映画『men's egg Drummers』公開記念 山口雄大監督インタビュー



7月16日から公開される映画『men’s egg Drummers』は、渋谷センター街のギャルやギャル男を中心に絶大な人気を誇る雑誌「men’s egg」「egg」を題材に、ギャル男&ギャルがアツい友情を繰り広げる青春映画。本作の監督を務めたのは、『地獄甲子園』『魁!!クロマティ高校』など漫画の世界をそのまま実写化するという荒業を事もなげに実行して度肝を抜き、今年、2011年も『極道兵器』『DEADBALL』と続々と話題作の公開が控えている山口雄大監督。エンタジャムでは、このミスマッチな組み合わせがどのようにして成立したのか。そして、山口監督が意図したものは何なのかを聞いてきました。

—山口監督がこの作品の監督をされていると聞いて、正直、驚きました。監督の仕事を受けた経緯を聞かせてください。
山口監督「 実は、この作品の話をいただく前に、本作のプロデューサーと全くこの映画の話とは全く関係のない雑談をしていて(笑) そうしたら突然、プロデューサーからこの作品の話がでてきたんです。 最初は何故オレに?と思いました(笑)僕はどの作品でもやり方が風変わりなだけで、根底は青春映画、学生生活をデフォルメして描いているつもりなんですけど、プロデューサーは僕の今までの作品を見てくれていて、そういった僕の作品の純粋な部分、”青臭い”感じがこの作品に合うと思ってくれたみたいです。
僕としても、今言ったような見地にたつと、今まで撮ってきた作品と、この『men’s egg Drummers』も基本は同じだなと思ったんです。つまり、『魁!!クロマティ高校』の個性的なキャラも、この作品に出演した子たちに置き換えてしまえば、それは同じだなと。勿論、クロマティ高校のようなデフォルメしたキャラにしてしまうと、お客さんも限られてしまいますけど、この映画に出ている子たちくらいのキャラであれば、すんなり観てもらえるお客もいるんじゃないかと思って引き受けました。なので、あまり(今までの作品と)別のものを撮っているという感覚は無かったです。」
—不安はありませんでしたか。
山口監督「(とにかく)やってみようとう感じですね。自分にそういう作品が撮れるのかもわからなかったので。周りから、コイツは変った映画しか撮れない奴と思われている節があって(笑) それは自分がつけたイメージでもあるのですけど。ちょっと、違ったものにチャレンジしてみようかなというのもありました。『極道兵器』や『DEADBALL』で変ったことは、やりきってしまった感じもあって。だから、この作品を撮ることで、うまくバランスがとれるかなと思いました。」

—脚本はどのように作っていたんですか。
山口監督「僕が準備に入った時には既に脚本があったんです。ただ、みんなが満足できるものではなくて。撮影までに書き直しを進めていただいていたんですけど、その間、僕は別の作品で忙しくてちゃんとチェックもできないまま撮影1ヶ月前になって。どうもこのままだと駄目だということになって。それで増本さんに「3日で直して欲しい」と無理にお願いして(笑)」
—作品を拝見して面白いなと思ったのは、ギャル男というキャラクターである彼らが、最初からスッと和太鼓に入っていって、あまり最後までブレない。逆に神主の跡取り息子、啓太が、彼らの生き方や、和太鼓という世界に歩み寄っていくという構成が面白かったです。
山口監督「それはきっと、早い段階からギャル男たちとつきあわせてもらっていたからだと思います。実は、彼らは基本的に役者をやりたい訳ではないんです。オーディションの時、「演技に興味ありますか?」と彼らに聞いたんですけど、「ありません」って答えるんです(笑) そんな感じだったので、どうしようかな・・・って正直思いました。そこで、僕は、彼らと接していくことが大事だなと思って、できるだけ彼らに接する機会を作ってコミュニケーションを取るようにしました。彼らと接していくと、僕が最初に思っていた、彼らのファッションも全て、女の子にモテるためにやっているとんだろう的なギャル男のイメージとは違って、しっかりしているんです。
例えば、彼らが言ったのは「僕のファッションを見て真似をして欲しい。真似する人が増えて、自分のブランドを持って、自分がデザインした服を作りたい。」 それって、置き換えてみると、僕が映画が好きで、映画をやりたいと言っているのと大して変わらないと。それがただファッションになっているだけで。この人達は思っていたよりしっかりしているなと、徐々に思っていったことが反映されているのかもしれないですね。」
—板尾さんのキャスティングは監督の意向ですか。
山口監督「先程言ったように脚本の直しがバタバタして、板尾さんが演じることになった神主の親父が、一体何を考えている人なのか、ということを描くところまで脚本を直しきれなかったんです。でも、撮影はしなくちゃいけない。そうすると、この分からない役が成立する人じゃなきゃ駄目だったんです。だから板尾さんなんです(笑) 板尾さんは、ポリシーがあるんだか、ないんだか分からない役を演じると非常に説得力があって、あの人だったら許されるものがあって。おそらく、他の方がやったら、よくわからないキャラクターになったと思います。ちゃんとしたセリフがなくても、板尾さんだとなんとなく説得力がでる。必要に迫られてというのと、演出的に最も効果的だと思ったので出演をお願いしました。あと、今回現場では、先程も言ったように、役者をやりたくない人たちがキャスティングされているので、(心の)拠り所が欲しかったんです(笑) 」

