映画レビュー スクリーンから溢れ出る猛毒にすっかりやられる『冷たい熱帯魚』




すげぇ・・・・スクリーンから溢れ出る猛毒にすっかりやられてしまいました。『猛毒エンターテインメント』はダテじゃない。

1993年に起こった埼玉愛犬家殺人事件や複数の猟奇殺人事件からインスパイアされた衝撃作。それがこの『冷たい熱帯魚』だ。
主人公、社本(吹越満)は小さな熱帯魚店を経営している。娘の美津子(梶原ひかり)は、若くて巨乳の後妻、妙子(神楽坂恵)を嫌い、社本と妙子の関係もすっかり冷えきっている。家庭は崩壊寸前である。そんなある日、ひょんなことから巨大熱帯魚店のオーナー村田(でんでん)とその妻、愛子(黒沢あすか)に出会う。社本は村田に誘われ、一緒に高級熱帯魚のビジネスを始めるのだが、社本は後戻り不可の血と暴力と狂気の世界に引きずり込まれていく。
名バイプレーヤー、でんでんが村田を怪演。その人の良さそうな風貌からは想像できない鬼畜っぷり。ニコニコ笑顔で死体を解体だ!まさに最狂の殺人鬼である。
そんな彼が繰り出す豪快なマシンガントークに観客も思わず引き込まれてしまう。あまりにもオリジナルすぎる語録の数々。しかし、時々、「今日やることは今日やる」などと、「まさにその通りでございます」としか言いようがない真っ当なことを言うので、たちが悪い。
今日やることを今日やらないで、社本のように現実から逃げ、適当に生きていると、いつの間にか血でドス黒く染まった水槽の中。しかも、すぐ横をデッカい魚がスイスイ泳いでいる。こうなったら、もう遅い。逃げられない。
村田は巨大な熱帯魚店を経営し、従業員は若い子だらけ。愛車は真っ赤なフェラーリ。女とヤリたくなったらヤる。邪魔な奴がいたら殺る。一見、恐いものなんて何もないように思える。
でも、彼は本当に人生に満足しているのか?村田が痛みを感じたときに初めて見せる、弱さ。実は村田もちっぽけな熱帯魚の一匹で、この世界で生き抜くためにモンスターを演じるしかなかったのかもしれない。あぁ、なんて素晴らしい世界なんでしょう。
生きるって素晴らしい。愛って素晴らしい。そんな幻想を観客に抱かせる映画が多い中で、この映画は残酷なこの世界の事実を観客に突きつけ、「テメェはどう生きるんだ!?」と胸グラを掴んで座席にゴッツンゴッツン頭をぶつけながら問いかけてくる。場内が明るくなる頃にはもうフラフラだ。でもずっとこの暴力と狂気と絶望の世界に浸っていたい。そう思う。よし、もっかい見に行こう。そこまでこの映画が心を惹き付けるのはなぜだろう?それはこの映画の猛毒と映画の力を信じている人たちの極限を目指す強い意志がスクリーンから溢れ出ているからだ。
「用意は、いいか」
「ああ、いいとも」
レビュアー:ミヤヂ
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映画『冷たい熱帯魚』
1月29日(土)より、テアトル新宿ほか全国順次ロードショー


監督・脚本:園子温『自殺サークル』『愛のむきだし』『ちゃんと伝える』
出演:吹越満 でんでん 黒沢あすか 神楽坂恵 梶原ひかり 渡辺哲
英題:COLD FISH 
2010/日本/カラー/35mm/146min/アメリカンビスタ/DTS-SR/R-18
製作・配給・宣伝:日活


公式サイト:http://www.coldfish.jp/
(C) NIKKATSU

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