映画レビュー 実在したボクサー、ミッキー・ウォードの苦悩と再生を描く感動作『ザ・ファイター』



『英国王のスピーチ』に並び、俳優の演技が際立つデヴィッド・O・ラッセル監督作『ザ・ファイター』。本作ではアルツロ・ガッティとの名試合等で知られる”アイルランドの稲妻”の異名を持つアメリカ人のボクサー、ミッキー・ウォードの苦悩と再生が描かれ、主人公扮するマーク・ウォルバーグをエイミー・アダムス、見事今年のアカデミー助演男優賞受賞のクリスチャン・ベール、そしてアカデミー助演女優賞受賞のメリッサ・レオという演技派俳優が取り囲み、稀有な演技の化学反応を見せつける。

ミッキー・ウォードの生まれ育ったマサチューセッツ州の町ローウェルは1度は繊維業で栄えた。しかし、時代と共に町は活気を失い、失業者も増えガラの悪い町へと変わってしまった。そんな町でプロボクサーのミッキーは唯一の明るい話題で、彼の母アリスと7人の姉たち、そして元プロボクサーの兄ディッキーは自慢のミッキーに付きまとい何かとトラブルを招く。

減量や髪の毛を抜くなどの徹底した役作りと怪演で強烈な印象を与える本作のクリスチャン・ベール。彼扮するディッキーは、リングを去った後もかつての栄光が忘れられず、ドラッグに逃げ、町の厄介者になってしまった。それでも真面目でしっかり者のミッキーは、そんな兄でも見放さず愛し続ける。しかし、ある晩ミッキーに悲劇が降り掛かる。ディッキーが犯罪を犯し警察に逮捕されようとしているところにミッキーが助けに入ると、警察にミッキーは2度とボクシングが出来ない程、手に大怪我を負わされてしまう。刑務所入りする兄と、家族への不信感を募らせる弟、 栄光と挫折を経験した2人のファイターはそこからどうやって這い上がるのか。

本作は実話を基にした感動作だが、『スリー・キングス』『ハッカビーズ』を手掛けたデヴィッド・O・ラッセルらしく実はコミカルなシーンも盛り込まれているのだ。例えば、ミッキーのガールフレンドのシャーリーン(エイミー・アダムス)は彼の未来のため、ミッキーに辛い思いばかりさせる家族との交流を断たせ、リングへの復帰に集中させる。それが気に入らないメリッサ・レオ扮するおばちゃんパワー全開の母は娘全員を引き連れてシャーリーン宅に殴り込む。負けてられないシャーリーンはそれに応戦。女たちは掴み合いのキャットファイトを繰り広げる。

ボクシングよりも、優し過ぎるがゆえに家族に振り回されてしまうミッキー・ウォードの悲しい性や、家族ドラマが濃密に描かれる本作。それでもやはりボクシングの試合にはこだわりがあり、テレビのマルチカメラで撮影された試合のシーンは、映画を一端離れ、まるで試合中継を観ている様なリアルな高揚感を演出する。また、ミッキーそして、彼のサポートをするディッキーの魂の荒ぶりさえも捉えているかのようだ。

レビュアー:岡本太陽

『ザ・ファイター』
丸の内ピアデリーほかにて公開中
出演:マーク・ウォールバーグ『ディパーテッド』
クリスチャン・ベール『ダークナイト』
エイミー・アダムス『魔法にかけられて』
メリッサ・レオ『フローズン・リバー』
監督:デヴィッド・O・ラッセル『スリー・キングス』 
原題:THE FIGHTER/2010年/アメリカ/カラー/シネスコ
ドルビーデジタル・ドルビーSR/約116分/字幕翻訳:林完治
提供・配給:ギャガ 
powered by ヒューマックスシネマ
公式サイト:http://thefighter.gaga.ne.jp
(C)2010 RELATIVITY MEDIA. ALL RIGHTS RESERVED.

コメント

タイトルとURLをコピーしました