第48回NY映画祭レポート PART2

 


アッバス・キアロスタミ最新作『贋作』より



映画祭と言えば、嬉しいのは監督や俳優らによるQ&Aがある事。一般の客でも制作者に直接新作映画について質問出来るチャンスだ。また近年目立ってきているのはスカイプを通じて質疑応答を行う「スカイプ記者会見」。これは主に記者会見にスケジュールの都合が合わない監督に用いられており、今まで監督の都合が合わなかったら質疑応答無しとなるところが、テクノロジーの発達により、会場外からでも質疑応答が可能になった。もちろん会場に訪れて欲しいが、無いよりはあったほうがもちろん良い。







さて、ニューヨーク映画祭ではオープニングナイト、センターピース、クロージングナイトの3つの作品を中心にメインスレートが展開する。毎年豪華な作品がその枠に名を連ね、今年はオープニングナイトにデヴィッド・フィンチャーの『ソーシャルネットワーク』、センターピースにジュリー・テイモアの『テンペスト』、クロージングナイトにクリント・イーストウッドの『ヒアアフター』が選ばれた。なかなか目にする事の難しい大物監督と共に華やかな俳優達が登場するのも本映画祭の魅力だ。
『チューズデイ、アフター・クリスマス(英題:Tuesday, After Christmas)』

ルーマニアの映画監督ラドゥ・ムンティーンの手掛ける異色作。若い女性と不倫関係にある男がその不倫相手と妻との間で選択を迫られる物語なのだが、なんと約100分の映画の中でカットはたった30程しかないのだ。また俳優達のリアルな感情を捉えているかの様な演出が見事。そのため、演技はアドリブではないかと思わせられるが実はほとんど脚本通りなのだそうだ。この監督ただ者ではない。
『サイレント・ソウルズ(英題:Silent Souls)』

ヴェネチア国際映画祭で撮影賞を受賞したロシア映画で、主人公アイストが妻を亡くした友人ミロンとメーリャ葬を行うため聖なる湖へと旅に出るロードムービー。神話と伝統を重んじるメーリャ人の思想は中央ロシアの特定の地域には今だに残り、その習慣通りにミロンはアイストに妻との思い出を語ってゆく。そして彼らが湖に着く時、ある秘密が明らかになる。監督アレクセイ・フェドルチェンコの放つ本作は詩的な真の芸術作品。
『贋作』

アッバス・キアロスタミ最新作。イタリアはトスカーナ地方のとある町をを舞台にした大人のコメディドラマ。イギリス人の有名作家とフランス人のギャラリーのオーナーが町を巡りながら物語が展開していく。どことなく『ビフォア・サンセット』を思わせる作りで、2人の間で交わされるウィットに富んだ会話が見どころ。主演のジュリエット・ビノシュの演技が素晴らしい。
『インサイド・ジョブ』

アカデミー長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた『ノー・エンド・イン・サイト』で注目を集めた映画監督チャールズ・ファーガソン最新作。2008年のリーマン・ブラザーズの経営破綻を発端になぜ世界が金融危機に陥ってしまったのかを、それに関わった当事者たちに直接インタビューして明らかにしていくドキュメンタリー映画。複雑なテーマを分かりやすく説明してくれるため、是非多くの人に観ていただきたい作品だ。それにしても、あれだけ多くの重要人物達を登場させたのは凄すぎる。マット・デイモンがナレーションを務めているのも面白い。
『テンペスト』

有名なシェイクスピアのロマンス劇を『タイタス』『アクロス・ザ・ユニバース』の映画監督ジュリー・テイモアが映画化。プロスペローがヘレン・ミレン扮するプロスペラーとなり、父と娘の物語から母と娘の物語になっている事や、主なロケーションがハワイである事、またコスチュームがレザーであるなど興味深い点は多々あるが、物語の舞台となる島の精霊で、島そのものを意味するアリエルに扮するベン・ウィショーが実際にハワイに行かず、ブルースクリーンを使い撮影し、後で合成しているため妙な違和感を残す。



現地レポート:岡本太陽

コメント

タイトルとURLをコピーしました