映画レビュー アカデミー賞主演男優賞最有力候補! 『英国王のスピーチ』




ヴェネツィア国際映画祭で男優賞を受賞した『シングルマン』で、昨年アカデミー賞主演男優賞にノミネートされた英俳優コリン・ファース。昨年のアカデミー賞では惜しくもジェフ・ブリッジスに賞を譲ったが、今年はトム・フーパー監督作『英国王のスピーチ』の演技で各映画賞の主演男優賞を総なめにし、現在彼は迫る第83回アカデミー賞主演男優賞の最有力候補と言われている。
コリン・ファースが『英国王のスピーチ』で演じるのはジョージ5世(マイケル・ガンボン)の次男アルバート王子(ヨーク公)。緊張すると吃ってしまう吃音症を患っている彼は大英国展の閉会式でのスピーチで大失敗をしてしまう。何人もの言語専門医に会っても一向に吃音が治らなかったアルバート。献身的な妻のエリザベス夫人(ヘレナ・ボナム・カーター)は彼に、ライオネル(ジェフリー・ラッシュ)という新しい言語障害の専門医を見つける。そのオーストラリア生まれの医師はアルバート王子をバーディという愛称で呼び、医師と患者ではあるものの、緊張しない関係を築こうとする。
アルバート王子の吃音の問題は彼の内側にあると察したライオネルは、王子の口から彼に何があったのか聞き出す。幼少時、左利きで膝も曲がっていたアルバート王子。ジョージ5世はそれを無理矢理矯正させ、兄エドワード王子(ガイ・ピアース)はそんな弟をいつもからかった。家庭内で圧迫されコンプレックスと共に育ったアルバート王子の吃りは悪化し性格も内気になっていってしまったのだ。アルバート王子が家庭で半ば虐待を受けていたと知ったライオネルは王子のために型破りな治療法を施す。
世界が第二次世界大戦に突入しようとしていた時、ジョージ5世が死去する。王の死後、エドワード王子がエドワード8世として王位に就くが、「王冠を賭けた恋」で知られるアメリカ人のバツイチ女性ウォリス・シンプソンとの結婚を取ったため、王位はアルバート王子に継がれる事になる。そしてジョージ6世(アルバート王子)の誕生となるが、人前に出るのが苦手で、本当は王になんてなりたくなかった彼。王は吃音症を克服しナチスとの開戦で動揺する国民から頼られる存在になる事が出来るのか。
主演のコリン・ファースを始め、共演者のジェフリー・ラッシュとヘレナ・ボナム・カーターの2人も現在第83回アカデミー賞にノミネートされていて結果が気になる本作。難しい役に挑んだにも関わらず見事役をものにしたファースのカリスマ性溢れる素晴らしい演技、登場した瞬間から目が釘付けになってしまう電撃の様なラッシュの演技、『アリス・イン・ワンダーランド』の赤の女王とは対称的な優しさで包み込むボナム・カーターの演技、とこの3人の演技合戦が本作の醍醐味だ。
物語の中にジョージ6世が家族とナチスに関するフィルムを観るシーンがある。その時の王の目は敵を見る目ではなく、寧ろ羨望の眼差しをヒトラーに向ける。何を言うかが問題ではない、彼の言葉には人々を導く力がある、自分もああいう風に話す事が出来たら。まるで王がそう感じているかの様なシーンだ。人前で話せる様になりたくて吃音症を治したかったジョージ6世。長年コンプレックスに苦しんだ彼が、それを治すのではなく、それと共に生きる=自分自身を受け入れるという描き方に徐々に変わってゆく本作。きっとそれがこの映画が多くの人に感動を与えている理由だろう。
レビュアー:岡本太陽
『英国王のスピーチ』
2月26日、TOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開
(C)2010 See-Saw Films. All rights reserved.
公式サイト:http://kingsspeech.gaga.ne.jp/

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