—普通は考えられないですよね。役者をやりたくない方と映画を作るなんてことは。
山口監督「そうですね(笑) でも、逆に闘志は湧きました。」
—お話しを伺っていると、ギャル男の子たちが、映画に対して不真面目な感じがしますが、でも、実際に映画を見ると、逆に若手の俳優さん特有の”気負い”みたいものがなくて、すごく演技が自然で好感が持てました。この作品は、いい意味で薄口な感じがします。
山口監督「彼らの演技は、芝居というより、ほとんど彼らの”地”です。僕は、放っておくと、どんどん(演出が)濃くなるんですよ(笑) 濃くなって人知の及ばぬところにいってしまうので、それは今回はやっては駄目だと思っていました。
なので、変な表現ですけど、意図的に薄くしました。彼らが、演技に興味がないって言いましたけど、僕は彼らが太鼓を練習しているのを、ずっと見ていました。最初は、正直言って、彼らは(練習を)頑張らないと思ったんです。駄目だったら、それはそれで、編集や顔のアップとか、”技術”でカバーするしかないと思っていたんです。
でも、技術でカバーするとなると、カット割が多くなるとか、いろんな弊害がでてきてしまう。それはできるだけしたくないので、出来る所まで彼らのレベルを上げていこうと思いました。
そんな感じで練習していくうちに、どんどん上手くなっていったんです。映画の最後に演奏する太鼓の曲は、4分半くらいあるんですけど、初心者がフルに演奏するのは難しいだろうと太鼓の先生も言っていたんです。でも、練習していったら、それが出来てくるんです。それを見ていて、こんなに頑張っているんだったら、ちゃんと撮ってあげたいと思いました。僕は昔から天の邪鬼な性格なんですけど(笑) 今回、この子たちの頑張りをちゃんと撮りたいという純粋な気持ちになったことに、自分でも驚きました。彼らと一緒の目線で、彼らと一緒に僕も頑張るという感じが、作品の出ているのかなと思います。あと、狙いとして、例えば『BECK』みたいなものにしたいというのはありました。音楽ものでは、別のアプローチとして『ザ・コミットメンツ』みたいなものもあるんですけど、『BECK』では、ウェットな部分は拾わないで、敢えて表層の軽い部分だけをクローズアップしているじゃないですか。変な言い方なんですけど、そういう表層の部分を拾うというのをやりたかったんです。掘り下げていくのではなく、表面の部分をフワっと掬うみたな感じです(笑) 」
—力が取れた、素直な感じはそこからきているんですか。
山口監督「そうですね。今までだと何か力が入り過ぎて、自分を主張しようとするんです。そういうものから離れてみようというのがすごくありました。」
—今後、もっとこういった人間ドラマをメインにした映画を撮りたいですか。
山口監督「合コンに行った時に、女の子が知っているような映画を撮りたいですね。別にモテたいからという意味ではないすけど(笑) 極端な映画ばかり撮っていると、疲れるんですよ。僕は運がいいというか、最初から自分がやりたいものだけを撮ってきているんです。そういう意味では恵まれているんですけど、ちょっと待てよと。今、僕が得意としている作品が好きな人はいるし、非常に感謝もしているんですけど、ただ、そうではない人達に向けて僕は何かできるんじゃないだろうかとも一方で思うんです。今後、どうしたいのかと言うと、理想は、今までやってきたものと普通の映画の要素をミックスさせてものが作れればいんですけど、それを目指しつつ、今まで僕の映画を観ていなかった人たちに向けて何ができるかというのがあります。僕と比べてしまうのも何なんですが、『死霊のはらわた』シリーズを撮ってきたサム・ライミが、『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』を撮ったじゃないですか。みんな、エーッ!って驚いたと思うんですけど。あの時にサム・ライミがインタビューで「僕は極端な映画ばかり撮っているので、人間ドラマを一回経ないと駄目だと思う」と言っていた記事を見たんです。この人ですら、こんなことを考えているんだと感銘を受けたんです。その後、『ギフト』を経て『スパイダーマン』を撮るんですけど。多分、『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』を経たから『スパイダーマン』にならないんです(笑) なので、今回の作品は、私にとっての『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』ということにしておいてください(笑)」
—今後の作品を楽しみにしています。ありがとうございました。
『men’s egg Drummers -メンズエッグ・ドラマーズ-』
7月16日(土)シネマート六本木、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開!
配給:角川コンテンツゲート
(C)2011「egg×mgg」製作委員会
http://eggmgg.jp/

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