしまうのでこれ以上書けない。個性的な表情、特徴あるハスキーがかった高音ボイス。一度見たら気になって仕方なくなる素晴らしいバイプレイヤーだが、『ヘンリー』での劇場デビュー作に主演……だが、連続殺人鬼役という素晴らしすぎる選択は正しかったと思うし、悪役(憎まれ役)人生=ハリウッドの悪役商会におけるその後の第一歩を踏み出した名誉と言えるのではなかろうか。

ルーカー本人は『デイズ・オブ・サンダー』と『クリフハンガー』でトム・クルーズ、シルヴェスター・スタローンと共演したことや、『JFK』で大御所俳優たちと共演し、眠っていたミーハー心に火が点いたようで、さまざまなビッグショット(大物)と各映画で一緒にできたことを大変誇りに思っているのが可愛らしい(笑)。さすが銀幕の世界に憧れていた演劇界の舞台俳優出身。

何かのDVDの特典で話していたのか、海外の雑誌のインタビューだったか忘れたが、アンドリュー・デイヴィス監督と親しかった無名時代『刑事ニコ 法の死角』にチョイ役で出演した際のことを振り返り「何も演技経験なかったスティーブン・セガールが合気道の達人と言われ突然主演に抜擢されていたが、是非この俺に悪のボスを演じさせ、最後は合気道対決をさせてくれる作品を誰か撮って欲しい。そしてチャンスが欲しい。なぜならば実は俺も合気道は彼に負けないほど有段者なんだよ。映画で見せる機会がないだけで」と、セガール自身が主演作(B級映画)で出演する際にお金を出したり集めたりするプロデューサーを務めていることを知ってルーカーが語っていたのが印象的すぎて格闘技好きとして記憶に刻まれていたが、気が付くと二人とも60歳を超えたシルバー世代なお爺ちゃんになってしまったんで今から実現は不可能なのが本当に悔やまれる。ちなみに『ヘンリー』『レンタ・コップ』『ミシシッピー・バーニング』『シー・オブ・ラブ』と悪役三昧なルーカーを観てから『メイド・イン・LA』での熱血刑事役を見ると没個性に感じて拍子抜けするはず。

そんな『ヘンリー』のブルーレイだが、連続殺人鬼ヘンリー・リー・ルーカスのことはご自身でネット検索して調べて欲しい(コラムで書くほどのもんじゃないと判断したら遠慮なく突き放します)。本編はザラザラした画質で80年代のインデペンデント作品を存分に感じさせてくれる。特にシカゴを映し出す硬質的な映像描写がブルーレイだとより際立つ。何度観てもヘンリーとオーティスが家庭用ビデオカメラ(どうやらVHSではなくベータビデオっぽい)を使って一家惨殺するワンカットで撮影された映像が不気味かつ不快すぎて心底具合悪くなるが、その後のホラー映画界に与えた影響は計り知れない。スタンリー・キューブリックの『時計じかけのオレンジ』で家庭へ不法侵入したシーンをもっとエグくした感じを意識しているのがわかるが、あまりにもリアルすぎて怖い。個人的に『ヘンリー』最大の見せ場はここと生首切り取りシーンかな。それとマクノートン監督が大学でアートを学び、芸術に興味を示していたことも重なり、『ヘンリー』では数々の死体の描写(直接的殺害描写のない映像箇所)が静かにじっくりと描かれており、まさしく殺害アートの域に達していると実感させられる。それはブルーレイで改めて観てから得た感想。

ブルーレイへ収録されている特典はマクノートン監督の本編音声解説、1998年に行なわれた監督インタビュー(30分)、本編未使用映像のアウトテイク(21分)、ブルーアンダーグラウンドが制作したメイキングドキュメンタリー(52分)、全英映像等級審査機構の検閲(27分)、『ヘンリー』対 米国映画協会(10分)、ダークスカイフィルムズが制作した『ヘンリー』作品分析(20分)、ジョン・マクノートン監督対談(28分)、一番最初に『ヘンリー』のポスターデザインのイラストを担当したジョー・コールマンのインタビュー(8分)に加え、30周年記念予告編と劇場オリジナル予告編が収録と、かなりのボリューム。

中でもおススメは27分もある全英映像等級審査機構の検閲。アウトテイクやメイキング部分は購入したら大抵の人は観ると思われるが、こちらはホラー映画好きと自称するならば確実に観なくてはいけない映像となっているから決してスルーして欲しくない。日本で言うところの映倫、米国で言うところのMPAAと同じ英国独自の審査機構BBFCの一方的に独裁過ぎる映像の削除に関して歴史を紐解くよう説明してくれている。確かにBBFCの存在は知っていたけども、ここまで具体的に酷いことをしていたとは一切知らなかった。80年代末にトニー・メイラム監督の『バーニング』を英国の映画雑誌読んでこのVHSを個人輸入した際(確か15,000円ぐらいかかった記憶が)、到着したビデオがゴア描写がところどころ切られていて、75分ぐらいしか尺がなく、わざわざPAL仕様のVHSデッキ持っている方の自宅へ行ってみんなで観てガッカリした覚えがある。その時からBBFCの存在が煙たかったので、特典映像でBBFCが80年代に行なっていた検閲しまくる舞台裏事情を知れたのは個人的だが大変勉強になった。

