映画レビュー アカデミー賞を制するか!デヴィッド・フィンチャー最新作『ソーシャル・ネットワーク』




全世界に5億人を超えるユーザーを持つfacebook(フェイスブック)。その創設者で、世界最年少の億万長者となったマーク・ザッカーバーグは、ハーバード大在学中の当時19歳で、学生を対象としたネットワークとして現在のfacebookの基盤となるサイトを立ち上げた。2006年には一般者へサイトを開放し、その人気は急速に世界へ広がった。映画『ソーシャル・ネットワーク』では、もちろんどうやってfacebookが出来たのかを知る事が出来るが、物語はそこに焦点を当てず、ユーモアに溢れた、ちょっぴり切ない青春群像劇に仕上がっている。
インターネットで全てが可能な時代に、若者達が野心を抱き、成功や裏切りを経験する本作。そのエモーショナルな演出は特に、『アメリカン・グラフィティ』等の80年代に多くあった青春映画を彷彿とさせる。また、本作でとりわけ印象的なのは、そのユニークなストーリー展開だ。日本が誇る巨匠黒澤明監督の『羅生門』と同じく、1つの出来事を3つの視点で語り、真実を曖昧にするのだ。主人公マーク(ジェシー・アイゼンバーグ)、彼の親友エドゥアルド(アンドリュー・ガーフィールド)、そして双子のウィンクルボス兄弟(アーミー・ハマー)とその友人ディビヤ(マックス・ミンゲラ)がその3つの視点だ。ベン・メズリック著、エドゥアルド目線のノンフィクション「The Accidental Billionaires」を基に、真実を並べるだけでなく、ドラマ性を重視したアーロン・ソーキンの巧みな脚本が素晴らしい。
本作の監督は『セブン』『ファイト・クラブ』『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』デヴィッド・フィンチャー。
殺人や暴力を扱った作品等が多いため、それらを決して扱わない本作は彼の作品としては異質とも思えるが、フィンチャーいわく、脚本があまりにも良かったため、監督を引き受けたのだという。本作は特に登場人物たちのバックグラウンドを描かず、若い頃は誰だって血気盛んで愚かな事を繰り返すという不偏さを持たせ、facebookという世界最大のソーシャルネットワーキングサービスを違う目線で見る機会を与えている。
ひょんな事から始めたウェブサイトがみるみるうちに拡大し、マーク・ザッカーバーグの名は一気に世界に知れ渡った。しかし、数年前までは1人のオタク少年だった彼の成功の代償は大きく、親しい者は彼から去った。本作ではマークはヒーローとして描かれるどころか、半ば悪者として描かれ、facebbokにネガティブな印象すら受けてしまう人も少なくないはず。成功の2文字は富や名声を呼ぶ傍ら、残念な事に孤独をも引き入れてしまうのだ。ザッカーバーグ氏をはじめ、マイクロソフト社のビル・ゲイツ、映画監督のスティーヴン・スピルバーグというような今日の世界を動かす成功者は、『市民ケーン』の新聞王チャールズ・フォスター・ケーンがそうだった様に、孤独なものなのだろうか。
ところで、年も明けそろそろ賞レースの行方が気になる今日この頃、すでに『ソーシャル・ネットワーク』の活躍は始まっている。まず第76回ニューヨーク映画批評家協会賞では作品賞と監督賞を、第36回ロサンゼルス映画批評家協会賞では作品賞、監督賞、脚本賞を、また第82回ナショナル・ボード・オブ・レビューではなんと作品賞、監督賞、主演男優賞、脚色賞と主要部門を独占している。これから発表される、アカデミー賞の行方に最も近いとされるクリティクス・チョイス・アワードやゴールデン・グローブ賞にも大きな期待が掛かる。『英国王のスピーチ』や『ブラック・スワン』といった強豪が立ちはだかるが『ソーシャル・ネットワーク』の勢いを止めるのは難しいだろう。
レビュアー:岡本太陽

『ソーシャル・ネットワーク』
1月15日(土)丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
世界最大のソーシャル・ネットワーキング・サービス、”フェイスブック”をハーバード大学寮の一室から始めた19歳のマーク・ザッカーバーグ5億人の友達を創った男は、何を手に入れ、何を失ったのか
監督:デヴィッド・フィンチャー 
製作総指揮:ケヴィン・スペイシー 
脚本:アーロン・ソーキン
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、アンドリュー・ガーフィールド、
ジャスティン・ティンバーレイク、ルーニー・マーラ  ほか
原作:ベン・メズリック著「facebook 世界最大のSNSでビル・ゲイツに迫る男」(青志社)
全米公開:2010年10月1日  原題:The Social Network 
公式サイト:http://www.socialnetwork-movie.jp
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