【レビュー】“日本の男を演じたい”高倉健の長編ドキュメンタリー映画『健さん』

映画『健さん』高倉健

「漫然と生きる男ではなく、一生懸命な男を演じたい」(高倉健)

2014年「日本のクリント・イーストウッド死す」と米国紙に報じられた役者・高倉健の輪郭を捉える長編ドキュメンタリー。本作は、テレビなどで多く語られた高倉健伝説に偏ることなく、役者としての高倉健を丁寧に追っていく。

高倉健が圧倒的な支持を得る東映の3つのシリーズ『日本侠客伝』(1964年〜、全11作)、『網走番外地』(1965年〜全10作)、『昭和残侠伝』(1965年〜全9作)。『日本侠客伝』と『昭和残侠伝』は、東映時代劇の流れを汲む任侠映画で、時代はひと昔前に設定してあるが、近代化や資本主義がテーマとして扱われている。

「彼は“サムライ”であり“若者の代弁者”であり“アウトサイダー”だった。東京オリンピックの前後に、近代資本主義に背を向ける(川本三郎氏)」設定で、多くの観客は自分の「弱い立場を投影して、負けても屈せず(映画館支配人)」権力に立ち向かっていく健さんに熱狂した。

映画『健さん』高倉健

権力側からの戦後の仕上げともとれる、東京オリンピックは1964年。同じ60年代に安保闘争や全共闘運動がある。その60年代初頭、東映は時代劇に苦戦し、『人生劇場 飛車角』で任侠映画に活路を見出し、高倉健主演の作品が量産される。

日本が豊かな繁栄に向かって突き進んでいく中、高倉健は義理と人情を背負った任侠映画のヒーローを演じ人気を博した。その人気を、貧しさや矛盾を内包しながら経済成長の基盤になった労働者たちが支えた。任侠映画の“殴り込み”は、日ごろ抑圧されている人たちの“夢”だった。時代に求められ、多くの人の“夢”を受け止めて形成されたスター、高倉健。

日本では伝説の映画スターとして認識されている“健さん”を、国内外の関係者が語ることによって、人間であり役者である人物・高倉健の輪郭を捉える。
“健さん”ファンだけではなく、映画ファンの胸が熱くなるエピソードが満載。

ジョン・ウーが「(高倉健の映画を)18〜19歳の頃、たくさん見た」「男の中の男だと思った」「チョウ・ユンファ、ニコラス・ケイジ、トム・クルーズにも、高倉健を念頭に置いて演出していた」「ジャン=ピエール・メルヴィルの『サムライ』を高倉健で撮りたかった」「(本人が亡くなった今)彼の過去作のリメイクを作りたい」などと語る。

『ザ・ヤクザ』の脚本家ポール・シュレイダーは、高倉健の任侠映画の素晴らしさについて、また『Mishima: A Life In Four Chapters』で三島由紀夫役を高倉健に依頼していたエピソードについて語る。

マイケル・ダグラスは、『ブラック・レイン』での共演について語りながら、高倉健の出演作数に「205本!」と驚き、高倉健が父カーク・ダグラスの教えを体現していたことを語る。

マーティン・スコセッシは「『沈黙』での出演を依頼しており、個人的なやり取りがあった。高倉健を世界に伝えたかった」と語る。

胸がいっぱいになるドキュメンタリー映画。「いよっ、待ってました!」

[文:池口芙有子]

映画『健さん』高倉健

『健さん』
2016年8月20日(土)全国公開
製作・配給:レスぺ
(C)2016 Team “KEN SAN”
公式サイト:kensan-movie.com

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