音声解説では(マクノートン監督の話は他の特典でも重複しているが)10万ドルでホラー映画であれば何を撮っても良いとチャンスを与えられ、映画なんか撮ったこともない大学ではアートを専攻していた素人が撮影に至るまでを語っていて興味深い。話を聞いていると映画監督になった生い立ちが鶴田法男監督のようでとても親近感沸いてくる。低予算なのにもかかわらず、目玉にクシを差すシーンを撮るために700ドル使ってオーティスのダミーヘッドを作ったがそのシーンだけではもったいないと思い、浴槽で首を切断するシーンを急遽付け加えたってエピソードが最高。

こんなことを書く機会はあまりないし、筆者の中だけで眠らせておくのももったいないと思い、折角なのでマクノートン監督が特典でも語っている『ヘンリー』2時間半バージョンのことに付いて触れてみたい。

『クロウ 飛翔伝説』の撮影中になぜか実弾の入った拳銃に差し替えられてしまったことでブランドン・リーが腹部を撃たれて死亡する事件があった。その後、映画が公開される前に、全米各所で開催されているSFやホラー系のコンベンションで配給元のミラマックスから流出したと思われるマイケル・マッシーが誤射し殺してしまった映像部分だけを収録した海賊版VHSが闇ルートのみで流出。筆者も現地でコンベンションに参加した際こちらを30ドルで購入したが、たった3分程度しか入ってなくて、ガンエフェクトを仕掛けてないのに腹部から血がダラダラ出ていくブランドンの様子を見たマッシーが「オーマイガーッ!」と叫びながら泣き崩れるシーンが印象的な映像だった……。

ディーラーたちに話を伺うとそれ以前の80年代半ば頃から海賊版は当然売られていたものの『クロウ』の3分ほどのアウトテイク映像が100ドルでも買う人が出てきたりして売れまくったのを皮切りに、このようなコンベンションで物販を行なっているディーラーたちがこぞって海賊版の販売を闇で手掛けるようになっていったのだ。

特に闇販売されていた売れ筋は上映中の映画をビデオカメラで生撮りしたVHSかと思いきや、映画スタジオの関係者から流出したワークプリント版。大半がタイムカウンター入りの素材だったが、劇場公開される前の未編集素材が多かったことからマニアが沢山食いついて売れまくったと言う。その頃筆者がワークプリント版を貪るように買いまくったが記憶にあるのは『地獄の黙示録』が5時間半あるVHSテープ3本組だったり、ソフト化されたが『ブレードランナー』や『エイリアン3』、『悪魔のいけにえ2』が有名どころ。ドラマパートが増えていた『羊たちの沈黙』や倒錯描写がゴッソリと削られる前の『ビデオドローム』、血みどろゴア描写満載だった『ハード・ターゲット』、変わったものではCGや合成される前の粗編状態な劇場公開版よりも尺が長くなっている『クリフハンガー』や『スターシップ・トゥルーパーズ』など、90年代半ばから終わりにかけてコンベンションは海賊版VHSにお宝が眠っていたアンダーグラウンドな文化があった事実を知ってもらいたく長々と説明。

DVDやブルーレイ化されて一部の映像は現在観られる環境にはなったが、ワークプリント版は撮影した素材を監督自らが最初に繋いで一本にした作品になるので、真のディレクターズカット版の立ち位置。2000年代に入ってVHS→DVDへと海賊版自体もメディアはテープから円盤ディスクへと移り変わり、現在も細々とコンベンションへ行ってディーラーに「何かブートレグの珍しい映画はないか?」と聞けばブースへ陳列していなくても段ボールからこっそり出して見せてくれることは良くある。気になる方は是非頑張って珍品海賊版DVDを入手して欲しい。これもハリウッドの映画村社会な裏文化でもあるのでね。

と、前置きがかなり長くなったが『ヘンリー』の2時間半のバージョンはワークプリント版を指しており、たまたまコンベンションで流出していたVHSを当時購入し劇場公開版と見比べていた。なぜかというとあまりにも劇場公開版とワークプリント版の尺の違いが気になったからである。

さすがに25年ほど前なのでVHSは手元にないから覚えている記憶だけで書くことになるが、正確な尺は145分だったはず。モノクロ映像で画質はとても汚く、セリフもなかなか聞き取れないほどのVHSがまるで本物のスナッフフィルム(殺人映画)を観ているような雰囲気に。特典映像や音声解説でわかったのだが、ビデオカメラで編集機材用のモノクロモニターを直撮りしていたからだと知って衝撃を受けた。エンドクレジットはなく、ヘンリーがスーツケースを道端に捨ててクルマで走り去る最後は一緒。ブルーレイのアウトテイク集には21分ほど収録されている映像がそのワークプリント版にも当然入っていて、購入した海賊版VHSには音声もしっかり残っていた。ブルーレイの特典映像では音声トラックを紛失しているため、マクノートン監督がシーンごとに解説しているがあまりにももったいない。と考えると監督すらそのワークプリント版は所有していないんだろうと思われる。

83分前後に大幅カットされた劇場公開版は確かに無駄な映像もなく凄まじく早いテンポで物語が進んでいったが、ワークプリント版はクルマでシカゴの街並みを流すシーンがかなり多く収録されており、『タクシードライバー』のマーティン・スコセッシ監督を意識しているようにも感じられた。そのほか目立った部分だとヘンリーとオーティスのドラマパートが結構長くマッタリと収録(見ていてちょっと飽きた記憶がある)。二人は刑務所で知り合ったがその頃から男同士で肉体関係に発展し(アメリカの刑務所ではこれが普通)、一緒に暮らしている恋人同士だったからとの説明が妹のベッキーへやんわり匂わせるシーンもあり、ベッキーは自分と同じく闇を抱えていることから男としてヘンリーへ惹かれていくようになり、元々ベンリーと恋人関係にあった両頭使いな兄のオーティスは嫉妬心が芽生えてブチ切れるシーンといった三角関係のもつれっぽい部分もあった(はず)。オーティスは刑務所から出所後に女性との関係がないことでムラムラしながら「俺は男でも女でもどちらでも対応できるんだよ」ってセリフがあったのが笑えたっけなぁ。最終的に同性愛パートに関してだと、劇場版ではオーティスがマリファナを高校生へ売る際に太腿へ手を置いたシーンのみ活かされて大幅削除されていたのは残念。

ベッキーをレイプしようとするシーンの前にも「ヘンリーは俺の恋人なんだ。お前には絶対渡さねーからな!」と言い、お仕置きとばかりにヘンリーがタバコを買いに行って不在の間にレイプしようとする説明のくだりもあったがそちらもカット。あと覚えているのはオーティスがヘンリーと一緒に殺人する楽しさに目覚める前のパート。ヘンリーが一人で女性や男性を手あたり次第に殺害し死体を遺棄するシーンも大幅に削られていた……ちょっと記憶曖昧だけど死体が放置された映像は合計で10数体あったと思った。

というわけで劇場公開版はかなり被害者の数が削られていたんだが、今こうやって当時VHSで観たワークプリント版を思い起こすと、ヘンリーやオーティスの説明的セリフをほぼカットしたことが良い結果へ繋がっんだなと感じた。ヘンリーが無機質なまでに乾いた殺人的衝動に駆られ淡々と人を殺していく描写。説明がないだけに恐ろしさが際立った演出へと生まれ変わった結論にたどり着く。劇場公開版のほうがヘンリーの持つ殺人的本能含め人物像を不明にしたことが見てはいけないものを見てしまった感を彷彿とさせ、より怖さが増す作品に仕上がっているようで満足な出来映え。短い尺でコンパクトにまとめた劇場公開版の存在が輝いているのは間違いないが、インデペンデントな制作体制だったからか、映像素材等の紛失も多く、ワークプリント版がこの世には海賊版しか残っていないのが悲しくなってしまう。まるでMPAAから残虐描写へ難癖付けられたりプロデューサー陣と揉めたことで本編以外のフィルム素材がほとんど破棄された『悪魔のいけにえ2』のようだ……。

あ、『ヘンリー もう一つの連続殺人鬼の記録』なる続編が存在しているけど、監督も代わり、マイケル・ルーカーがヘンリーを演じていないので観てないんだよね。どんなキャラクターへ変貌しているか気にはなっているけども……『ヘンリー』のブルーレイに収録されている音声解説でマクノートン監督本人が続編の脚本に着手していた事実を知る。内容はヘンリーが警察に捕まって収監されてしまうも、犯罪捜査への協力などマスコミに担ぎ上げられてヒーロー扱いされる続編……ん? あれ? やっぱりマクノートン監督はトマス・ハリス原作の『レッド・ドラゴン』が好き過ぎて『ヘンリー』を撮る時も色々模倣したと言っていたからこの内容で続編が作られていたらヘンリーがハンニバル・レクター博士と同じ立ち位置になってしまうじゃないか(オイオイ)。

コメント

  1. ゴールドE より:

    劇中でビデオ撮影するシーン好き。BGMが古く感じて気になった。ケチってアマゾンのレンタルにしちゃったんで特典あきらめた

タイトルとURLをコピーしました